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パラサイト  作者: ふりまじん
秘密
155/202

146話 月

話しかけられたが、私はそのまま踊っていた。

気持ちが高揚するのが分かる。

月明かりの茂みや林から、池へと誘われる羽虫の流れを感じる。


私を含めて、溶生から醸し出される『何か』に誘われているのだと感じる。


我々は、笛吹男の吹く笛の音に踊らされるネズミの様に、死を予感してもまた、それを止めることをしないのだ。


心地よかった。


私は、踊りながら、レイに話しかけた。

「草柳レイさんですね?」

私は、少し不安になりながらそう聞いた。

月明かりに輝くレイは、この世のものとは思えなかったが、こんにゃくの精霊に惑わされたりしていたので、少し用心深くなる。


「はい。」

レイは、嬉しそうに返事を返してくれた。

その笑顔をみて、中学男子のように浮かれる自分に驚いた。


「月が綺麗ですね。」

思わず口から言葉が、こぼれた。

「ええ…とても美しいですわ。けれど…」

と、レイは、1度は悲しそうに言葉を区切る。

「どうかしましたか?」

私が聞くと、レイは、寂しそうに私を見た。


「もう…アナタにも感じる事が出来るでしょ?

空気が…違うことに。」

レイの悲しそうな言葉に、胸が締め付けられた。

溶生に操られるように池へと向かいはじめてから、確かに、感覚が鋭くなった気がする。


月明かりで揺れる大気に、子供の頃の空気とは違う、息苦しさを感じる。

「二酸化炭素…ですか?」

私は、近年、深刻化をしている地球温暖化の原因を体で感じていた。

「他にも…様々なものが、大気に混ざっていますわ。森が…燃えている…。

後戻りが出来ないほどに…。池上さん、あなたは、幸福者ですわ。」

レイにそう言われて、私は踊るのをやめた。混乱したのだ。

意味がよくわからない。

「森が燃えると、私が、幸福者になるの?」

私の質問に、レイも踊るのをやめて、悲しそうな笑顔を向ける。


「いいえ…大きな森がなくなったから、あなたが選ばれたのです。」

レイは、私に寄り添うように歩きながら、こう、言葉を続けた。


「人類は…進化をしなくてはいけません。」


え?(@_@)


私は、少しだけ正気を取り戻す。

進化とか、選ばれるって…なんの話だろう?


「どういう事ですか?」

私は何か、気の焦りを感じながら聞いた。

「急激な気候変動に絶滅の危機にある生物が、生き残りをかけて進化を始めようとしているのですわ。」

レイは、悲しそうに月を見る。


「今なら、あなたにも見えるのではありませんか?焼けた森の悲鳴を…。」

レイに言われて月を見た。

ほんのりと、月が血の色に見える。


月蝕などで、月が赤黒くなったような、そんな感じだった。


ふと、朝方のネットニュースを思い出す。


アマゾンの火事が深刻になっている…そんな内容だった。


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