17話 溶解
軽い仮眠は、甘く穏やかなひとときをくれた。
耳元では、若葉溶生のメドレーが流れている。
今回のアニメ『シルク』の挿入歌『溶解』も入っていた。
太鼓の規則的な低音が深い闇の向こうから微かに響いてくる。
琵琶の不規則な旋律が、捨聖の念仏のように物悲しくスローな独奏で近づいてくる。
それは足音のような規則的なカスタネットの音をつれ、近づくごとに高音を、和音を含んでテンポ良くやって来る。
捨聖
念仏を唱えれば救われると説き、踊りながら諸国を行脚した、鎌倉時代の僧侶をなぜか想像した。
が、琵琶に二胡が加わり、ビオラ、バイオリンに主旋律を渡す頃には、ケルト音楽のような西洋風な音に変わり、激しいリズムを刻みながら電子音楽と融合してゆく。
竪琴の高い音が、女神の神託のように厳かな独奏を奏で、やがて、消えていった。
最近の音響技術なのだろうか?
はじめは森で聞いていた音が、しまいには大理石の神殿にたたずんでいるように感じさせる…反響音。
そして、やってくる静寂…
私は、催眠から目覚めた人のように、曲が終わると気だるい覚醒感に目を開いた。
遮光カーテンの隙間を盗んで昼の光が私にキラキラと笑いかける。
薄暗い雅苗の部屋に、少女の彼女の残像が踊るのを見た気がした。
それは、ソファに寝ている私に近づいて、少しすねるように長く大きな手で私の右頬に触れてくる。
「寝てますか?」
低く甘い声に私は、朦朧としながら笑いかけ、そして、それらが現実だと悟って一気に上半身を持ち上げた。
「あっ!秋吉くん!!」
突然の来客に私は、すっとんきょうな奇声をあげた。
いや、なんで、どうしているんだ?秋吉?
混乱する私に反して、秋吉は余裕で笑い、遮光カーテンを開いて光を部屋へと充満させた。
「おはようございます。ランチ、一緒にどうですか?」