02 猪突猛進《レクレス》
「に、逃げるってどうすりゃいいんだ。」
苧環さん、気が強そうな感じだけど、結構、不安そう。まぁ、こんな状況で、恐怖を感じてない方がおかしいか。
「あの声の主は、『建物や道具を駆使して』と言っていた。ということは、このマップには、色々な建物があり
、その中に道具があると考えられる。ここは、平原のような場所だ。見晴らしがいい。ほら、あっちに街のようなものがある。反対側には、教会らしきものがあるだろう。」
「いやぁ、流石です。私もそう思ってました。元陸軍ってだけありますね。」
なら言えばいいのに、弟切さん。本当は、そんなこと考えてなかったり?
貶落さんは、元陸軍だし、こういう、命の危機にさらされるなんて、慣れてるだろうね。だから、あんなに冷静に物事を考えられる。今の状況下で、そういう判断ができる人は必要だ。
「俺からの提案なんだけどぉ、手分けして探索した方がいいんじゃね? そっちの方が効率的っしょ?」
「それはそうかもしれませんね。『鬼』が居ると言うので、大人数だとすぐに見つかってしまうかもしれませんもの。少人数のチームをいくつか作った方がいいかもしれませんわね。」
うーん、確かに花蘇芳さんと粗毛さんの言う通り。本当に『鬼』がいるのなら、、、いや、いるに違いない。そう、いないわけが無いのだ。1度見てみたい気はするが、見てはいけない気がする。
「ねぇ、みんな。あ、あれは、何?」
鬼灯さんが指を指す方向、そこには、到底、人とは思えない顔の怪物が立っていた。
何なんだ、あれは。殺人鬼って、人じゃあないのか? もしかして、本物の鬼?
「ひぇー、凄く厳ついっすね。所々、皮が剥がれていて、首が2本、前も後ろも顔があるって、死角ないっすね! ひょえー、めっちゃ、鋭そうな爪に牙、でも、あんな牙、役に立たないだろうに、、、 しかも、異様に大きい。3、4メートルはあるでしょ!いやぁ、俺、こんな生物見たの初めてだわぁ! ちょっと、観察してもいいすか?」
「そんな呑気な事言っている暇はないでしょ!? あんたねぇ、今の状況分かってるの?」
まぁ、確かにそうだ。粗毛さんは、確かに緊張感がなさすぎる。でも、鬼灯さんは、状況が理解出来ていると言うより、あまりの恐怖に気が高ぶっているって感じ。
あんな、化け物を観察しようなんて考える精神がおかしいとは思う。でも、ああいう性格だから、成功してきたんでしょう。世の中には、ああいう人間が必要だと、、、
「お、恐らく、あの声が言っていた殺人鬼なんじゃないかなと、、、間違ってたら、す、すみません、、、」
「「いや、間違いではないと私達は思います。あの声は、危険な生物がいるとは言っていなかった。それに、あれ以外の生物は見てませんしね。」」
双宮姉妹、双子ってだけあって息がぴったりだ。こうも、全てがぴったり揃うのもどこかおかしい気がするけど、、、
まぁ、そんなことより、これからどうするかを考えないと。幸い、奴には気づかれていない。今からでも、チームを作るか。
「それでは皆さん、先程も申した通り、チームを作りましょう。全部で12人。3人チームで、4チームに分けましょう。皆さんの能力を考えて、チームを作ります。」
なんか、花蘇芳さんが仕切り始めた。まぁ、嫌って訳では無いけどね。変な人ではないし、安心はできる。
「ABCDのチームに分けます。」
「それではまず、Aチームを作りましょう。双宮姉妹は一緒がいいですよね、、、それでは、双宮左百合さん、右百合さん、貶落さんで行きます。いいですか?」
「あぁ、俺は構わないが。」
「「私達も問題はありません。」」
まあまあいい編成じゃない? 双宮さん達も、結構、周りを見る能力に長けている。気がつくことも多いだろう。だけど、鬼が来た時に逃げれるかわからない。そこで、力加減的に貶落さんを入れたわけだ。
「その他のチームを発表します。Bチーム、粗毛さん、翁草さん、弟切さん、Cチーム、私、苧環さん、犬谷さん、Dチーム、鬼灯さん、松虫さん、夜美月さんで行きたいと思います。皆さん、よろしいですか?」
「全然問題ないですわー。むしろこれで良かったぁ! 安心してあのバケモン観察できますわぁ。」
「私のが採用されたのは嬉しいですが、観察するのはやめときましょうね、、、」
それにしても、奴は何をしているんだ? 一応、とても太い木の裏に隠れているものの、見つかるのは時間の問題だろう。
