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パラサイト  作者: ふりまじん
秘密
146/202

138話モダンボーイ

ふと、長山の言っていた黄金虫を思い出した。


10センチもある立派なスカラベのミイラ……


現物は既に、寄付されたようだが、どんなものだったのか、今なら、持ち主の雅苗に聞けそうな気がした。


が、私がそれを聞く前に、雅苗は、意外な方向に話題を変えてきた。


「そんな話、随分と忘れていましたわ。

長山さんにモンペリエで再会するまでは。


曾祖父の尊行とは、私は、直接、話したりした事はありませんでした。

1926年、この屋敷が完成して1年も経過(たた)ないうちに亡くなったのです。」

「どうしたのですか?」

私は、何かの病気を想像して暗くなる。

この時代なら、結核なども考えられる。

「南アルプスの山に登山して、滑落したのです。」

「滑落………。」

私は、次の言葉を失った。

山の遭難……それは、雅苗の父である雅徳(まさのり)さんの死因にも重なったのだから。


私の複雑な気持ちを汲み取ったのか、雅苗は、悲しそうな笑顔をむけてくる。

「これは、私の父、雅徳の死因を思い出させるものですわ。けれど、これは、調査などの理由で、密林や山に侵入する機会のある職業柄、よくある事だと思っていました。」


そうだろうか…(-"-;)

虫好きとして、年がら年中、山や林に行ってるが、そんな危ない経験が無い私は、一瞬、違和感を感じたが、進入禁止の場所にすら、特別な許可がおりるような、ビックネームの山登りと自分を一緒にしては、いけないと考え直す。

そして、雅苗に相槌を打つように頷いた。


雅苗は私を見て、少し考えてから話を続けた。


「けれど…違うのでは無いか、と、思ったのです。

父は、事故で亡くなる前に、あの『砂金』を読んでいたようですの。

そして、尊行が調査していた資料を調べていたのですわ。」

雅苗は、何かを問うように私を見る。


「『砂金』を調べると事故死をするなんて、そんな、都市伝説みたいな話…。

それが本当なら、あなたも死んでなければ行けませんよね。でも、生きてる!」

私は、明るく同意を求めた。

が、雅苗は、悲しそうに微笑むだけだ。


その笑顔はやめて欲しい…まるで、ドラマのフラグの笑顔…


その時、私は、本気でそう思った。

既に、私と北城もあの本を調べ始めていた。


死亡フラグが心に、はためく。


「もう…調べるのはやめますか?」

少しして、雅苗は私に聞く。


その笑顔に、良く分からない不安が胸に込み上げる。


やめた所で、現状は変わらないし、ここまで来ると、あの本の謎を知りたくもある。

「いえ、続けてください。」

私の答えに、雅苗は満足そうに頷いた。


「尊行が買い求めたのは、文学の会の人づてで、初版の1919年のものですわ。

彼は陸軍の時からの知り合いで、社交的な人でしたわ。

尊行の覚書によると、軍人とは思えない、調子のよいモダンボーイだそうで、『砂金』についても、童謡『かなりや』で話題の新星だった西条八十に好かれたくて、調子良くまとめ買いをしたのではないか、と、書かれていましたわ。」

雅苗の昔話に、私は、少しだけ焦る。

「自分で続けてと言っておいて、申し訳ありませんが、その話、必要ですか?」

私は、温室の様子と長山たちが気になり始める。

本当に、この話を聞いていていいのだろうか?


そわそわする私に、雅苗は、悲しそうに一度、目を伏せてから、キリッとした視線で私を見つめる。


「話が下手ですいません。でも、必要なのです。その、私の曾祖父に本を売った人物…彼が言った一言を調べるところから、物語が始まるのですから。


1925年のパリ万博に仕事で訪れていた尊行は、そのモダンボーイと再会するのですわ。

そして、その出会いから、本のエピソードを思い出すのです。

彼はこう言ったそうです。

『トミノの地獄』の創作の原点を知ってる、と。」

「トミノの地獄…ですか。」

私は、美しく不気味な、あの詩を思い出す。

その創作の原点…


関係なさそうではあるが、もう、口出しはしなかった。


怪談を聴いているときのような、体にまとわりつく様な恐怖に囚われて、ただ、雅苗を見つめていた。


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