139話出会い
「トミノの地獄の…原点ですか…。」
私は、何が言いたいのか良くわからなかった。
まさか、ネットで騒がれるような、都市伝説の話ではあるまいな、と、雅苗を少し、疑った。
「そうです。先程、話題にしましたが、1910年代、文学のために留学を果たした人物は、政財界の要人と関係のある人物が少なからずおりました。
現在のように、誰しもが海外に留学など出来ない時代、留学する人たちにも、様々な願い事や、依頼が持ち込まれたと、想像できます。
それは、公の資料として残るものから、
友人の軽い願いのような記録に残らないものまで、様々だった事でしょう。
小牧 近江先生も、プロバンスで昆虫についての情報を聞かれたとしても…
それほど、違和感も、記憶にも残らなかったに違いありません。」
雅苗は、考えるように、何度か、言葉を区切りながら話をした。
彼女も説明に苦労をしていたが、私も、混乱していた。
トミノの地獄には、昆虫は登場しない。
確かに、このとき、小牧と行動を共にしていただろう吉江 喬松は、西条八十とゆかりの深い人物ではある。
手紙などを送ったりもしたかもしれないが、
虫の話などはしなかった気がする。
「どういう事でしょうか?」
私は、雅苗の話の要点が良くわからなかった。
「そうですよね…、一見、何も関係ないように感じます。ですから、尊行もその時は、そう思ったのでしょう。
この時、プロバンスで、吉江先生達と会った人物がいます。
その人の名前は、太田 務…先程話したモダンボーイですわ。」
雅苗は、そう言った。