118話聖骸布2
「聖骸布…どう言うことだ?」
私は北城を見た。
聖骸布とは、磔にされたイエスの遺体を包んだと言われる麻布の事だ。
特にトリノにある聖骸布は、1988年に科学的な研究をされて有名になった。
「2010年、一般公開されたんだ。
検査や修復で色々とあったが、それでなくとも、一般公開は何十年に一度、と、言われていた。
トリノはプロヴァンスから近いし、怪奇番組を製作していた長山くんと話していたなら、見に行った可能性がある。
それに、池上の持っていたしおりの『2015年?』の意味にもなりそうだ。
なにしろ、聖骸布は、2015年にも公開されたが、こんなに期間が短いのは珍しいと、当時、思われていたからね。」
北城の台詞を素直に聞いていた。
仮に吉江先生達の何かを見つけ、トミノの地獄を思い出したとしたら、
このダジャレの様な偶然にも何かを感じたかもしれない。
が、そんなものがなくとも…南仏に行って、金と余裕があれば、私だっていってみたい。トリノに!
偶然、異国の空の下で幼馴染みの年下の青年と出会い、トリノに誘われたら……恋の花咲く事だってあるかもしれない。
2010年、修復を終え一般公開された聖骸布…
2012年の人類滅亡なんて話にロマンスが生まれないとも限らないじゃないか!
私は、1999年の知り合いの結婚ラッシュを思い出して腹立たしくなる。
全く、仏教徒にキリスト教の滅亡論は……
ここで、私は違和感を感じた。おかしい、
そう、雅苗はこの時既に溶生さんと結婚していたはずだ。
そうだ、トリノに長山と出掛けるなんて、それでは二人が不倫んした…
じゃあない、そうだ。
あのしおりには2011年と書かれていた。
私は、クールな顔の北城をギャフンと言わせられる期待にワクワクした。
「北城、それじゃ、セクシーじゃないぜ。」
私は、セクシー素数と呼ばれた2011年のしおりの数字を指差しながら言ってやった。
北城は、そんな私を見て、不意をつかれたように笑いだした。
「ああ…確かに、これではセクシーにはならないな。」
北城は、斜め上の感じで謝る。謝られてるのになんか、ムカつく顔だ。
「お前…馬鹿にしてるだろ?」
ふて腐れて私が言うと、北城は、好意に目を細める様な笑顔を作る。
「いや、確かに、2015年は私の早合点かもしれないな。が、雅苗は2010年、トリノに行って聖骸布を見ている。このポストカードは2010年のもののようだし、トリノの聖骸布は、昔、ダ・ヴィンチが書いた偽物…と言われたときがある。
そして、この布に写し取られた遺影は、イエスではないと言われていた。
バチカンは、その為か、この聖遺物をローマには迎えることはなかった。
この布に写る男の正体は、一説にはモレーだと言われている。」
北城の説明を理解するのに少し時間がかかった。
「ジャック・ド・モレー?」
私は、短くそう聞いた。
「テンプル騎士団最後の総長、ジャック・ド・モレー。その通りだ。」
北城の声が、深くなる夜の部屋に響いた。