153話お庭番(ガーディアン)
長い一瞬のその先で、変装した北城が私に話しかけてきた。
「私は北川です。池上さん。」
マジですか……( ̄▽ ̄;)
私は、混乱しながら北川の怪しげな顎髭を引っ張った。
もう…こうなると、失礼もへったくれもない。
何が真実で、間違いなのか…私にも知る権利がある。
いや、教えてくれ、頼むから。
と、言った気持ちで引っ張った。
結果は、つけ髭ではなかった。
私は、混乱しながら、北川に無礼を謝った。
「信用していただければ…それに…私も、身分を少しだけ偽っていましたから。」
北川は、穏やかにそう言った。
「………。何を偽ったのですか?」
私は、脅しの混ざったような前のめり声で聞いた。
「身分です。」
「み…身分………。」
馬鹿だとは思うが、一瞬、時代劇の旗本や副将軍が頭をかすめる。
「はい。確かに、この家の雑事、主に屋敷、庭の管理を任されていますが、私は、警備会社の人間…ガーディアンです。」
「お、お庭番…(゜-゜)」
時代劇の事など考えたからか、つい、口をついて出てしまう。
お庭番…時代劇の忍者ではなく、警備をしてると言いたかったのだろう。
「お庭番…(^-^)なかなか、素敵な言い回しですね。まあ…発音だけなら、それほど間違いでもありませんが。
それを言うなら、私は、ガーディアンです。」
ふふふと、北川は笑う。
はははっ…と、私は、放心の笑い浮かべる。
お庭番、お庭の番人…そう考えれば確かにそうだが、日本語で『お庭番』と言えば、8代将軍吉宗の作ったスパイ組織の意味合いになる。
ガーディアンは、守護者の事で、庭師…ガーデナーとかけた洒落だろう。
と、ここで、北川の様子に何となく違和感を感じた。
なんだか、よそよそしく丁寧な感じがする…
まるで、酔ってる人間を扱うような……
私は、ここで、自分のおかれた状況を飲み込んだ。
何かは分からないが、私は、毒物に犯されて判断力が鈍っていると思われているのだ。
吉宗だとか、お庭番とか、怪しいワードを思い出している場合ではない。
落ち着け自分。
月を見上げた。
銀色に輝く月を。
それを見て、自分が正常だと認識した。
軽く息を吐き出して、北川を見た。
「警備…ですか。」
私は、ふと、雅苗が厳重にこの屋敷を警備させていた事を思い出す。
「はい。かなり、特殊なカテゴリーに当たりますが、勿論、本来の意味合いでの『護衛』の腕も確かですよ。」
北川が、視線を長山に移して少し緊張する。
そこで、私も、少し頭を巡らせる。
長山……そう、私が付き従っていたのは、確かに、若葉 溶生だった。
いつから、長山にすりかわっていたのだろう?