01.異世界転移のガイダンス場面を試行錯誤しました、ほか(1話)
【以降の表記について】
ここから各話ごとに、ぶつかった問題を中心に、書くときに考えたことを綴っていきます。必要な場合は物語のあらすじにも触れますが、登場人物たちについては、「ヒロイン」「プレイヤー姉」「敵宇宙人」など、その役割名で記載します。名前を覚えなくても良いようにするためです。
ただ主人公だけは、その特殊な設定から、作中の名前を用いたほうが分かりやすくなると判断しました。ここで紹介しておきます。
・翔一
宇宙マスター。全知全能。異空間からショウを見守る。
・モール
妖精。惑星上での翔一の化身。名前の由来は「見守る」から。
・ショウ
惑星への転移者。翔一18歳をコピペした存在。
あと、次の用語も使用します。
・原生人
もともと惑星に生息している、ヒト型の知的生命体。
【第1話「就任」を書いてみました】
【異世界転移のガイダンス場面を試行錯誤しました】
物語冒頭は、さまざまな作品でおなじみの、異世界転移のガイダンスから始めることにしました。読んでいてワクワクし、その一方で「これぐらいなら自分にも書けそうだな」と思う、定番の場面です。
……そうして最初は、以下のような文章になりました。
・男2人が対峙。仙人のような老人が主人公に宇宙マスターにならないかと打診。
・次の3つの文章を繰り返す
・「(主人公が質問する)」
・「(老人が答える)」
・老人の答えについて、主人公が考える。そして次の質問に。
自分で読んでみても、読むのが途中で嫌になるような文章になりました。口調を砕けさせても改善できません。これは書けるだろうと思っていた定番場面が、書けはしたものの、酷くつまらないものになるのです。このままにして続きを書くのは、駄目だと思いました。
そこでまず初めに行なったのが、主人公の質問文を削ること。この質問が無くても老人の回答からその内容を推測できるので、思い切って削ることにしました。
こうしてシンプルになったのは良いのですが、まだ何かが足りません。それが何なのかが分からないまま、推敲を進めました。2人のいる場所がどんな様子なのか全く描写していないことに気づき、その場をできるだけ具体的に頭に思い浮かべてみます。……すると何が駄目なのかも、分かった気になれました。物語の出だしなのに、場面に華がなく、地味すぎるのです。
今度は主人公を誘う人物を、男の老人から若い女性に変更しました。女性の話し言葉を書くのは照れくさかったのですが、そんなことを言っていては小説が書けません。理知的な女性を思い浮かべて、なんとか書いていきます。すると。
今度は怪しげな団体への勧誘か、セールスであるかのようなシーンになってしまいました。後述しますが主人公はITエンジニアにしようとしていたこともあり、こんな怪しげな勧誘に乗るとは思えません。どうすれば主人公が承諾するような展開になるのか考えあぐね、結局、色仕掛けに屈する展開にしました。こうしてさらに慣れない文章を書く羽目になっていきます。
……今振り返ると。男2人の対峙から始まるものでも、面白い作品はたくさんあるでしょう。2人のキャラが立っていなかったから、その掛け合いに面白みが生まれなかったように思います。
【主人公のプロフィールを決める必要性が生じました】
当初は主人公のプロフィールをぼかして、地球出身かどうかすらも曖昧にして書いていたのですが、早々に行き詰まりました。ある程度プロフィールを決めておかないと、主人公が喋りそうなセリフや、見聞きしたことについて何を思うのかを、イメージすることができません。そうした状況に至ってようやく主人公のプロフィールを設定することにして、年齢も職業も二転三転しましたが、最終的には「日本人男性、30代、ITエンジニア」に決めました。
年齢については、後に主人公が18歳の分身を創り出すので、一回り差がつくようにしておきます。職業については、主人公が超常の能力を発揮するとゲーム運営が混乱することになるはずなので、同業者にしておくと面白いエピソードが書けそうだと考えました。合わせて主人公がチート能力を発揮するときの決め台詞を、「運営さん、ゴメン!」にします。この台詞は1度も使いませんでしたが。
名前は、年齢から逆算して1990年頃の生まれで多い名前を統計情報から調べ、カタカナ表記でも違和感のない「翔」を選びました。18歳の分身には「ショウ」を名乗らせるのですが、すぐに思わぬ問題が生じます。日本語変換の際に「しょう」と入力するわけですが、これを「翔」と「ショウ」に変換し分けるのがとても面倒なのです。そこで主人公の名前には「一」を付け足して「翔一」とし、分身のほうは「ショウ」のままとして、読みが異なるようにしました。
【風景描写をしてみました】
異世界転移ガイダンスの途中で、怪しい勧誘ではないことを示すために、女性は翔一を物語の舞台となる惑星に連れていきます。
となると、何か惑星の様子を書かなければなりません。これがまた、どこまで書いたものか、決めあぐねました。場所はごくありきたりな山の中で良かったのですが、「ごく普通の山の中のようだ」といった文章だと軽すぎて、作品全体が中身スカスカそうな印象になってしまいます。
何をどう書けば臨場感が出るのか手探りでしたが、味覚をのぞく五感で感じることを一通り書いてみようと、山に入ったときの記憶を呼び起こし、視覚、聴覚、触覚、嗅覚の情報を列挙していきます。そこそこの字数を割いて書き、なんとか形になったのかなと思っています。
風景描写については、以後もたびたび悩まされることになります。地形が物語展開に関わる場合は書くしか無いので、踏ん切りが付きます。しかしそうでない場合は、時間をかけても凡庸な文章が連なるだけで、読むほうも退屈だろうし、誰も得をしないのが辛いです。
【全知全能の能力のお試しで、翔一のキャラが少し定まりました】
惑星に連れて行かれた翔一は、今度は全知全能の能力のお試しをさせてもらいます。ここで何を翔一にさせるのか悩みました。
空を自由に飛び回る。……スケールが小さすぎます。
惑星を拳で砕いて元に戻す。……翔一を武闘派キャラにしても、戦う相手を用意できません。
街に繰り出し、若い娘を集めてムフフ。……成人男子ならこれがもっともありそうですが、女性から案内を受けている最中なので、体裁を取り繕うでしょう。
全宇宙の情報を収集しようとする。……ITエンジニアなら不自然ではないと思い、これにしました。
作中ではこの後に翔一は無気力になり、能力行使を自制するようになります。こうした能力行使からの一連の流れは、始めから意図していたものではありません。もともとは転移者ガイダンスの流れで翔一にお試しをさせてみただけなのですが、初めて翔一が能動的に行動する機会であり、かつ全く制限がないので、その性格が顕著に現れるエピソードになっていました。書いている当時は、このことには全く気づいていませんでした。
こうして七転八倒して書き上げた第1話。それから5ヶ月以上あとに投稿するまで、何十回となく推敲を繰り返すことになります。