123話二人の詩人
メリークリスマス…
1970年の夏を含んで雅徳さんが笑う写真を見つめていた。
1ドル札が二枚になり、そこにも謎の言葉が書いてある。
「7番目の月にアンゴルモアの大王がよみがえる…なんだか、聞いたことのある一説だな。」
今度はフランス語で書かれていたみたいで、なんだか癖のあるフランス語で音読してからこう言った。
「ノストラダムスの予言だな。」
私は静かな田舎の夜に響く北城のキザなフランス語に胸焼けしながら言った。
「ノストラダムス…そう言えば、ガキの頃、流行ったな。お前、そう言うの信じてるのか?」
北城は、からかうように私を見る。
2019年…何を今さらと言いたい。
「世紀末はご祝儀をむしりとられて金欠だったから、恐怖の大王を呪ったよ…
北城、お前だってそうだろ?世紀末の結婚ラッシュ、辛かったよな。」
私は、世紀末を思い出して笑った。が、北城は笑わなかった。
「いや、その頃、私は、ラスベガスでハエの研究をしていたから、誰からも連絡は来なかった。」
北城は、当時を思い出して懐かしそうに目を細める。
「そうか……よかったな。」
私は呆れながらそう答えた。
北城に比べれば、私は、まだ、普通の青春を送っていた事に気がついた。
と、同時に、ラスベガスに行った北城が羨ましくも感じる。
向こうもハエやクモなどの害虫がいるが、気候が日本とは違いすぎるので、出張などの縁は無かった。
「その話は、また、いつかしよう。
今は、この二つの1ドル札の意味だ。
本棚で見つけたポストカードにヒントがあるかもしれない。」
北城は、ポストカードを観察する。
ポストカードの宛名を書く面の端に、英語で何やら書いてあった。
新約聖書の一説らしかった。
北城は、それを英語で朗読してから、日本語で短くこう呟いた。
「見えざるものに目を向けよ……。か。」
そして、眉を寄せながらパソコンの前に座ると、何やら操作した。
そして、満足そうにニヤリと笑う。
「池上…見えざるものを日にあてよう。」
北城は私を見る。
パソコンの画面には、さっきまで無かったファイルが現れていた。
「非表示の機能か…(-"-;)」
私は、色々と盛り込んでくる雅苗さんにため息が出る。全く、彼女は教えたいのか、教えたくないのか……、
大体、誰に向けてこんな怪しい謎を作ったのだろうか?
夏祭りではないだろう。
そして、シケイダ3301でもないだろう。
と、するなら、やはり、従兄妹の北城じゃないだろうか?
私は、膨らんでくる北城への疑惑を胸に押し黙る。
私は、おちょくられているのだろうか?
勤務中に、コイツとこんな事をしていて良いのだろうか?
長山が気になった。
メールで確認したくなる。ポケットのスマホを握りしめた、が、次の瞬間、北城に呼ばれて手を離す。
「パスワードが必要だ。打ち込みを間違えると、データーが消える。
私は、1ドル札のどちらかの言葉がパスワードだと思うんだが、どう思う?」
北城に聞かれて、言葉を失った。
ギリシアの詩人ウェルギウスの一説か、
フランスの詩人ノストラダムスの一説か、
二者択一をしろと言われて混乱する