102話 地獄の解説
それから、我々は『トミノの地獄』の物語を考えた。
ネットでは、トミノ=冨野の苗字説があったが、姉弟妹なので、苗字だと、皆、冨野になるので、固定の名前だと解釈した。
「それにしても、トミノの姉さんは、血を吐いたり、鞭で打ったり、なんか過激な人物だな。」
私は、この詩の登場人物が分からずにボヤく。
血を吐いてから、むち打ちするなんて、ヒーローショーの悪者見たいに思った。
「そうでもないさ。この詩を見返してみればいい、地獄に行くトミノの肉体に姉は鞭を入れたりしていない。」
「それにしても、姉さんなのに、地獄に早く行けって急かしたんだろ?」
妹のいる私は嫌な気持ちになる。
が、一人っ子の北城は、そんな私を観察しながら笑っている。
「さあ、西条八十が何を考えたかは知らない。が、かなちゃんが考えそうなストーリーなら想像ができる。
この鞭は、人や動物を打つ道具ではなく、薬草採取の道具だと思う。」
「薬草採取……(-"-;)」
私は、頓珍漢な北城の話を忍耐強く聞きながら、1つの物語を作り始める。
『トミノの地獄』北城解説Vr
トミノは、元気な少年だった。皆に好かれ、働き者の少年だ。
港町か、駅がある、比較的、都会に5人家族で暮らしている。
ある日、流行り病で両親が死亡。
姉も感染をし、肺をやられ、妹も熱を出す。
一人だけ元気だったトミノは、二人の薬代のために1人必死で働くことになる……。
この詩は、拡散者として家族を疫病に感染させたトミノの物語で、トミノを急かす鞭の音は、新薬を求める気持ちを表している。
東洋医術の元になった『神農本草経』の作者と言われる神農は、植物採取の為に鞭を使いなぎはらったと言われている。
この詩のトミノを急かせる鞭は、この神農の鞭であり、新薬を探す様子を表している。
ここまで書いてみて、それなりに話になる事に驚いた。
「確かに、そう言われると、そんな風に見えてくるから不思議だな。
でも、こんなトンデモ説、最後まで続けられるのか?」
私は、作った文章を保存しながら北城を見る。
北城は黙って本の詩を見つめていた。
「暗い地獄の案内人に羊と鶯なんて、どう見てもファンタジーだからね。」
私も詩を見つめた。
元は、子供用の詩だと思う。幻想世界の寂しい歌なのだと思う。
「しかし、かなちゃんは、何かをこの詩に見つけて、謎を残した。
それを、不特定の誰かに届けようと考えていたはずだ。」
北城は、少し不機嫌そうに目を細める。
「まあ、そうかもしれないが、金の羊と鶯なんて、童話や昔話に出てくるものだろ?」
私は呆れる。
「そうだな、昔話には意味がある。ハインリヒ・シュリーマンは、ギリシア神話からトロイの遺跡を発掘した。……。そうか、プリクソスと妹ヘレの伝説か!」
北城は何かを発見し叫んだ。
「はっ?」
私は、何がなんだか分からずに叫んだ。
そんな私を見て、すこしもどかしげに北城は言った。
「牡羊座の伝説だよ!この星座はボイオティア王の双子の兄妹を助けた『黄金の羊』つまり、春を表すんだ。」