151話協力
そうなのだ。スペイン風邪と呼ばれたインフルエンザは、多数の死者を出しながら、2年ほどでゆっくりと弱毒化するのだ。
日本では、まだまだ、山を越しては居なかったが、1919年は、流行り病のピークでもある。
そして、文化活動にも新しい風が吹き始める。
日本では、子供たちの為の読み物を作る…赤い鳥運動。
そして、西洋では、ルネサンス時代が再評価される。
頭の中を、北城と見た資料の数々が、整然と並びながら訴えてくる。
ボッチチェリの『春』と共に、彼の描いたダンテの地獄が脚光を浴びるのだ。
「何を…考えていますの?」
踊りを止めた私にレイは、話しかけてくる。
「昔読んだ…ウイルス進化論を思い出しましてね。」
私は、90年代を懐かしく思い出していた。
あの頃…エイズの流行と共に、ウイルス感染のメカニズムなどが知られるようになっていた。
大半は、おどろおどろしい、ゾンビ化する…ナンセンスな小説やゲームの類いではあったが。
「そうですわ。私達は、決して、人類の敵ではありませんわ。」
レイは、嬉しそうに微笑んだ。
そして、こう、続けた。
「寧ろ、絶滅を回避するように、協力するのです。 環境に適応できるように。」