133話存続
虫探偵シンゲン……
20年も昔のイベントの役を何度も取り上げられるのは、恥ずかしい限りではあるが、シンゲン先生と呼ばれていたのだと思うと、雅苗の言論の筋が通る。
と、納得はした、が、次の瞬間には、ドアの向こうからギターが鳴り響いて、私を混乱させる。
そう、このドアの向こうには、7年前に行き別れの旦那と幼馴染みの男がいがみあっているのだ。
しかも、死ぬの殺すのと…
「こんな所で私と話す前に、先ずは、ドアの向こうの旦那さんに会うのが先ではありませんか?」
私は静かにそう言った。
「今は、ダメです。あの人たちは、幻覚にとり憑かれているのです。」
月明かりに、雅苗の微笑みが輝いて見えた。
雅苗は、何を思っているのだろうか?
彼女の目の前には、保護眼鏡とマスク姿、ナイロン製のジャンパーに下だけスーツのオッサン。
そして、その背後のドアの向こうでは、7年生き別れの旦那さんが、悲しげなギターをかき鳴らしている。
私は、試すように彼女をしばらく見つめていた。
しかし、雅苗は悲しみを秘めた微笑を崩す事は無かった。
芝居とか…では、ないんだろうな。
私は、この、喜劇のような雰囲気の中で、表情を変えない彼女に、少しだけ警戒を緩めた。
「だとしたら、これから、どうするのですか?
私は、温室の様子を見に行きたいと思っています。」
私は、裏口に置いてきたリュックを思い出す。
あの中にあるもので、駆除出来るのかは分からないが、できる限りの事はしたいと考えた。
「その前に、私に付き合っては貰えませんか?」
雅苗は、控えめな感じで私に聞いた。
「どう言うことでしょうか?」
私は、ポケットの鍵を思い出す。
北城に会いたいと話したなら、これは幻覚に違いない。
「来てください。人類の存続をかけて、池の伝説を終わらせに行くのです。」
人類の…存続Σ( ̄□ ̄)!
こいつは、大きく出てきたな……
と、内心、混乱した、
こんな時、普通、笑うか、バカにするか、この二択だと思っていた。
が、実際、こんな場面に出くわすと、恐怖の方が先に沸き上がる。
ドアの向こうから聞こえてくるギターの音色が、非現実な恐怖をあおる。
「わ、私に何か、出来るのでしょうか?」
何となく、控えめに辞退を匂わせて聞いてみる。
が、それは、逆効果だった。
「勿論です。あなたしか、もう、頼れる人はいないのです。」
私しか、頼れなくなった時点で、人類も終わってる気はするが、口に出して言う雰囲気ではすでにない。
「わかりました。」
私は、言葉少なく雅苗について行く。
頭の中で、少年時代の自分が、夏休みの特撮劇を見て喚いていた。
“なんでついて行くんだよ〜ついていったらヤられるじゃん。”