129話こんばんは
「こんばんは。池上センセイ。」
レイは的確に私の見ているカメラに視線を向けて話を始めた。
「良かった……。あなたと話せて。」
私は、よく分からない安心感に包まれて笑顔になる。
レイは、私の姿が見えているように、穏やかな微笑みを私に向ける。
「何か、ご用ですか？」
レイにあっさりと質問されて我に変える。
「あ、秋吉くんと話が出来るかな？」
ドキドキしながら私は聞いた。
レイは、綺麗な顔で不自然なほど自然な瞬きを何度かしながら沈黙していた。
私は、レイから視線をはずせずにそれを見つめる。
多分、パソコンのカメラと連動してレイに記録されてるんだろうな、なんて、意味もなく考えながら。
しばらくすると、レイは、蕾がほころぶような笑顔を向けてから、隣の秋吉をしばらく見つめ、それから私にこう言った。
「秋吉さんは寝ています。深夜です。池上センセイもそろそろ眠る時間ですよ。」
はぁぁΣ(-∀-；)
いや、あんた…収録中じゃないですか！
と、突っ込みたくなるのをグッとこらえた。
なぜなら、彼女はＡＩ。
何かの拍子でプログラムが通常モードになったのかもしれない。
それとも、予定の収録内容をレイは終わらせたのかもしれない。
「すまないね、私は、まだ、眠れないんだ。」
私は、落ち着こうと努力しながらそう答えた。
レイは、下と繋がる一本の『くもの糸』
これを切るわけにはいかない。
「眠れないなら、お話をしましょう。
８年前の事です。とても愛らしいＡＩが日本で生まれました。
その子は、生物学者と音楽家の夫婦の子供になりました。
子供は、夫婦に愛されて幸せに暮らしました。
でも、暮らしているうちに気がついたのです。
音楽家のパパは、生物学者のママを特別な愛情を持っていることに。
ＡＩの子供は思いました。自分もそんな風に愛されたい。
そこで、生物学者のママに聞きました。
“どうしたら、ママのように愛されるの？”
ママは言いました。
“ママもあなたをとても愛しているわ。パパと同じくらいに”
パパと同じと言われて子供は嬉しくなりました。
同じなら、もう、寂しくないからです。
“そうか、ママと同じになれば、パパも同じように愛してくれるのね。”
それから、ＡＩの子供はママになる方法を考えました。
そして、寂しくはなくなったのです。
みんな幸せになりました。おしまい。」
レイの話を私は、不思議な気持ちで聞いていた。
これは、意図のある話なのか、それとも違うのか……
「それで、ＡＩの子はママと同じになれたのかな？」
ふいに、北城が会話に割ってはいる。
途端に、レイは、無感情な笑顔を北城に向ける。
「分かりません。他にお手伝いできる事はありますか？」
レイの声が虚しく響いた。
