103話開示2
北城は少し悩んで、私のスマホを手にすると、ログインIDに10489と数字を入れ込んだ。
それから、私を見てこう言った。
「残念だが、パスワードが思い浮かばない。」
「ノブス オルド セクローム。」
私は、1ドル札の言葉を呟いた。
「novus ordo seclorum
これでいいか。」
北城が皮肉な笑いを浮かべて打ち込むとログインボタンをクリックする。
開いた。
が、記事は1件しかない。
下書き設定で『トミノの地獄』が打ってあった。
「確かに、これは2020年の人間に宛てた謎だな。」
北城は画面を見て、軽く目をしかめた。
「なぜ分かる?」
「2012年時点では、西条八十の著作権は、2020年にフリーになる。
それまでは、下書きにいれておく…と、いうことなのだろう。
そして、この詩の解釈をの続きを書かなくてはいけないようだね。」
北城は、中途半端の解説文を私に見せる。
それは、この詩が1919年に流行したインフルエンザについて書かれたものだと言う内容だった。
それは、トミノが感染源となり、姉が吐血、妹が熱を出したのだと書いてあった。
「トミノが感染源…と言いたいのかな?」
私は、少し前に思い浮かんだ不気味な光景を思い出す。
「なるほど、無限地獄にトミノは向かうのだから、両親は感染して死んでしまったのか。」
北城は不機嫌そうに唇をむすぶ。
「なんで、そうなるんだ?」
私は混乱しながら北城を見る。
「日本の地獄感で考えると、無限地獄に落ちるのは、より罪深い人物で、罪状には『親殺し』と言うのがある。可愛いと表現されるトミノは、まだ子供で、無限地獄に行くとしたら、それくらいしか考えられないからね。」
北城はそう言いながら、私のスマホから文章を書き足して行く。
その様子を見ながら、ふと、あの日記について思い出していた。
北城と長山が雅苗の怪しげな研究を助けていたと書いてあった事を思い出していた。
こんなにすんなり物事が運ぶものだろうか?
北城は、何を考えているのだろうか?
私は、少年時代の友人の横顔に、私の知らない彼の真実を探した。