第7話 ギル先生の魔法講座1
読んでいただき、ありがとうございます!
お待たせいたしました。別に棒術とか杖術の動画を漁ってたら書くのが進まなかったとかそういうのじゃないんだからね!!
※魔法という言葉を魔術に統一しました。
初日のバリー先生による訓練が終わった。
この日は、体力や精神面を鍛える意味合いが強い訓練が多かった。初日はこんなものなのだろうと思い、そこまで深く考えていなかった。
しかし棒を使った訓練はいつ開始するのだろうと、気になった努はバリーに聞く。
「棒術ですか…、残念ですが私は棒を振るう技術は持ち合わせていませんな。」
バリーは、槍の類はもちろん使えるが、棒術には明るくなかった。
一般の兵士であっても刃物や重りも付いていないただの棒を使う者などいない。スピアやグレイブなどの槍を使うことはあるが、わざわざ殺傷性の低い物を使うことはないだろう。
「ですが棒や杖を扱う知り合いはおりますな。そちらに掛け合ってみましょう。」
「ありがとうございます!」
バリー自身は使えないが、棒を上手く使える知り合いがいるようだ。努は独学でやらなければならないという可能性がなくなり、少しホッとした。
努はあの棒に触れた瞬間から、なんとなく使い方は頭に入ってきた。しかしだからといって、実際に、指導者から教えを受けるのと受けないのでは、上達の速度も大分変わるだろう。
「ただ到着するまで時間がかかると思われますな。それまではこちらで剣術や槍術の基礎も鍛錬しましょうか。」
「はい、先生!」
どうにか努は、棒術の師を得ることができるかもしれないと思い、安堵したのだった。
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努は訓練のあと、入浴を済ませ自室で夕食を取る。努は鍛錬後の自分の体に驚いていた。なぜなら、多少の疲れはあるが痛みなどはほとんどなかったからだ。
普段であればあれほど体を酷使したならば、疲労はとんでもないことになっていただろう。これも召喚者の特典なのだろうか。それであればありがたいと思った。
今日は午前中はパーティーメンバーの顔合わせがあったためなかったが、明日からは午前中にギルによる魔術の鍛錬、午後から戦い方の鍛錬といったスケジュールになるらしい。
安息日は月に5日ほどあるらしいが、あまり時間のない中努を遊ばせておくことはできない。少なくとも、午前中は何かしらの鍛錬をして、午後から休みになるという形になるらしい。
どうやら努は休みらしい休みはほぼ取れないらしい。その事実に少し気が滅入るが、こうしている間にも戦いは起こっているのだという話を聞いては、努もじっとはしていられない。
それに、明日からようやく自分も魔術を習うことができるのだ。それに対してのワクワクとした気持ちもある。
その日、努は遠足前の小学生のように、明日が楽しみで中々寝付くことができなかった。
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努は朝食後、さっそくギルが待つ場所へと向かう。ギルが待っているのは魔術訓練所という、昨日の訓練所とは別の場所に建てられた建物だ。それは、魔術の鍛錬専用の施設であり、魔術師団の団員が主に使っている。
「ここが魔術訓練所…、結構大きいんだな。」
少し歩くと、努は魔術訓練所に着いた。昨日の訓練所は木で作られており、道場にも似た施設であった。対してこちらは、石作りの建物で、全面が白い塗料で塗られている。見た目は神殿に近いのではないかと思う。
「おう、来たか。おはよう。」
「おはよう。そのローブめっちゃ目立つな。」
ギルが手を上げながら努に挨拶をする。
ギルは入り口の前で待っていてくれたらしい。いつもの真っ赤なローブを着ていた彼は、訓練場の白い壁のせいでよく目立つ。
「カッコイイだろ?俺のお気に入りなんだよ。」
