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パラサイト  作者: ふりまじん
秘密
142/202

134話フラグ

月明かりに輝く疑惑の女性について行く私。


彼女は、7年前に失踪したこの屋敷の女主人。

彼女は言った。


“人類の存続をかけて私に頼みがある”と。


もし、これが昭和の特撮ドラマなら私は始めに餌食になる脇役…なのだろう。

ここで彼女について行くなんて、死の予感すら感じる。

最近の言い方をするなら、『死亡フラグが立つ』と、言う状態になるのだろうが、これは特撮ドラマではない。

昭和のドラマなら、尺八の不気味なBGMと言うところだが、

ドアの向こうから聞こえるのは、切なげなラブソング…90年代の若葉のゲーム用の挿入歌である。


7年前、同じく屋敷にいた若葉溶生は、一体、何を見たのだろう?


私は、雅苗の小さな背中に問いかける。

月の光が彼女の肩甲骨の辺りに集まって、穏やかに輝いていた。


そして、階段の辺りに来ると止まる。

私は、緊張しながら鍵を握りしめる。


書斎に行きたいと言われたら……私は、しっかりと拒否出来るだろうか?

このまま、まっすぐに走れば裏口に当たる。

その時が来たら、走るしかない。


雅苗は、静かに私の方を向くと、謎めく笑顔を浮かべながら第3の選択肢を指差した。

階段下の倉庫である。


「ここは倉庫です。狭いですが中へ入ってください。」

雅苗は、私に先に入るように誘う。

一瞬、躊躇(ちゅうちょ)したが入ることにした。

倉庫なら、北城に迷惑はかからないし、うまくすれば怪しげな謎も解けるかもしれない。

私は、二度目だったこともあって、さっさと階段を下りて行く。

廊下を下りて、突き当たりのドアの鍵は開いていた。

北城が開けたままにしたのか、雅苗が開けたのかは分からないが、そのまま、室内に入った。


そこには、様々な標本や書籍があった。


ふと、時間が気になってスマホをポケットから取り出した。

メールが来ていた。

それは、あの、北城と更新したblogのサイトからで、読者からのメッセージが来たと書いてある。

反射的にブログを開こうと操作して、電波が届かない事に気がついた。


と、同時に、背後のドアの鍵がしまる。


「ここは、いかなる電波も通しませんわ。

父が、パニックルームとして補修しましたから。」

雅苗が穏やかに話す。

ここで、雅苗が薄いブラウスと細身のスラックス姿である事を意識した。

第一ボタンの外れたカッターシャツを裸電球の明かりが(なまめ)かしい陰影をつける。


変な動悸(どうき)がする。

男女、逆転での展開なら、女性は危機を感じるところだろう。


が、オッサンがそう言う場面に遭遇すると、困惑しかない。

私は、狭い部屋でまず、雅苗との間合いを広げようと後ろに下がる。


こんな所で叫ばれたら、私が悪者にされてしまう。

一階には、長山と溶生がいるが、叫ばれたら、問答無用で私がボコられるに違いない。


「そうですか。」

私は、努めて落ち着きながらスマホをしまう。

そして、机の方に視線をそらして話を続けた。

「それで、なんの話でしょうか?」


「あなたは…怖くはないのですか?」

私を見つめながら雅苗は、少し、不安げに声をあらげる。


いや、マジ、怖いです。

魅力的な女性に、いきなり地下倉庫で二人きり。

鍵までかけられてるんですから、

あなたの行動にも、

私のエロい期待にも、

困惑してしまうのですよ。


なんて、言えるわけもなく、机の上のハナアブの標本を見つめて心を落ち着ける。

ハナアブは、黄色と黒の蜂のような姿をしているが、実はハエの仲間である。

高山に生息していて、人を刺したりはしない。

蜂に擬態する事で、捕食者から自衛しているのだ。

「怖いですよ。でも、そんな事を言っても、どうにもなりませんから。」

私はハナアブを見つめながら、素っ気なく答えた。


雅苗は…それ以上、私に近づく事もなく、少し、尊敬するようにため息をついた。


「そうですね……。でも…私の行動で、人類の歴史が変わるかと思うと、恐ろしくてたまりません。」



人類の歴史(○_○)!!


雅苗の壮大な台詞に、エロい期待も吹き飛んで行く。



「人類の……存続……。」

机の上のハエトリグモの標本に呟きかける。

「はい。もう、遅いかもしれません…でも、やれることを最後まで続けたいのです。」

雅苗の悲痛な叫びに、私は、彼女を見つめた。

「良くわかりません。ここに来て、私は、とても混乱しています。

もう少し、分かりやすく説明をお願いできませんか?」


雅苗は、少し、ビックリして、それから、切なげに私に微笑んで、近くに積まれた標本の蜜蜂を見つめた。


蜜蜂が居なくなったら、人類は終わる……


2012年、アインシュタインの名言として流された言葉が脳裏をよぎる。


思えば…漫画やドラマのような、目立つフラグがなくても、絶滅なんて簡単なのかもしれない。


かつて、生活水源を元気に活動していたゲンゴロウが、知らない間に消えたように、人もまた、気がついたら消えて行くのものなのかもしれない。


静かな気持ちで、深い恐怖が体に染みてくるのを感じた。


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