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パラサイト  作者: ふりまじん
秘密
192/202

186話方舟

とても気持ちがよかった。

すずしくて、穏やかな時間が流れる。


しかし、それは地球の生命の歴史のような壮大な流れだった。

穏やかに、しかし、大量の情報が大河のように音もなく流れるのを見ていた。


生物は、一度として同じ姿はしていなかった。

それは、月と地球の距離が、ゆっくりと離れて行くように、

太陽がゆっくりと膨張をして行くように、

人が老いるのを止めることが出来ないように、


すべては少しずつ成長し、終わりへと向かうのだ。


私は個として存在し、

家族と言う複合体の一部であり、

国と言う大きな生物郡の一部分だ。



気がつくと、私は上空から世界を見ていた。

私は風で、生物の体を旅をする。

土に生まれ、虫に宿をかり、時が来れば鳥に補食され、遠い土地の水に馴染む……



長い…長い時を流れながら、私は世界を、生物を巡る。


そうして、老いに気づくのだ。


もう…縄文杉の森は作れない。

動物も…年老いて土にかえる。


そして…再び、砂漠へと戻るのだ。




物悲しい夢の中で、若葉溶生の『輪廻円舞曲(ロンド)』が流れていた。


我々は、地球(さばく)より出でて、

火星(さばく)へと還るのだ。


凍える大地は、太陽の膨張と共に温まり、

そして、我々は、新たな営みを始めるのだ。


その為に…私は変わらねばならない。


より、強靭で効率よく酸素を取り込む肺を…

より高スペックの心臓を…


寒暖に耐えうるタフな体を………



そして、情報を多角的に分析できる脳を……




私の体で、大腸菌が歌っていた。

それは、昭和に流行ったサイボーグヒーローのアニソンだった。


70年代、マッドサイエンティストに改造されるヒーローの物悲しい話あった。

人体実験の果てに、彼らは超能力を得るのだが、


現実世界で、実験に使われたのは大腸菌である。


1972年スタンフォード大学から画期的な論文が発表される。


動物のDNAとバクテリアのDNAを酵素を使って試験管内で繋ぎ会わせることに成功したのだ。


これは、人類の…地球の生物の転換期になった。

これによって、様々な種のDNAを人工的に繋ぎ会わせ、大腸菌内で増やすことが可能になったのだ。


そして…大腸菌はものを言わず、粛々と増殖を繰り返す…


それは研究者に大量のサンプルを提供することになる…。


人のDNAを…



大腸菌は、その事に不平を言ったりはしない。

が、彼らが、人に従う事もない。


ただ、増殖し、自分に有利な『何か』が巡るのをまつ。


そして、それが来たら、歌うのだ。

仲間にそれを伝えるために……


大腸で増え、糞として排出され、それをスカラベが丸くする。


輪廻円舞曲(ロンド)』が頭を巡る。


オレンジ色に輝く雅苗の顔が雌ライオンになる。

それは、エジプトの古代神セクメトの姿でもあった。


彼女は太陽神ラーの復讐者。

殺戮の女神…


伝染病を司り、毒の風を吹かせ、人々を殺して行く……


セクメトの操る風に、ウイルスが集う。

そして、大地は地で染まり、闇を旅するスカラベが糞を丸めて地平線を目指す。

やがて、スカラベは水辺に到達し、そこでネフィルトゥムへと姿を変えた。


ネフィルトゥムはうたう


蓮の花がひらく…

すべての罪の浄化の時がきた…


ネフィルトゥムが蓮の花びらを撒くと、地下から水が溢れだし、砂漠が美しい湖にかわった。



ファラオが民衆に語りかける


全てを諦め、己が命を守るときがきた。

全ての生き物の種を集めよ。


プタハ神のもとに、方舟を作り、旅立つ時が来た…


ファラオは、ほどなく亡くなり、そして、その体を方舟に三千年の旅をする。


それは、人と言う名の方舟だった。


乾燥し、安定した環境で、あらゆる土地から貢ぎ物と共にやって来た菌類もまた、ファラオと共に長い眠りにつく。



空を舞う菌類(バー)に三千年の月日を変わらず保持した遺伝情報(カー)を渡すために…




気持ちのよい悪夢であった。

シュールな世界の中で、若葉溶生の『溶解』を聴いていた。



夢の中で北城が私に話しかける。


「我々は、ただ、病気を克服してきただけなのだよ。

人間もまた、遺伝子の乗り物に過ぎない…ドーキンスの説は正しいと、21世紀には証明されるに違いないよ。我々は、等しくDNAの方舟なのさ。」



私は北城の説を黙って拝聴していた。


学生時代、北城と話していたリチャード・ドーキンスを懐かしく思い出しながら。


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