「そうかー、カッコイイカッコイイ。」
「こっち見て言えよ。」
こちらの世界に来てから、ギルがその格好をしている姿しか見ていないためなんとも言えないが、流石に見慣れてきた。
努に流されたギルは真顔で突っ込むが、努は目を合わせようとしない。
「ていうかそれ毎日着てるのか?初日から着てるような気がするんだけど…」
「当然1年中これだぜ?これと同じ物を10着は持ってんだ。それを着まわしてるってワケよ。」
それを聞いた努はうわぁという顔をするが、ギルは見ていなかったようだ。
「ここで話しててもなんだし、そんじゃ行くか。」
ギルは身を翻して訓練場の中へと入っていき、努もそれについていく。
魔術訓練場の中に入るとまず受付があり、ローブを着た男性が座っていた。受付の男性はこちらを見ると、ギルの顔を知っていたらしく、ギルに目礼をした。
するとギルはそのまま軽く挨拶をして奥へと足を進めた。どうやら魔術師団副団長様は顔パスのようだ。
昨日の訓練場と違うのは、施設に入ってすぐに広場があるわけではないというところだ。
例えるならば、昨日は入ってすぐに体育館のアリーナがあるタイプであったが、魔術訓練場はアリーナだけでなく、まずロビーがあり、会議室や医務室などの小部屋もいくつかあるタイプだった。
そして2人はまず会議室のような部屋に入った。
「ここでまずは魔術に関して基本的な知識と、使い方を教えるぞ。」
「分かった。」
努は用意されていた椅子に座り、ギルは黒板のようなものの前に立つ。完全に授業形式だ。
「まずは魔術についてだ。この世界には魔素っていう魔力の源になるもので溢れてるんだ。空気と同じ感じだな。」
そういうと黒板に備え付けられていたチョークで、図を描きだした。
「んで、この魔素を体の中に取り込んで魔力に変換させる。そしてその魔力を使って魔術を使う。簡単に言えばこんなもんだ。」
黒板にはギルが描いた人間が魔素を取り込んでいるであろう絵が描かれているのだが、どうやらギルに絵心はないらしい。何が描きたいかは分かるが、如何せん下手くそ過ぎる。
努は真剣に授業をするギルにそれを言うのも悪いと思い、スルーすることにする。
だが、このことはまた後でネタにしてやろうと考える努であった。
それに気づかないギルはそのまま説明を続ける。
「この魔素ってのは何種類も存在してるんだ。だが俺たち人間が取り込める魔素はその中の1種類だけだ。」
ギルは世界に存在している魔素は1つだけではないのだという。
「他には魔物が取り込める魔素、獣が取り込める魔素なんかがあるんだが、この魔素を多く取り込んだ魔物が魔族に進化し、獣は魔獣に変化する。」
人間と違い、魔物や獣が魔素を多く取り込むと、生物として進化するらしい。
「魔物と魔獣は違うのか?」
「ああ、魔物はそもそも魔素溜まりから発生する生物だ。こいつらの体は魔素で出来ていて、死ぬとまた魔素になる。魔獣は元の獣より狂暴になり、巨大化したものだ。死んでも魔素にはならない。そしてその死骸は装備なんかの素材にもなる。」
「このローブも魔獣の皮で出来ているんだぜ」とギルが言い、努はローブを見ると、うんうんと頷く。どうやら納得したようだ。
「じゃあ魔獣は凶暴化した獣で、魔物は魔素から発生したものか。」
「そういうこと。ただ魔族は魔物とは比べ物にならないほど強い。力だけじゃなくて知性も備わるからな。」
魔獣は獣の上位互換でしかなく、思考は獣のままだ。しかし、魔族は魔物の頃と違い知性まで高くなる。それゆえ、より狡猾に、残虐になるのだ。
「じゃあ魔王っていうのは…、その魔族たちの王ってことか。」
「そうだ。この魔王は元になった魔物の時点でかなり強かったらしい。そいつが魔族に進化したんだ…、こいつは今の俺たちではもうどうしようもない。」
魔獣が相手であっても、よほど強いものでない限りはこの国の兵士たちなら倒せる。1番弱い魔獣ならば、この国の人間であればただの住民でも倒すことができるだろう。
