191話問い
心臓がバクバクいった。
アウトドアをしているし、人の死体は、それなりに見てきたが、
レイの代わりのアレは、なんとも、不気味に感じた。
もう、一刻も早く逃げたかった…が、北川の声がそれを止める。
「池上さん、外に出ないで。」
北川が、換気口をガムテープで止めながら叫んだ。
寸でのところで私は、扉を開かずにすんだ。
「どうしたんですかっ!!」
私は恐怖の混ざった不安に突き上げられながら叫んだ。
北川は、冷静に目張りを終え、それから、私の近くに歩みより、温室の灯りのスイッチの場所へ立つと、静かに電気を消した。
「いるからです。」
い、いるって………なにが…
私は一気に暗くなる温室のガラスの壁にその何かを見た。
花の香りか、レイだったモノの臭いに誘われたのか…小さな甲虫がびっしりと張り付いている。
私はよく見ようとドアの横のガラスの壁にスマホのライトを当ててみた。
一瞬、それがなんだか分からなかった……
甲虫ではなかった…布切れのように見えたそれが、シャツらしいと思ったときには、悪い予感が的中した……
服らしき布を上に照らして行くと、そこには、長山の顔がぼんやりと反射していた。
気絶したかった……
むしろ、気絶をしてしまいたかった。
長山は、恐怖をあおるような陰影を纏いながら、恨めしそうに私を見ていた。
私はただ、見返していた。
それしか出来なかったと言うのが正解だ。
彼は、虫にたかられながら、私に問いかけていた。
はじめはよく聞こえなかった…
が、しばらくすると、耳が慣れてくる。
………ですか…。
「どうして、雅苗さんを捨てたのですか?」
長山の言葉の意味を…私はしばらく理解できなかった。が、それが、さっき投げたミイラだと思いついて、恐怖で背筋が逆立った。