表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラサイト  作者: ふりまじん
秘密
193/202

187話三つ巴

「なんで……私の為に動いてくれないの?」



うっすらと覚醒する意識の中で、草柳レイが叫んでいた。


ついでに、揺すられている。


彼女はヒステリックに叫びながら、結構、乱暴に私を揺らしていたが、若い娘の細い腕で揺するので、その乱暴さすら、なんだか、心地よく感じる自分がいた。


このまま…死んでしまうのもいいかもしれない……


あまりの心地よさに、ふやけた考えが頭を埋め尽くす。


が、そんな私の極楽を北川の野太い声が吹き飛ばした。


北川さん、生きていたんだ!


私は、温室の砂利道から上半身をはねあげる。


「き、北川さんっ!」


私は叫んだ。が、寝起きなのでなんとも、格好のつかない間抜けな声になったが。


北川は、私の声に反応してニヒルに笑った…。

その顔に、私は何か、よくわからない違和感を感じていた。


何で…私は、彼を北川だと思ったのだろう?


人の認識が苦手な私が、寝ぼけながら、それでも、声だけでそう感じた、その理由が、私を不安にする。


彼は、確かに、北川だが、しかし、さっきの北川と何かが違って感じた。

いや、北川と言うより、一般人…と言うカテゴリーから外れた存在のような気がした。


彼を見ながら、私は彼の存在にのまれて動けなかった。

北川は、硬直する私を気にせずに近づき、私の近くで起き上がろうとするレイを一瞥した。


(°∇°;)もしかして、私が、いきなり起き上がったから、私にまたがっていた草柳さんが転んだ…の?

ふいに心配になる私の顔を北川は、ごつい両手で押さえ込む。


真剣な顔で私の瞼をこじ開けて、ペンライトで入念に観察する。


ごつい…と感じたが、それは女と比べたからで、男のものだと思うと、とても手入れが行き届いた、形のよい手だと思った。



「それは…私の獲物よ。」

草柳レイは、立ち上がりながら不機嫌そうに北川に言葉を吐き捨てる。


え?(°°;)


獲物…なんて言われた事や、さっきまでの穏やかな性格と真逆な、レイのドスの効いたセリフに息を飲んだ。


が、北川は気にすることなく、私の目をペンライトを当てながら丁寧に調べ、それから、無邪気に私に微笑み、こう言った。


「君は、大丈夫。」と。

「本当に大丈夫かしら?」


草柳レイは、獲物を奪われた野良猫のように、北川から少し距離を置いて威嚇をする。

北川はその様子を悲しげに見つめていた。


レイは、警戒を解かずに北川を見つめていた。


「ああ、少なくとも…君は無力だよ。」

北川は悲しそうにレイを見た。

レイは、軽く首をかしげて北川を見た。


そんなレイに近づいて、北川はこう聞いた。

「昆虫ポルックウイルスをしってるかな?」



昆虫ポルックウイルス(°°;)


私は、この話の先が見えた気がした。


昆虫ポルックウイルス…

これもまた、昆虫の幼虫に寄生する。

が、彼らが我々研究者に注目されているのは、味方としてである。


寄生蜂と同じ種に寄生するポルックウイルスは、寄生バチが、寄生する前に殺してしまうタンパク質を生成する。


自分達の寄生のために、宿主を守るのだ。


まあ…宿主からしてみれば、どちらにしても、自分を利用する、寄生虫には違いないのだが。



「それがどうしたの?彼らの遺伝コードなんて、とっくの昔に突破したわ。」


なんだか…ゲームの話のようだが、そうではない。

ポルックウイルスが寄生バチを除去するシステムを、東京農工大学をはじめとして、世界の大学と共同研究が始まっている。


しかし…突破…してるのか…


私は、研究途中の先生達を思って切なくなる。

こんな事が無かったら、北宮雅苗もこんなプロジェクトに参加していたかもしれない。


まあ、人間にも

蚕などを寄生蜂から守りたい派と

青虫から農作物を守りたい派で意見は別れるのだろうが。




「いや、ポルックウイルスは、例え話だよ。

突破…君の例えを借りるなら、君たちも『突破』されたんだよ。


引き込もるにしても、三千年はあまりにも長かったね。魚座に春分点が移る頃、新たな驚異に見舞われて、人類はバージョンアップをしたのだよ。」

北川は、まるで自分が見てきたように自信満々に0世紀の話をしていた。


「バージョンアップ?」

レイは、皮肉な笑いと共に言った。


「ああ、新たな驚異が世界を包んだ。」

北川の言葉に、頭の中で知らない記憶が流れて行く。

それは、太古のウイルスと宿主の人間と、新たな寄生主の物語であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