173話アミメット
「太田務…彼は、都市の衰退と感染症について調べていましたわ。
1912年あたりから、軍の人事に動きがあり、それに巻き込まれ、辞めて農商務省に転職したそうですわ。」
「農商務省…ですか。」
「ええ、現在の農林水産省に当たるところです。
当時、日本は利益を生む新たな素材を世界に求めていました。
海外に交流があり、フランス語とドイツ語が堪能な彼は、海外を中心に活動していたようです。」
雅苗の話を聞きながら、太田という人物を思い出した。
地下室で雅苗が話したモダンボーイ…
「で、彼は、何を発見したのですか?」
私は興味をひかれた。
彼は、雅苗の曾祖父にあたる尊行さんに『砂金』を売った男でもある。
「特別な発見は、ありませんでした。その時は。」
「その時?では、後に何かを見つけた…と、いうことなのですか?」
私は何かの予感に突き動かされるように前のめりで聞いた。
「ウイルスです。恐らく、宇宙由来の…。」
「宇宙ウイルス…ですか。」
ここは、笑うところだろうか?サラリとかわすべきなのだろうか?
「はい。と、言っても…発見は、随分と後の話になります。なにしろ、太田先生が譲り受けた装飾品の腕輪の石から発見されたのですから。」
「石…」
「いん鉄…のような、小さな石がついたアヌビスの護符についていたものです。そのウイルスは、感染すると心臓病になるそうです。
そこでアミメットと名付けられました。」
アミメット…
エジプト神話の神で、悪い死者の心臓を喰らう。
心臓を食べられた死者は楽園の地に永遠にたどり着けないと言われている。