表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラサイト  作者: ふりまじん
特別な仕事
11/202

10話 到着

車が山の方へと向かい、車道に色鮮やかな緑の葉や草で覆われて行く。

そして、舗装された道路を外れて土の道を進む、

北宮家の屋敷に近づいているのだと思うと胸がときめいてくる。


この屋敷はGHQの日本占領の足場に使われたとも、

ジャングルで命を尊徳に命を救われた軍人が礼の意味を込めての支援とも噂がある。


真実は私にはわからないが、そんな事はともかく、これから行く屋敷は、北宮尊徳先生が、幼少期から生物と過ごした場所であり、生物学者の道を決めた場所であるのは確かだ。


私の期待と同じく、ワゴンも道に合わせて上下した。そして、屋敷がブナの林の中に見えてくる。


赤レンガのその屋敷は、東京駅の建築でも有名な辰野金吾の影響を受け、白の石帯が美しい。

その壁には蔦が這い、落ち着いた上品さがある。

レンガ造りのこの屋敷は、終戦後は一時、アメリカ人と共同所有となったために存続出来た…とか、聞いた気がする。

真実はわからないが、外国人も避暑にやって来た為に、怪しい噂がネットをにぎわすのだろう。


そんなレトロな建物とは異質な、金属製の門塀が屋敷を囲み、門の前のインターフォンの横には、テレビで見かける有名な警備会社のロゴがはってある。


車が正面の門扉もんぴの前に止まると、我々の到着を待っていた管理人の男がやって来て門を開いてくれた。


長山は管理人を確認すると運転席側のガラス窓を開けて挨拶をした。


「おはようございます。今日は一日お世話になります。」

長山は友人に語りかけるような気さくな感じで管理人に声をかけ、

管理人もそれに答える。「おはようございます。準備は整ってますよ。」

管理人の男は白髪で白く長い髭を蓄えていた。

少ししゃがれた感じの声で、一見、60才を越えているように見えなくもないが、180センチはありそうな長身で、どちらかというと筋肉質に太い体つきを見ていると髭や白髪の髪に違和感を感じてしまう。


昭和のドラマの変装みたいだな。


私は、なんだかそんな風に感じてコッソリ笑ってしまった。


私が馬鹿な事を考えている間に長山は玄関前の広い石畳に車を止めた。

私は少し慌てながらもなんとか言われる前に車から出て溶生さんたちの乗る後部席の引き戸を開けることができた。


「ありがとう。」

穏やかで低く艶なまめかしい声で溶生さんが私に礼を言う。

私は少し照れながら会釈をした。少年時代のトキメキを心臓が思い出す。


「ありがとう。」


管理人の開けたドアの向こうに消えて行く溶生さんを見つめていると背後から華やかで、

少しばかり俗っぽい男声が響く。


秋吉だ。


「どうです?俺の声もまんざらじゃないでしょ?」

秋吉は芝居がかった台詞で私をからかう。

私は声優としての秋吉の声をはじめて聞いた事に気がついて驚きながらも嬉しい気持ちになる。


「素晴らしい美声です。秋吉さま………なんて、私に言われても嬉しくないだろ?」

私は照れ隠しにわざとふざけたような言い方をし、それを聞いた秋吉は受かれたような軽い笑い声をあげた。

「秋吉さま……かぁ。悪くないですね。うん。今日一日、秋吉さまって読んでくださいよ。」

秋吉は子供のように私にじゃれついてきたが、雑用係の私は長山に呼ばれてその場を離れた。


若葉、秋吉、俳優組が屋敷に消えた後、私と長山、管理人の三人で車の荷物を屋敷に運んだ。


昔見た、二時間ドラマの撮影班のような仰々(ぎょうぎょう)しい機械などはなく、コンパクトなカメラとか器材に少し拍子抜けしながらも、私と長山で本日の夜に撮影現場になる屋敷の応接間へと運ぶ。

その間、秋吉達の荷物は管理人が彼らの部屋へと運んでいった。


長山と二人きりになり、荷物を全て運び込むと、長山が私に近づいてきた。


「とりあえず、荷物を運び終わったのでこれからの打ち合わせをして、30分の休憩をとってください。」

長山はここで一度言葉を句切り、私が理解しているかを顔の表情で確認する。


今日は徹夜になるのは事前に聞いていた。

その為に何度か休憩を挟むことになると言う事も。

私は軽く頷くと長山は話を続けた。


「今回は二本の番組の撮影をしますが、池上さんにはそのアシスタントをしていただきます。

ああ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。」


よほどおかしな顔をしていたのだろうか?

長山は私の顔を不安な子供でも慰めるような慈愛のある笑顔で言った。


「はあ、ありがとうございます。」

私は、その長山の笑顔に違和感を感じながら曖昧に答えた。

長山はそんな私を私の仮眠部屋へと案内してくれた。

私は、応接間を隔てて秋吉たちとは逆の位置の棟で休むことになるらしかった。

俳優と言う職業は、仕事の前は神経質になる人もいるらしく、特に50近い怪談を徹夜で話すとなると、ほぼ暗記レベルで台本を頭に入れなければいけないらしいので、二人の部屋には近づかないように私は言われた。



応接室を出て私と長山は磨かれて黒光りのする木製の階段を上ってゆく。


「北宮家は古くからこの土地にゆかりのある旧家です。この屋敷も100年位の歴史があるみたいですよ。

まあ、維持が大変らしいですけど。

応接室やダイニングのある棟を真ん中にして、若葉さんたちがいるのが南棟。

こちらは北棟になります。

北棟は、先々代から学者だった北宮家の方々の書斎や実験室があります。


池上さんの休憩室件、休憩場所は二階の書斎です。」

ここで長山は一度言葉を句切り、二階の廊下を数歩進んで貫禄のあるダークブラウンのドアの前で止まると、続きを話した。

「ここが池上さんの休憩室で、雅苗かなえさんの書斎です。」


長山はそう言ってドアを開いた。


掃除の行き届いたその部屋窓には優しい色合いの緑のカーテンがかかっていて、昭和モダンな雰囲気の部屋に足を踏み入れようとする私に女性の部屋へ侵入すると言う、なんとも気恥ずかしくも甘い緊張感を生じさせた。


「か、雅苗さんの部屋って……い、いいんですか?」

私は、部屋の床を踏む前に思わず再確認した。


既に中に入っていた長山は、そんな私のリアクションに一瞬驚いて、それから年上の人間が子供に話しかけるように穏やかに笑って

「北宮家の人達から許可を貰っていますから、大丈夫ですよ。」

と、自分の部屋にでも案内するように言った。


その言葉に従って部屋に入りながら、私は、長山が雅苗と、北城家の人達と親しい関係ではないかと疑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