魔物に関しても、やはり強さによるが屈強なこの国の兵士や騎士であれば倒せる場合が多い。
しかし、魔族はもはや別次元の強さだ。ただの兵士はもちろん、厳しい訓練を積んだ騎士であっても遊び殺される。
「前の魔王の軍との戦闘では魔族が3人参加しただけだった。それだけでこちらの軍は半壊したんだ。俺も参加していたんだけどな、ほとんどがレジストされちまった。」
まさかの言葉に努は言葉がでなかった。これから戦う相手の魔族は、それほどまでも強敵であったとは。召喚された勇者に頼らなければならないような状況だ。そんなに甘い相手ではないだろうとは思っていた。だが実際に話を聞き、自分がどこか甘く考えていたことに気づいた。
「魔王か…、勝てるのかな…。」
ついそのような言葉がこぼれる。今の段階では努には戦闘能力はほとんどなく、この国の兵士にも勝つことはできない。そんな努が果たして魔族を率いる魔王に勝つことができるのだろうか。
「そんなことはやってみねえと分からんだろ。どちらにせよ今はただ力をつけるだけだ。だろ?」
ギルは努にそう言う。そう、結局のところ今は鍛錬あるのみなのだ。最終的にどうなるかは分からない。ただ言えるのは、負ければ死ぬ。それだけなのだ。
「それもそうだな…。よし!ギル、続けてくれ。」
いつまでもぐちぐち言っていても、何も変わらない。今は鍛えなければならない。そう思い直した努はギルに続きを促す。
「話が脱線しちまったな。まあ続けんぞ。」
ギルが話を戻し、続きを始める。
「まあこの魔力を魔術に変換して使うワケだが、魔術には『無属性』、火、水、土、風の『基本4属性』、『光属性』、『闇属性』の6つある。この無属性以外にはそれぞれに適正が必要だ。言うなりゃ才能だな。こればっかりはどうしようもねえ。」
「まあ俺は全て使えるんだけどな」などとドヤ顔で言うギルを無視し、努は続きを促す。
「属性魔術はそれぞれ言葉通りの物が使えるだけじゃねえんだ。組み合わせ次第で色々と操ることができる。」
「どういうことだ?」
努はギルが言った意味が分からずそう言った。
「そうだな…、例えば火属性と水属性だ。その前にまず火属性について補足だ。こいつは火属性とは言ってるが本質は『熱』だな。」
「熱?」
「そうだ。つまり熱の上げ下げを操れるってこと。そんで水属性魔術で作り出した水を火属性で冷やす。そうして使えるのが『氷』魔術だ。これは理解できるか?」
「ああ、問題ない。」
努にとってはこれを理解することは特に難しくない。だがこちらの世界の住人には、理解出来ぬ者も多いのだ。
「そいつは重畳。とまあそんな感じで他に関しては…、水属性魔術は上級者になってくると『回復』魔術を使えるようになったりだな。」
「なるほど…」
「他には火属性と水属性、風属性を合わせて『雷』が使えたりとかだな。ただまあこれは難易度がアホほど高い。実際人族で使えるのは俺くらいだな。」
「ちょいちょい自慢挟むよな。」
別にギルは自慢をしている訳ではない。事実これを使えるのは天才であるギルくらいだ。
「とまあそういう感じだ。ま、ツトムは土だけだからそんなに関係ないな!次の説明すんぞ!」
努はイラッとしたが気にしないことにする。
「闇属性は負の力。光は聖の力。ただ光属性と聖職者たちの『聖気』は似てるが違うもんだ。つっても詳しくは分からん。ぶっちゃけ光属性は聖気の下位互換みたいなもんだ。聖気の方は回復なんかもできるしな。」
どうやら光属性は不遇な扱いのようだ。普通1番重要な属性だったりするのだが。
「次に無属性っていうのは訓練すれば誰でも使える魔術だ。…だがこれが魔術師たちにとって1番重要な属性だ。この魔術の操作は他の属性魔術の上達に関係するからな。これを怠った魔術師は一流にはなれねえ。」
何事にも基本が1番大事だ。それは魔術に関しても例外ではないらしい。
