11.山脈までの道
町を出て、小川の橋を渡り、列車は山脈へ向かって進む。
時折、鉄道の保線員らしき人が線路沿いで手を振ってくれる。
やがて線路の先にホーム一つの小さな駅が見えてきた。どうやら開拓村があるようだ。
列車は減速することなく駅を通過する。村に人の気配は無かった。
ちょうどルシールさんが近くにいたので聞いてみる。
「さっきの村、全然人いなかったですね。」
「レクス君知らなかったの?あの開拓村は、私たちがここに来た日に村全員セルトラクへ避難したの。」
なるほど、あの日門のところにいた行列って避難民だったのか。でもあの商人の人は何だったんだろ?
「あ、そろそろね。」
ルシールさんが呟くと同時に、列車が減速を始める。
線路の先に、木製の柵で囲まれた、先ほどより大きな村が現れた。
汽笛が鳴ると、線路の部分の柵が開かれる。
どうやら人がいるようだ。
列車がさらに減速して村へ入る。
行き違いが可能なホームと、いくつかの貨物側線をもつ、ちゃんとした駅のようだ。
列車がブレーキ音をたててホームに停車する。
ホームの上に等間隔に並んだ衛兵の間から、赤龍騎兵隊とディクショナリー所属のプレイヤーが二人現れた。赤龍の人は、午前中に見た名前のわからない副マスだ。
「前線司令部の設営完了しました。」
「了解した。前の車両の切り離しを急いでくれ。」
副マスの報告に赤龍のともぞうさんが応じる。
「班長お疲れ様です。」
「そちらこそお疲れ様。では私はここまでだね。」
そう言って班長は、貨車の扉を開けてホームに降りた。
てっきり班長も一緒に行くと思っていたので思わず声をかけた。
「班長、一緒に行かないんですか?」
「レクス君、すまないね。こっちの準備やらなんやらで手一杯で戦闘スキルがさっぱりなんだ。君の活躍は、グリの実況中継で楽しませてもらうよ。」
そう言って班長は残念そうに笑いながらホームを後にした。
鉄道員らしき住人が数人やってきて、僕らの乗る5号車と前の4号車の間に潜り込む。
「ここで前の車両を切り離す。作業が終わったらすぐ出発だ。」
マットさんがみんなに聞こえるように話す。
「ここが前線司令部と残党狩りの拠点になっている。万が一本隊とはぐれるなどの問題が起きたら、線路沿いに進んでここを目指してくれ。班長と赤龍の副マスター、レブンが待機している。」
なるほど、残党狩りが終わったらここを目指せばいいってことか。そしてあの副マスの名前はレブンね。覚えとこう。
そうこうしている間に、切り離しが終わったようだ。
旗が振られ、前の車両が離れていく。
駅の端で止まり、分岐を渡って反対側のホームへ移った。
「よし。間もなく出発だ!この先はいつ戦闘になってもおかしくない。総員!戦闘準備!」
マットさんの号令を合図に、みんな武器の準備を始めた。
僕も背中の銃を下ろし、弾を込める。
マットさんが貨車の先頭に立ち、大楯を展開する。同じように楯を持った銃士が二人、マットさんの隣に並ぶ。
両サイドにはともぞうさんをはじめ、機関銃やショットガンを持った銃士たちが並ぶ。
僕ら狙撃銃士は車両の真ん中に立つことになった。
「レクス、こっちだ!」
マットさんが僕を呼ぶ。
「楯の間から狙撃してくれ。」
「わかりました。失礼します。」
マットさんと隣の楯持ちプレイヤーのすき間にいれてもらう。
「じゃあ私はこっちね。」
反対側のすき間にはルシールさんが入るようだ。
ホームでは駅員さんが旗を振る。
後ろの機関車が汽笛を鳴らし、列車がゆっくり動きだした。
既にホームへ降りていた前の車両の人たちが、手を振って僕らを見送る。
列車に向けて敬礼している衛兵の中に、一瞬だけカルメンさんの姿が見えた。
セルトラクを出発したときと違い、列車はそれほど速度を上げずに進んでいく。
進むにつれ、森の雰囲気が変わっていくのがわかった。なんていうか嫌な空気だ。
