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パラサイト  作者: ふりまじん
秘密
144/202

136話愛蘭土文学会

保護眼鏡を外した私を見て雅苗は笑った。

私は、その笑顔に活発な少女の記憶を見た。

確かに、昔、彼女の笑顔を見た気がした。


記憶の彼女は、慣れない私の眼鏡を細い指先でなおしてくれていた。


「少しは、私を信用してくださったのですね?」

雅苗は嬉しそうに微笑む。

「部屋の鍵を開けてくれたら、もっと信用しますよ。」

私は雅苗の笑顔につられそうになり、なんとなく気恥ずかしさもあって、努めて冷静な雰囲気を保ちながらそう言った。

が、確かに、鍵はやりすきだとも思う。

北城もそうだが、この屋敷の血縁は鍵好きなんだろうか?


雅苗は、私の台詞を冗談を聞いたように笑って流す。

「ダメですよ。侵入されたら困りますから。」


な、何がっ(○_○)!!


心が騒ぐ。が、ため息と共に落ち着きを取り戻す。

「何が…侵入するのです?」

一瞬、ゾンビ化した溶生と長山がドアを叩くイメージがフラッシュした。

「池の妖怪……ですわ。」

「池の妖怪?」

私は、長山達のゾンビなんて想像した事が恥ずかしく思う。


ウイルス=ゾンビ


アニメや漫画じゃないのだから、そんなもの、生物学を学んだ人間が考えることではない。


「はい。これが、北宮の長い戦いの原点…なのかもしれません。」

雅苗の言葉が胸に刺さる。

そして、池の妖怪がゆっくりと頭のなかで実体化するのを感じる。


フィエステリア…アメリカで、雅苗の父、雅徳が研究していたと言う、バイオハザード レベル3の渦鞭毛藻…


これに似たような生物があの池にいるとしたら、確かに、厄介な気がした。


フィエステリアは、敵が近づくと神経毒を発するが、ここの妖怪は幻覚を及ぼす毒を発生させているのだろうか?


私は、北川と池にいった事を思い出した。


そこで、硬化した若葉溶生を見た。


やはり、あれも幻覚なのだろう。

若葉溶生は、一階でギターを弾きながら元気に歌っているのだから。

だとしたら、あの池の出来事も、私の幻覚なのだろうか?


同じく、水辺に生息し、幻覚を引き起こすレジオネラ菌を引き合いにだすと、漫画のように速効性がある気がするのが()に落ちないが。


「あれは……あの『砂金』は、元は尊行(たかゆき)のものでした。

彼は、愛蘭土文学会に非正規メンバーとして加わっていました。

そして、そこで、この本を買い求めたのです。」

雅苗の話を…私は、静かに聞いていた。

雅苗は、続けた。


「北宮家は、明治以前は、ある屋敷の御殿医(ごてんい)をしていました。

そして、文明開化と共に軍医となったのです。

日露戦争では、第2軍医部に所属していました。」

そこで、雅苗は、私に同意を求めるように一度私を見つめ、そして、こう続けた。


「第2軍医部…そこで、森 林太郎先生と…いいえ、尊行は文学方面で気に入られたのですから、こちらの呼び名の方が、よろしいかもしれませんね、森鴎外先生と知り合ったのですわ。」


森鴎外………。


私は、何か、得体の知れない不気味な感覚で頭を殴られた気持ちになる。


森鴎外と言えば、『舞姫』などで有名な作家であるが、主たる職業は軍医である。

彼は、衛生学や細菌学を北里柴三郎(細菌学の父)などと留学して学んだ、エリートなのだ。


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