序.Gun and magic Online
久しぶりになんか書きたくなってしまった。今回はちゃんと続けます。(前回は見切り発車過ぎただけだから…)
「うー、ゲームとはいえ寒すぎでしょ…」
峡谷の出口を吹き抜ける雪混じりの風をうけて、僕は思わず呟いた。
いつもなら簡単な環境魔法で、温度なんてどうにでも弄れる。しかし、今は「狩り」だ。発動時の魔力を隠せない今の状況で魔法なんて使ったら、一瞬で獲物に気づかれたあげく、怒り心頭の相方さんから、鉛弾のプレゼントを貰うことになるだろう。
そんなわけで、今の僕は寒さにうち震えながら岩と同化するしかないのである。
「ったく、そもそもフィールド出るのにハイドアイテム忘れて来るかな…」
そんなことをぼやいてると、パーティーコールの呼び出し音が鳴る。まぁ鳴るといっても聞こえるのは僕だけだ。
「ティリア?そっちはどうです?」
『あ、レクス?今ポイント着いたよ。レクスのハイドマントかなりいいじゃん。私のより隠蔽高いし。少しくらい魔法使ってもバレないし。超便利』
「欲しいみたいだけど、売りませんよ…?」
『チッ…』
なんか今、舌打ちが聞こえた気がするけど、気のせいだと信じたい…
それにしても、普段とは随分違う喋り方をするなぁ…やっぱりこっちが彼女の素なんだろうか?
『まぁいいわ。アルファポイント到着。標的は想定ルートを順調に進行中。ポイントまでは…そうね、あと300くらい。』
「了解。こっちはいつでも大丈夫です。」
何がいいのかわからないけど、こういうときに藪をつつくのはよくない。
『わかったわ。そっちが撃ったら一気に詰める。タイミングは任せるわ。外さないでよね?』
「そっちこそ、近距離でビビって逃げ出さないでくださいよ?」
『なっ、馬鹿にしないでよねっ!?ただの猪がでっかくなっただけでしょ!怖くないわ!あんたのご自慢のスコープでしっかり見ときなさい!!』
騒々しかった彼女との通信が一方的に切れ、僕はまた一人になる。一人は寂しいけど、この獲物を待つ時の孤独感が僕は好きだ。
報告の距離からして、敵の到着まではあと5分ほど。それまではこの孤独を楽しもう。
レクスとの通信を切って、私はまた川原に一人になった。
現実では、絶対あんなこと言わないようにしてるのに、この世界の私はなぜかあんな口調になってしまう。次こそは気を付けないと…っと、そんなことより今は目の前に集中しなくちゃ。
目の前に続く、森を切り開いた獣道の向こうには、まるで大型バスみたいな獲物の姿が見える。その姿は、今まで私が戦ったどんなモンスターよりも大きかった。
少しずつ大きくなる獲物の姿に、私の鼓動も次第に強くなる。愛銃を握る手が、僅かに震えてるのをなんとか抑え込む。さっきは彼に怖くないなんて言ったけど、本音を言うとやっぱり怖い。
数分後、獲物であるワンス・アイ・ボア、通称"1つ目猪"の超大型種が、木立を抜けて川原にその姿をあらわした。川を渡る前に、安全を確認したいのだろう。大きな頭をゆっくり左右に向ける。
猪が対岸の山肌に一瞬注目した。そのとき、あたりに一発の銃声が響き渡り、すぐに猪が暴れ始める。
特徴的な1つ目から、緑のポリゴンが周囲に飛び散る。どうやらレクスは的確に、獲物の弱点を射抜いたらしい。
ここからは私の番だ。
隠れていた岩の隙間からロケットのように飛び出し、猪の目の前に躍り出る。ハイドマントの効果が切れ、猪の嗅覚が私を捉えたようだ。ゆっくりしている暇はない。レクスに渡された対モンスター用撹乱アイテム、通称"臭い玉"を、猪の鼻先めがけて投げつけた。瓶が割れて緑の煙が漂い、猪が苦しそうに頭を振る。
