02.人称と視点に苦しみました、ほか(2話)
【第二話「妖精と転移者」を書いてみました】
【想定外のヒロインが誕生しました】
第1話はまだまだ推敲が必要な状態でしたが、その先の展開を書き始めました。先を書くことによって、転移者ガイダンスで書き足りないことや、変更したくなることが出てくると思ったからです。そして実際、この作品の方向性に大きく影響する設定が加わりました。
当初、ガイダンスをするのは仙人のような男の老人で、翔一を宇宙マスターにした後は姿をくらまし、翔一の知らないところから様子を見ている、という予定でいました。しかし男の老人を若い女性に変更して、更にあざとい誘いをさせるようにしたことで、「この女の性格なら、ずっと翔一のそばに居座る」ように思えてきたのです。そうしてこの女性はヒロインになり、異空間にペットを連れ込み始めて、最終エピソードにも大きく関わる存在になりました。
また、こうして書き手自身も予想していない方向に物語が転がることを面白く感じて、メモを残し始めました。それがこの体験談の元になっています。
【人称と視点に苦しみました】
第1話は翔一が謎の存在から説明を受けて承諾するまでの話だったので、実質1人の思っていることを書くだけでした。この第2話から、複数人のセリフや考えを本格的に書いていくことになります。
ここで苦しんだのが、いえ、最後まで整理がつかなかったのが、人称と視点です。この作品は、神のような者、ゲームをしている者、普通に生活している者が混ざって活動しているところに1つの読みどころがあると思うので、1人称では書きづらいです。それにこの人称で書くのはすでに失敗しています。ですので3人称で書こうとしたのですが、人称や視点を意識しだすと、これは3人称なのか、1人称を次々切り替えているだけではないのかなどと、混乱してきます。
具体的には。第2話では、宇宙マスターである翔一は、自身の化身である妖精モールと、転移者ショウを創造します。ここで、「ショウとモールの会話」、「異世界に転移して戸惑うショウの心境」、「ショウが警戒していることを面倒に感じるモールの心境」、それぞれを書くのにとても苦労しました。何度も推敲しました。
2人の会話とそれぞれが思っていることを書くだけです。しかし最初にショウの1人称視点で通して書いたのが混乱の発端だと思うのですが、最終稿も3人称視点になっていない文が混ざっているように思えます。
人称と視点の課題は、最後まで解決できませんでした。今思うことは、2つ。
1つは、1度書いた人称・視点を、後から変更するのは難しいということ。
例えば1人称かつ1人の視点で書き進めた文章を、3人称にしようとした場合。表現的には3人称客観視点に書き直せたとしても、元々書かれている内容は1人が経験した事象だけなので、狭い範囲の出来事を書き記した文章になってしまうのです。具体的な事例は次話以降も挙げていくことになりますが、何回かこれをやってしまい、うまく修正できませんでした。修正ではなく、新規に書き直すべきだったのかもしれません。
もう1つは、視点の切り替え頻度の多さが混乱を招く本質なのではなく、誰の視点なのかが不明瞭になりやすくなることが問題なのであろうということ。作者自身はどの文が誰の視点なのか分かっているので、他者が読むと不明瞭な文章でも読めてしまうところが、とてもやっかいです。
人称や視点については「なろう」でも、いろいろな方が解説をされています。参考にはなるのですが、自分のものにすることができませんでした。今は、自分が書きたい物語と主要人物の配置や場面転換の頻度が近い小説を探し――更にこれは「なろう」作品ではなく、校閲者とのやり取りを経て世に出ている市販小説のほうが望ましい――、その作品を人称や視点切り替えを意識して目を通し、真似て書いてみるのが早いんじゃないかなという気がしています。
【2つの世界観を構築する必要があることに気づきました】
上記でも触れた妖精モールと転移者ショウが初対面するシーンで、モールは異世界転移ガイダンスをしなければならないことを面倒に思います。これ、このくだりを書いていて私自身が気づいたことを、そのままネタにしました。第1話のガイダンスシーンも仕上げきっていないのに、もう1回ガイダンスシーンを書く必要がある事に思い至り、ゲンナリしたのです。さらに言えば、宇宙人たちの世界観と、遊び場にされている惑星の世界観、それぞれを構築しなければならないことにも気づきました。
今考えてみれば、国どうしが争うような小説では、それぞれの国の事情を設定する必要があるでしょう。そうした小説と比べれば楽な方なのかもしれません。当時はこれら2つの世界観が固まるまで、ちょっとした世界の様子を描写するにしても整合性が取れているのかどうか検討する必要があって、酷く負担に感じました。
【擬声語に違和感を感じました】
第2話後半、転移者ショウの前に、野獣が唸り声を上げて迫ってきます。
当初この唸り声を、「ガルルル」とか「グルルルル」とか書いていました。しかしどうにもしっくり来ません。他の小説はどう書き表しているのかと調べてみたら、小説で擬声語を使うのは控えたほうが良いという注意が、たくさん出てきます。なるほどと思い、野獣が迫る様子を地の文だけで表現してみました。これも書いたことがなかったので相当試行錯誤しました。
一方でこのガイドラインを逆手に取って、擬声語、擬音語を特別な表現として使うことにしました。まず大怪獣たちにだけ擬声語を使います。彼らは異空間で飼われることになるのですが、その騒々しくも賑やかな様子を表現するのに使えたと思っています。また擬態語は、ヒロインが超常の力を行使したときなど、コミカルな場面で意識して使うようにしました。
【ショウの重要な設定ポイントを見逃していました】
翔一は、若い頃の自分を転移者として呼び出します。今こうして体験記を書きながら振り返ると、このシーンで転移者ショウに「地球に戻ることを、どう認識させるのか」という点は、とても重要だったように思います。執筆当時はこれが重要だと気づかず、深く考えませんでした。すでに翔一を転移させ、こちらは地球に未練が残らない状況に設定していたので、油断していたところもあったのかもしれません。
ショウについては転移を、「地球に戻りたい。戻れる可能性があるかもしれない」と認識させました。これは単に、地球で酷い状況下に無く、見知らぬ地に何の説明もなく転移をしたら、そう考えるのが普通だと思ったからです。更にこうした認識を持っていると、消極的で慎重な行動指針を取るように思え、実際そのように書き進めました。
そうした結果。惑星上の主人公であるショウが重い悩みを抱えているので、翔一や後に登場する宇宙人など周囲の人物たちがお気楽な性格であっても、作品がどうしても暗いトーンを帯びるのを払拭できなくなりました。