154話長山
初夏と言うには、禍々しい熱風が長山の方から流れてくる。
月明かりのベールに包まれて長山が我々に近づいてくる。
ズサッ、ズサッ…と、砂利を引きずるような音をならしながら。
その異様な雰囲気に圧されながらも、私は、立ちすくむしか無かった。
長山から、夏を思わせる甘い腐臭がした。
それは子供の頃、山で見つけた動物の死体を思い出させた。
長山は、こがれるように我々の方を目指して来たが、1m前に来ると、歩みを止めた。
濡れて色の変わった土を見た私には、北川が噴霧した何かによるものではないかと思わせた。
「透也さん……。なぜ、そちら側にいるのですか?
あんなに、楽しそうに私についてきてくれたのに。」
長山の声が、ゆっくりと、草柳レイの声に変わる。
めまいにおそわれたが、気合いで持ち直した。
いや、気合いと言うより、探求心と言うべきか。
私は、若葉溶生の行方が知りたかった。
「あなたにではない、私は、若葉溶生さんに着いてきた。彼は、今、何処にいるんですかっ。」
こんな時、威嚇するような怒声をあげたりしてない私の台詞は、なんだか、迫力なく、情けなくすら感じる。
脳裏に、午後の泉に沈む若葉溶生の姿を見たのを思い出した。
帆立て貝の様に硬化した溶生………
えっ…(°ー°;)
私は、あの時を思い出し、恐る恐る北川を見た。
無意識に北川から一歩離れる……
そう…あの固くなった溶生を連れていったのは、長山ではなく、
ガーディアンとか、希望に溢れる台詞を言った、北川なのだ。