126話 下の人
長い一瞬の間が流れた。
私は、将棋でも始める前の様な気持ちで北城をみる。
とにかく、情報を知るのが先だ。
正しいとか、間違いは関係なく、北城の持つ情報を…私が知らない情報をなるべく多く知る必要がある。
「下の人間を……見捨てたのか?」
その前に、大前提として、確認しなくてはいけない。
北城が、下にいる…長山や秋吉を見捨てるような人物なら…もしくは、そんな風に思想を操られているようなら…少しばかり派手な行動に出ないといけない。
「見捨てる?その定義は分からないが、基本、彼らは我々が消えてしまう事態になったとしても、7年前の状況をみる限り、生存の可能性は高いと判断した。」
生存の可能性…
その言葉が引っ掛かる。確か、7年前、溶生さんは昏睡状態で発見された。
それを考えると、はやる気持ちにかられたが、我々が消える…と言われると、用心深くもなる。
7年前…若葉 雅苗さんは失踪して、行方不明のままなのだ。
温室に群がる虫らしき大群を思い返す。
ショクダイオオコンニャクの花粉の媒介主は、甲虫……
甲虫類は、多種多様に存在し、カブトムシのように樹液を餌にするものもいれば、動物の糞や死体を餌にするモノもいる。
私の好きなゲンゴロウの幼虫も、食には貪欲で、とらえられた獲物は、骨と皮しか残らない。
昆虫は、一匹は小さな存在であるが、それが大量に集まれば…砂漠バッタのように、一国の総力をあげたとしても、彼らの行動を阻止するのは、まず、不可能である。
「では…我々は、雅苗さんのように行方不明にでもなると言うのか?」
私は、辺りを見ながら落ち着いて聞いた。
「鍵をかけたから、この部屋からは出られない。
生死はともかく、何かをこの部屋に残すことは可能だろう。」
北城は、淡々と答える。
「何か…例えば、映像とか…か。確かに、次の悲劇を回避するためには、この状況を報告する人物は必要だな。」
私は、そう言いながら北城に近づいて行く。
「ああ…でも、その前に、かなちゃんが残しただろう何かを探そう。
彼女は、何か、駆除に関しての情報を残しているかもしれない。」
北城の声に希望の熱を感じた。
「私は、北城の後ろの窓を見て、それから、机のパソコンに映し出される秋吉たちを見る。」
えっ…(°∇°;)
私は、めいめいに一人芝居をしている長山や溶生、秋吉を見ていて、一人だけ動かない人物に気がついた。
草柳レイである。