182話妹よ
ニュータイプ…
私は、雅苗とレイに年差運動で突っ込みを入れられながら、昭和の世紀末サイキック漫画が頭のなかを走馬灯のように走り去るのを見つめていた。
少年時代の好物と、美人2人にちやほやされ、突っ込みを入れられる…
その状況に、仕事仲間だった大学生が見せてくれた流行りのアニメの画像を思い出した。
なんでも、最近は、私のようなオッサンで無職とか日雇いの男が不幸な死に方をして、異世界で美人に接待される話が流行りなんだそうだ。
そして、ネットは若者が、書籍は私のような中年が買うんだそうだ。
現実逃避の夢…なのだろうか?
それなら、私も…そんな状況を妄想してるのだろうか?
一瞬、7年前の若葉溶生の状況を思い出す。
彼は、言葉を発することもなく、精神を荒廃させた。
私も、昼に倒れて、今、怪しげな妄想に浸っているのかもしれない…
自分の好みの妄想をして…
思い返せば、美人の助教授が、私を『先生』なんて言うはずがないんだ。
そう考えると、背筋に冷たい何かが流れて行く。
若い娘の妄想でキャッキャうふふと笑う私を、北城が観察する……
考えるだけで地獄だ。
「覚悟が決まった見たいですね。」
私が静かなのを確認して、レイが上目使いに私に声をかける。
「あなたの計画通りにはならないわ…。なぜなら、池上さんは発見しているのだから。」
雅苗が興奮して私の前頭葉をオーバーランしながら叫ぶ。
私は、オレンジ色の雅苗を黙って観察する。
これで、レイが返事をしたら、もう、これは私の妄想の世界だ。
レイは、静かに私を見つめていた。
「もう…何を言っても後戻りは叶いません。」
レイがしびれを切らしたようにこちらに向かってくる。
私は、慌てて後退りししながら叫んだ。
「ま、待ってくれ、覚悟を決める前に、これだけは聞いておきたい。
なんで、私なんだ?
まさか、私が人類を救う特別特別な力を持っていて、選ばれた…なんて言わないだろ?」
私は笑った。
漫画じゃあるまいし、レイも笑って否定をするに違いない。
それて、怯んだ隙に逃げよう。
私は、なにもかも、嫌になってきた。
コーヒーでも飲みたくなる。
ブラックが好きだが、こんなときは、ミルクたっぷりのカフェオレを。
そんな私の気持ちを知らないレイは、私の言葉に、一瞬、黙ってから、事も無げにこう言った。
「そうです。人類約70億人から、あなたが選ばれたのです。」
(゜Д゜)…
レイの言葉に、逃げる気力も失って地面に伏した…
ああ…きっと、今頃、私は、近隣の病院で熱中症とか言われながら、意識を失っているに違いない。
70億から選ばれたとか… ウイルス進化論とか…
そんな馬鹿げたことしか最期に思い浮かべずにごめんな。
私は、呼び出しを食らわされた妹を想像して涙が出そうになった。