なのに、僕達が奴を目視できてから30分。一向に見つかる様子はない。
ただ、僕達が最初にいた古屋をくるくる回っているだけだ。
「奴は何がしたいんだい?」
犬谷さんが、そう呟いた。
「な、何かを、追っかけてるみたいですが、、、」
その言葉を聞くと、翁草さんの指さす方を見た。
それは、四足歩行、恐らくは犬。結構離れているから、ぼやけて見えるけど、形的に犬。
あの鬼みたいに、得体の知れないものかもしれない。例えば、皮膚が丸出しだったり、身体能力が異常だったり、、、
どっちにしても、迂闊に近づくのは危険。どうするか。
「ここに留まっていても仕方ないです。いずれは見つかります。」
「あの鬼について探るチームと、建物を散策、使える道具を探すチームに分けましょう。」
そう、双宮姉妹が言う。確かに、それが最善策。
でも、鬼についてを探るチームには、当然、命の危険がある。誰がそんなことを進んでやりたがるか、、、
「それでは、どのチームが何をするか決めましょう。CチームとDチームで鬼を探ってください。」
「わ、私は嫌よ!」
「俺だって嫌だ。絶対死にたくない!」
そう言ったのは、鬼灯さんと、苧環さん。まぁ、当然か。2人とも、自分第一だからね、、、
「決めてる暇ないと思うんだけどね。ほら、向こう見てみなよ。」
落ち着いた様子で、犬谷さんがそう、口にする。
その瞬間、さっきまで追いかけられていた犬が捕まり、無惨にも真っ二つに切り裂かれ、奴の二つの顔の口に放り込まれた。
「お、あいつ、こっち向いたじゃーん。スケッチ、スケッチ!」
「そんなことしてる場合じゃないでしょっ!? あんた、死にたいの? 私はそんなのごめんだわっ!」
とても大きな声で怒鳴りつけたことで、奴に気が付かれてしまった。そして、奴は思い切り、こちらに向かって突進してきた。
「よし、いい感じ! 突進してくる、と。ええと、名前なんだっけか?」
「レ、猪突猛進でしたよね? あの声が言っていたのは、、、」
今はそんな馬鹿みたいな人に真面目に答えてる暇ないよ、翁草さん! 早く逃げないと!
「おい、そんな馬鹿みたいなこと言ってないで、早く逃げるぞっ!!! 皆、とりあえず、目の前の教会に走れ!」
「固いこと言わさんな、お、と、ぎ、り、さ、ん! そんなんじゃ、すぐ老けますよーだ!」
「あ、あいつ、滅茶苦茶速い、、、早く逃げろとか言ってた私を軽々抜かして、、、」
「俺、足だけは自信あるんっすよね! 高校の時、陸上で何回も優勝しましたもんっ!」
はぁ、はぁ、こんなに全力で走ったのは久しぶりで流石に息が切れた、、、でも、何とか皆逃げれて、、、
「お、おいっ! 助けてくれっ!」
苧環さんが1人逃げ遅れてしまっている。必死に走ってはいるが、無駄な贅肉が腹に沢山ついているため、かなり遅い。
このままでは追いつかれてしまう!
「あ、あいつ、逃げ遅れてやがる。今助けに行く、頑張って逃げろ!」
弟切さんが、走り出そうとした瞬間、1本の腕が立ちはだかった。それは、、、貶落さんの腕だった。
「よせっ、あいつはもう無理だ。お前が助けに行ったところで、犠牲が増えるだけだ。」
「まだ、まだあいつは生きてる。生きてるんだ! それを、見捨てろって言うのかっ!?」
「そうだ、さっきからそう言っているだろう。こことの距離的に間に合わない。」
ドッドッドッ!
鈍い地鳴りとともに、その巨体とは裏腹に、猛烈なスピードで苧環さんに向かって突進をした。
「は、早くドアを閉めなさいよ! こっちまで来たらどうすんのよっ!?」
「俺、そーいうのマジで嫌いだからやめてくんない? 弟切さーん。吐き気するんだけど、本当は助ける気なんてないのにねぇ。
助ける気あったら、もっと先にたすけてるはずでしょーが。あんたは、あいつを考えず、ただ走ってきたんだろ? その時点でもう、あんたは苧環っちのことを見捨ててんの。」
「わ、私は、」
「おい、お前ら、早く俺を助けてくれよ。仲間だろ? 見捨てる気かよ。」
殺人鬼の勢いはさらに加速し、苧環さんとの距離を一気に縮めた。
その瞬間、、、
「あ、あ、俺は、、、俺はまだじにだくなぃぃぃっ! お前らだすげでぇっ!」
二つの首に挟まれ、そのまま押し潰されていく。徐々に彼の体は二つに切れていった。
「や、やめで、ガッっ!」
二つに分かれた体を猪突猛進は両手に持ち、二つの顔の口に放り投げた。