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パラサイト  作者: ふりまじん
秘密
156/202

146話カマキリの夢

「進化…間違いではありませんか?」

私は鼻先に夏風を感じて胸をときめかせた。


若葉溶生が歌っている。

子供の頃を思い出していた。

カマキリを捕まえて、コップの水に尻をつけたことを思い出した。

こうすると、カマキリが寄生されていれば、ハリガネムシが尻から出てくる。

それは、寄生虫の駆除を目的としていたが、少年時代のグロテスクな好奇心も刺激した。

私は、カマキリの為と称して、幾度となく、そんな事をしていた。


しかし、それは、カマキリを弱らせる結果にもなる、両刃(もろは)の剣だった。


小さかった私は、ただ、水に蠢く何かに、恐怖と好奇心を刺激された。

悪い寄生虫を退治する、勧善懲悪(かんぜんちょうあく)の考えは、その後、弱り果てて死んでしまったカマキリの前に消え失せた。

ハリガネムシといた方が、長生きできたかもしれない。


そう、思いつくと、生きると言う事に、明確な善悪など存在しないのだと思い知らされた。


そして、現在(いま)、私は、カマキリの最期の夢を体現していた。


日が天頂で一際(ひときわ)輝く正午、水面の輝きに酔うように、フラフラとカマキリが、水の中にダイブするように、私もまた、池へと向かう。

子供の頃は、カマキリが憐れに見えたが、こうなってみると、こんな終わり方も悪くない気がする。


春先の休みの朝の布団の中のように、暖かくて心地よい気分につつまれて、好きな歌を歌って歩く。

それは、距離としては短く…相対的な時間は、人生のそれのようにドラマチックに感じた。


「すべては、危機感から始まるの。」

レイは、人生を振り返るような口ぶりで話始める。


「凍えるような長い氷河期も、流れ星が灼熱の炎となって襲ってきたときも、見えない光が針のように体を切り刻んだ時も…生き残るためには、リセットが必要になるの。」

レイの話は抽象的だったが、私はそれを納得して聞いていた。


全球凍結や、隕石の落下、遠い星から放たれたガンマ線バーストの映像が走馬灯のように流れて行く。


甘く(しび)れるような死の香りにめまいがする。

「我々は、滅びるのですね…文明におごり、大量の二酸化炭素で地球を汚したから。」

私は、両手を広げて踊りながら、華やかなカタルシスに酔う。


今なら、分かる気がする。


人類は、近いうちに絶滅するのだ。

森を伐採し、地球の資源を浪費して、二酸化炭素で大気をよごし、温暖化に導いたのだから。


そんな私の台詞を聞いて、レイは、冗談でも聞いたように楽しそうに笑った。

「もう、池上さんは愉快ですね。

そんな風に言ったら、原生代のシアノバクテリアが気を悪くしますわ。」


ほほほと笑うレイを見ていると、私もおかしくなってきた。


確かにそうだ。


原生代、バクテリアが大量発生し、光合成をして作られた酸素は、全球凍結を引き起こした、と、されている。


つまり、我々もまた、シアノバクテリアの自然破壊の産物で命を繋ぎ、繁栄してきた…とも、言えなくもない。


そう考えると楽しくなった。

浮かれる私の横で、レイは、楽しそうに笑いながら話始める。


「二酸化炭素が増えたら、それに合わせる肺にカスタマイズすればいいのですわ。

その為の時間も…数もありますからね。」

レイは、嬉しそうに月を仰ぎ見て、目を細めた。


「本当に…カンブレアの時のように…沢山いて、素敵。

70憶…適合率が1割でも…7憶人…それだけいたら、きっと、また、素敵な世界を作り出せる気がします。」


レイは、少女のようにはしゃぎながら池へと向かう。


私は、その様子に、よくわからずに胸を締め付けられる。


大気を構成する物質が変わったとしても…

それは、少年時代の夏の記憶を呼び覚まし、

当時、捕獲したカマキリの、最期の夢を、自分も味わっている気持ちにさせた。


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