「そんで逆にこれを極めれば他の魔術もすぐに上達する。そして無属性を極めた俺は今この地位に居るってワケだな!」
「なるほど…、ギルは頑張ったんだなぁ…。」
努は本気でそう思った。自分で天才という彼の実力と自信は、努力に裏付けられたものであったのだ。
「そう言われると何か照れるな…。ま、まあそういうことよ!」
真正面から言われると照れてしまうのか、ギルは顔を赤くしながら誤魔化した。
「そんでこの無属性魔術の代表的な魔術としては『強化』、『魔力弾』、『マジックハンド』ここら辺だ。」
そこからギルは、それらの魔術をこう説明した。
『強化』・・・魔力を圧縮し自分の体に纏わせ、身体能力を上げる魔術。騎士や兵士はほぼ例外なくこの魔術を使っている。また、聖気の使える修行僧らはこの強化と聖気を併用して使うらしい。熟練者は部分強化ができるらしく、魔力の無駄な消費を減らせるらしい。
『魔力弾』・・・魔力を固めて弾丸のように発射する魔術。ただ、純粋な魔力を固めて発射するので、消費する魔力が高く威力が低い。あまり実用性はない。ギルならば人を殺す程度の威力を出せるのだとか。
『マジックハンド』・・・魔力を固め、手に見立てて物に触れさせることができる。元の世界で言えば、サイコキネシスと言われるものに近い。ギルは背中を掻くのに便利だとぬかしている。
「まあ、こんな感じで大体は純粋な魔力を固めて使う魔術だな。だが基本的に殺傷力に関しては他の魔術を使った方が高い。」
「でも色々と応用できそうで面白そうだな。」
「そう、それが大事なんだよ!一工夫入れるだけで色々なことができる。これは全ての属性魔術に言えることなんだ!」
ギルは興奮したようにそう話す。
「中々それを理解しないで、現存する魔術をそのまま鍛錬するやつらばかりだ。だからいつまでもやつらは上達しないし新しい魔術は生まれない!」
現存する魔術は種類も多い。使える魔術の数を増やすことに時間を費やす魔術師は少なくない。いや、ギルのように新しい魔術を作ろうと考える者は少数だ。もっとも、ギルは現存する魔術のほとんどを使いこなすことができるのだが。
「すでに俺のオリジナルの魔術もいくつかあるのによ、それでもやろうとしねえんだ。努はその点他のやつらより理解してる!いやぁなんだ、やっぱ最高だなお前は!」
ギルがそう笑顔で言う。ギルと出会ってから初めてこんなに興奮しているところを見た努はびっくりする。それと同時に、こんなにも喜ばせることができたのかと思い、努も嬉しくなる。
「そうか、ありがとう。俺もギルに言われたら嬉しい。だがとりあえず続きを頼むよ、ギル先生。」
だがこれではまた話が進まなくなる。努は興奮するギルを宥めて話を戻させる。
「ああ、すまねえな。いつになく興奮しちまった…。それで魔力についてだが、体内で保有しておける魔力の量には限りがある。これにも個人差があるんだがな、これは鍛錬次第で伸びる。筋肉と同じだな。」
人が持てる魔力の量は、その人間の素質によって違う。ほとんどの者は保有できる量は少なく、限られた者だけが、魔術師になることができるのだ。一般の兵士や、騎士は魔力を魔術に使ってしまうとすぐになくなってしまうのだ。
しかし魔力の保有量は鍛錬によって伸びる。これは魔術を使用したり、専用の鍛錬をして伸ばすことになる。だがこれにも限度がある上に、効率もあまりよくない。地道な鍛錬が必要なのだ。
「才能に頼ってこれをさぼる魔術師もいるが、ほとんどの場合は生涯に渡って毎日鍛錬し続けるもんだ。それにこの鍛錬は魔力の保有量が伸びなくなっても、魔力の操作の鍛錬にもなる。だから俺もずっと続けてるってワケよ!」
「そうか…、なるほど。一石二鳥なんだな、その鍛錬は。」
「そうだ。…よし、説明はそんなところだな。じゃあ実際にやってみるか!」
「おう!!」
ようやく何度も脱線した説明が終わり、努は魔術の実践に入るのだった。
ようやく魔術に関しての説明ができた…