155話疑惑
そうだった…北川は、私がこの、林の奥の怪しげな泉で硬化した若葉溶生を救出した時に立ち会っていた。
そして、意識を失おうとしている私の前で、固くなった溶生を美しいだの、芸術品だのと言って、綿棒を突き刺していたのだ。
長山も怪しいが、北川が正義のみかたと言うわけでもない。
「北川さん、取り込み中すいませんが、午後、この池に私と来ましたよね?」
私は、自分の記憶を信じて北川に迫った。
長山も怪しげだが、自らの身分を、警備官ではなく、ガーディアンなんて言うような人物は、それ以上に怪しい。
そして、私が泉から引き上げた…アレの行方も知りたかった。
北川は動じなかった。
と、言うか、私の精神状態を気遣うような、イタイ子供をみるような様子で私を見つめ返し、
そして、きっぱりとこう言った。
「いえ、私はランチを作ると、一度、家に帰りました。何かの間違えではありませんか?」
はぁ?( ̄ー ̄;)
私は混乱した。
じゃあ、あの温室の人は誰なんだ?
北城なのか?
私は頭に血がのぼるのを感じながら、必死で考える。
いや、北城ではない。
アイツは、ああ見えて、情に熱く、気絶する私や硬直する溶生を気にせずにサンプルをとったりしない。
いや、その前に、奴の美意識は虫に90%持っていかれている。
奴が若葉溶生を見て、「美しい」なんて、言うはずはないのだ。
「でも…私は…確かに、北川さん、あなたと温室で話したのです。」
私は、何か、込み上げる焦燥感に突き動かされるようにそう言った。