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パラサイト  作者: ふりまじん
特別な仕事
17/202

16話 入眠

どうしたものか…


私はあてがわれた雅苗の書斎のソファーに横になりながら答えの出ない思案にくれた。


雅苗が失踪したのは2012年、それから7年の歳月が流れていた。


今頃、こんな物を探す事になったのは、昨年、2018年のスカラベのミイラの発見がやはり影響したようだ。

それまでは、ただの夢物語だと思われた、雅苗の不思議な研究について、長山も学問としての興味をもったらしかった。


長山の両親は、北宮家のこの別荘の管理人をしていたのだそうだ。

だから、雅苗の家族とも親しいらしい。


失踪から7年。

雅苗の夫、若葉溶生わかば ときおが、急に正気に戻って、音楽活動を始めるのも、

怪しげな番組の企画をする事も、誰の目にも不可解にしか思えないだろう。


そんな不信感を抱く私に長山はこう説明した。


「確かに、不可解(おかしな)企画ですし、失踪宣告をだせる7年目に正気に戻るなんて出来すぎていますよね?

でも、この7年、彼の治療に当たっていた医師は、若葉さんが詐病なんかじゃないと言うのですよ。

これは、何かの衝撃で、意識が一時的に正常に戻ったのでは無いかと言われたのです。

7年、7年ですよ?殆ど植物のように動かず、話さず、ボンヤリと生きるなんて、財産目当てでも、並みの人間には演じられないっていわれたのですよ。」

長山はそう言って、何かに向かってやれやれとため息をつく。

「確かに。7年、排泄などの生理現象までコントロールして無言を通すのは難しいですよね。」

そう話ながら、私は思った。

そうだ、仕事が少なくなったとは言え、腐っても若葉溶生。80年代のJポップシンガーなのだ。

そんなおかしな行動をしなくても、ギターと歌声があれば、今の時代、動画サイト等からも収益をあげられたに違いない。


「で、よくわかりませんが、何らかのきっかけで、あの日の事を思い出すのではないか、雅苗さんの行方がわかるのではないか?と言う仮説に行き着きまして、こうして、若葉さんの希望に会うように最低限の予算で番組を作成することになったのです。」

長山は、普段の仕事と同じように淡々と、この不可思議な番組について説明をした。


雅苗さんが見つかるのなら、彼女に黄金虫について聞いたらいいのに。


ふと、そんな考えが頭をよぎり、それをしない長山に、彼や親族が雅苗さんの骸を探していることを感じて胸が痛んだ。


「それで、私は、ここでモニターを見守ればよい、と、言う事なのですね?」

私は仕事の確認をした。

夜、南棟の1階で撮影が始まったときに、私は北棟の2階のこの部屋から、仕掛けられたカメラを観察し、ついでに、スカラベ探しをする。

「そうです。当時、何がおこったのか、まだ、正確に解明されていませんから、万一の事を考えて、少し離れたところで見守る人が必要なのです。」

長山の眉に少し緊張が走った。

それを見つめながら、私も、言い知れない不安が込み上げてくる。

「わかりました。」

私は最低限の返事だけをして混乱する頭を整理していた。


この北宮の屋敷は、大正から昭和にかけて建設され、軍医で生物学者の北宮尊徳先生と海外の製薬会社の所有物として戦後維持されてきた。


インターネットで噂される馬鹿馬鹿しいホラ話が、冷たい汗のように背中を伝って行く気がする。


溶生は、詐病なのか、それとも、なんらかの攻撃を受けたのだろうか?


彼の精神を壊したものの正体とは……。


不安になりながらも、好奇心も膨らんで行く。




私は考えすぎて頭が痛くなり、コーヒーを一杯作ることにした。


深夜の仕事に向けて、少し仮眠をとりたくなったのだ。


コーヒーのカフェインは脳を覚醒させるけれど、昼寝等の短時間の睡眠前に飲むと、逆に頭がスッキリとするのだ。


ただの思い込みかもしれないが、朝が早かったのもあり、いい感じの睡魔が襲ってくる。

3時から手伝いを頼まれているので、少し体を休めておかなくては。


私はコーヒーの香りに包まれて、ソファーで穏やかな眠りについた。


頭の中で7年前の雅苗を思った。


女性としての彼女の行動を推し量るのは難しい。

が、研究者として、大切な標本を何処にしまうのかは想像できると思う。


古代人がスカラベをどんな風に標本ミイラにしたかは分からないが、

高温多湿の日本において、防腐処置をしたとしても、保存場所には気を使うはずだ。

それは、尊徳先生が先に考え、雅苗がそれを引き継いでいるはずだと思う。


だから、直射日光の当たらない、温度と湿度が一定の場所をこの屋敷で探すことから始めよう。


私はそんな事を考えながら眠りについた。


それはあまりにも心地の良い入眠状態だったので、朝の仮眠とは言え、侵入者の気配に気がつくことが出来なかった。


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