間髪入れずに、私は猪の足元に滑り込んだ。普通のショットガン持ちなら、ここで関節の付け根にスラッグ弾を撃ち込み部位破壊に持ち込むのだが、今私の銃に込められてるのは散弾だ。ただし、普通の対モンスター弾などではなく、彼が作ったオリジナルの魔法弾になっている。
そんな散弾を、猪の爪先へ躊躇なく撃ち込む。突然の痛みに猪が前足を蹴りあげるが、そんなことには目もくれず、私は後ろ足へ走り、また足先めがけて引き金を引く。
全ての足先に弾を撃ち込んだが、猪は倒れなかった。さすがに超大型種って言われるだけのことはある。耐久力が通常サイズとは桁違いみたい。HPゲージもまだ7割近くは残っている。
臭い玉の効果がきれたのだろう。装填のために私の隠れた岩の方に、猪の顔が向いた。まだ目は閉じているが、あのオーラはたぶんめちゃくちゃ怒ってる。まぁ、爪先に弾撃ち込まれたら普通誰でも怒るよね。
ちょっと猪に同情してたら、当の猪が怒りのオーラと共に、次第に姿勢を低くしていく。固有スキル、【猪突猛進】の準備に入ったらしい。あのサイズの突進だと、今隠れてる岩程度じゃもたなそう。急いで他に隠れる場所を探し始めたとき、猪の足元が緑の光を発した。レクスのオリジナル弾が、ようやくその効果を発揮するみたい。
次の瞬間、猪の足元から一気に蔦が伸びた。猪は慌てて抜け出そうとスキルを発動させたが、時すでに遅し。蔦に足を取られ、スキルの発動が強制キャンセルされた猪は、そのまま地面に縛り付けられる。蔦に吸い取られるかのように、頭の上のHPゲージが短くなっていく。動きも目に見えて鈍くなった。
この隙を逃すわけにはいかない。考え事をしながらでも、既にリロードは済んでいる。今度は対大型モンスター用のスラッグ弾だ。
一度だけ深呼吸をして、私は再び岩影から飛び出した。最初と同じように真っ正面に入る。今度は臭い玉ではなく、猪の鼻先にショットガンを突きつける。
「まずは1発…!」
5連装ショットガンの最初の1発を撃ち込んだ。発射の反動を体で受け止め、そのまま【跳躍】スキルを発動。猪の頭のてっぺん目指して飛び上がる。飛んでる最中に見えたHPバーは、残り5割を切っていたと思う。これなら1発1割削れば撃破出来るかな。
そんなことを考えながら、滞空中に傷ついた目に向けて1発、そして着地の瞬間に1発を撃ち込む。間近で見ると1つ目の生き物って無気味だね。
猪の目のすぐ上に着地したら、そのまま頭頂部を走り抜け、首もとに向かう。狙うのは、首もとにある大型魔獣の核、魔石だ。蔦がちょっと邪魔だけど、教わった通り、一番突き出た骨のところに最後の2発を発射した。残り2割くらいだったHPバーがさらに短くなっていく。蔦でがんじがらめの猪が最後の叫び声をあげた。
間もなくHPが無くなる。そう思ったとき、突然猪の体が赤く光り始める。
「まさか!暴走が!?」
大型モンスターはHP切れ寸前で、稀に暴走状態となることをすっかり忘れていた。
猪が体にまとわりついた蔦を引き剥がしにかかる。足元の体がうねり始め、立っていることが出来なくなった私は、振り落とされないようにしがみつくのが精一杯だ。
「どっ、どうすれば、、、」
両手でしがみついてしまっているのでリロードも出来ない。辛うじて紐でぶら下がっている銃が、私の体を容赦なく叩く。必死にしがみついていた手の感覚が、だんだん薄くなってきた。放り出されるのも時間の問題だろう。
あんまり頼りたくはなかったけど、、、
「レクス!なんとか!してっ!!」
『はいはい、今終わらせますよっ』
1発の銃声が鳴り響くと同時に、猪の体が一瞬白く輝いた。そして猪が光りの粒になって四散する。
「きゃあああああ!!!」
しがみつくものを失った私の体は、素直に重力に従うことを選んだ。