「3時方向!!」
誰かが叫んだ。
右側に並んだプレイヤーが一斉に撃ち始める。
1体しかいなかったらしく、僕には消滅エフェクトが飛び散るところしか見えなかった。
誰かが見つけ、みんなで一斉射撃。そんな戦いが3,4回続いた。
僕ら先頭にいるプレイヤーはそちらには関わらず、線路の先にだけ警戒の目を向ける。
小さな切通しのカーブを抜け、少し長めの直線に入ったとき、僕の目が何かを捉えた。
「正面!距離800!!猿の群れ!!」
すぐに味方に向けて大声で叫ぶ。
「列車減速!!初撃はレクスに任せる!」
マットさんの指示で、列車がさらに速度を落とす。
おかげで揺れが小さくなった。
僕のスコープの中、線路の先にいるのは"ブッシュモンキー"。単体ではそれほど強くないが、茂みに隠れて不意討ちしてきたり森の中で群れで囲んできたりと、なかなか厄介なヤツだ。
ちょうど線路を横断していたようで、群れの何匹かが列車に気付き動きを止める。
真ん中あたりで止まった一匹に狙いを定める。
列車の揺れもあるので、少しだけ魔力で着弾補正をかける。
多少威力が下がるが頭に当たれば一撃のはずだ。
一瞬息を止めて、引き金を引く。
ベルニアさんが整備してくれた銃は、初期武器とは思えないくらい真っ直ぐな弾道で弾を放つ。
息を吐く頃には、スコープの中にいた猿が一匹、破片になって消えた。
一瞬、僕の後ろからどよめきが起こる。
「動いてるのにあの距離で当てるのか…」
「アイツがβ最強の狙撃銃士か…」
「あんな距離当てられる気がしないわ…」
どうやら後ろにいる各クランの狙撃銃士のようだ。
マットさんやともぞうさんのとこにいるなら、これくらいの狙撃すぐに出来るようになると思うんだけどね。
「さすがだな。腕が健在なようで安心した。」
「昨日ずっとやってましたからね。マットさんは小銃の腕少しは上がりました?」
「そんなものもう諦めたさ。私の相棒はこれからもこの石火矢だよ。」
マットさんが笑いながら、片手に持った石火矢を軽くあげる。
そんな軽口を聞きながら、次の弾を装填して狙いをつける。
一匹がやられて、臨戦体制になった猿をまた一匹、破片へと変えた。
列車が近づいたことで猿の群れとの距離が縮む。
「私もそろそろいけるわね。」
ルシールさんもライフル銃を構えて撃った。
逃げようとした一匹に命中するが、倒しきれずそのまま森に入られてしまう。
「あー、やっぱり着弾補正かけすぎたかな~。全然威力ないや。」
「狙撃銃でもないのにスコープ無しで当てられるだけでも、充分すごいですよ。」
「レクス君言うわね~。後で回復サービスしてあげようかな?」
嬉しそうなルシールさんは置いといて、僕は索敵に集中する。残りの猿は既に森へと逃げこんでしまったようだ。
止まりそうだった列車がまた速度を上げる。
その後も何度か線路上にいるモンスターを撃退した。
山脈もだいぶ近づいてきた。
突然、僕の目がスコープの中に、モンスター以外の物体を捉えた。
「マットさん!線路に岩が!!」
「緊急停止!!!」
マットさんが間髪入れずに叫ぶ。
列車が甲高い金属音をたてながら止まった。
慣性の力で前に前に放り出されそうになるのを、なんとか堪える。
線路沿いの崖が崩れてしまったらしい。線路が半分ほど岩に埋まっていた。
「列車はここまでのようだな。」
ともぞうさんが列車から飛び降りた。
「できればトンネルの前まで行きたかったけど、そう上手くはいかないね。」
そう言ってマットさんも列車を降りる。
「トンネルはもう近い。ここからは歩く!!楯持ちが先頭!ディクショナリーの近接班は、ライフル銃士と狙撃銃士の援護を!」
隊列を整えた僕らは、トンネルへ向けて岩だらけの線路を歩き始めた。
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