第6話 初訓練
読んでいただきありがとうございます!!
今回は少し短めです。
努が選んだ武器は灰色の棒。銘などはなく、装飾も一切ない。長さは6尺ほどである。見た目ははただの棒に見える。
勇者の武器というには華やかさが足りないように思えるが、自分に合わない武器を使っていても、強敵に勝つことは出来ないだろう。
そうして無事に武器選びを終えた努は、昼食を取り次第早速訓練を始めると言われた。
昼食は自室でなく、王とともに広間で取り、その後城の訓練場まで足を運んだ。
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訓練場にいたのは、隻腕の老兵士だった。老兵士とはいえやはりこの国の男だ、鍛え上げられた肉体には一切衰えを感じさせない。
彼の名前はバリーというらしい。努はバリーのことを先生と呼ぶことにした。
バリーは近隣の国でも有名な武人だったらしく、若い頃は数々の戦争で活躍していた。その後は片腕を無くしたが、暫く兵士として従事していたが、10年前に引退し、それからは指導者として後進の育成に力を注いでいるのだという。
「ふむ…、まず服を脱いで頂けますかな?」
「えっ、服をですか?」
「ええ、早くして下され。訓練ができる時間は少ないのですからな。」
努は困惑しながら指示に従う。きっと何か意味があるはずだ。そう信じて上半身の服を脱ぐ。
服に覆われていた努の鍛えられた肉体が晒される。鍛えられた鋼の肉体は、まるで服の下に鎧をつけていたかのように見えた。
「ふむ…、では下も脱いで頂けますかな。」
「下もですか!?」
「そうです。ほれ、時間は有限なのですぞ?」
努は流石に恥ずかしいと感じた。訓練場にいるのは努だけではなく、非番の兵士や騎士もここで、自主訓練をしているのだ。
上半身程度なら脱いでいる者もちらほら見かけるのでまだ良かった。しかしズボンもとなるとちょっと気が引ける。
バリーが急かすような目をしていることに気付き、諦めて下も脱ぐ。これで努が身に付けている衣服は下着のみとなった。
「ふむ…、なるほど。」
何がなるほどなのかは努には全く分からなかったが、バリーは納得したようで、小さく頷いていた。
続けてその格好のまま、垂直跳びや、短距離走等をさせられた。努はもうどうにでもなれという気持ちで、言われるがままに動いた。
努は周りの兵士たちから変な目で見られるかと思っていたが、むしろなんだか生暖かい目で見られている気がする。努は何故だろうと思っていた。
努は知らないが、バリーに鍛えられた兵士たちは皆、新兵の頃に同じことをさせられていた。毎年新兵は同じ事をさせられるので、これを見るたび「またやってるな」と感じるのだ。
そんな兵士たちの視線を感じ、早く終われと願っていた努だったが、軽く汗をかいてきたところでようやく終わりだと告げられた。
「ふむ、大体分かりました。」
「先生、今ので何が分かったんですか?」
今のパンツ一丁の状態で少し動いただけで何が分かったのだろうか。努は不思議に思い、尋ねてみる。
「ツトム殿が今の段階でどれだけ動けそうかです。幸いツトム殿は既に体は出来ております。流石に王に褒められるだけのことはありますな。おかげで修練の時間がだいぶ短縮できそうです。」
努はその言葉を聞いて驚いた。バリーには今のやり取りの間で、そのようなことが分かったというのだから。
「体力もありそうですがこればかりはやってみなければ詳しくは分かりませんな。」
バリーは、「どれ…」と言いながら、訓練場の外にある、物置に入っていった。
いったい何を持ってくるのだろうと少し緊張しながらバリーを待つ。すると、バリーは何やら装備のような物や、やたら重そうな鞄を持ってきた。
「先生、これらは何ですか?」
「何、ただの鎧と重りです。さあ、まずこれを着てくだされ。」
そう促され、努は鎧を装備してみる。篭手や、胴衣、脛当てなど、順に補助して貰いながら付けてみる。
そうして着てみると、やはり見た目通り1つ1つがズシリと重い。しかし、全てを着ると、思っていたよりは動きやすい。
「着れたようですな。では、この重りを背負って…、そうですな。この訓練所の周りを30周してみましょうか。」
努は重りを背負いながらそれを聞いていたが、後半のことを聞いて驚愕した。
「この訓練所の周りを30周…ですか?」
「そうです。さ、行ってきなされ。」
有無を言わさずに努を外に出させるバリー。努はこの人は本気で言っているのかと思った。なぜならその重りは少なくとも40キロはあると思われる。さらにこの訓練場の広さはおよそ一般的な体育館ほどはあるだろう。それを30周しろというのだ。
しかし努も泣き言など言ってられないと思い、すぐ外に出て、外周を始める。
ランニングは元の世界でもやっていたが、ここまでの重りを背負いながら走ったことはない。それでも、努は重りの重さにふら付くこともなく走る。
5周もするとさすがに速度が下がってくるが、速度が落ちるとバリーから叱責が入る。
努もそこでへたれるような性格ではない。負けてたまるかと歯を食いしばりながら、淡々を走るのであった。
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「お、終りました…。」
「ご苦労様です。しばし休憩にしましょう。」
何とか最後まで終えた努は荷物を降ろし、倒れそうになるが、それは堪えて腰に手を当てて上を見上げる。これで倒れてしまうようでは駄目だと、思っていたのかもしれない。
「体力もそれなりにあるようですな。良いことです。」
バリーは笑顔になりながらそう言う。戦場では、まず体力が大事である。努が思っていたよりも体力も根性もあったことに喜びを感じているのだ。
「それでは、重りはあと10ニール――地球で言う10キロ――増やしましょう。そして走る距離もまだ増やせそうですな。ならば50周にしましょうか。これは、明日からも毎日行いますゆえ。」
そう、体力のトレーニングは毎日やらねば意味がないのだ。旅に出るまであと2ヶ月しかない。ちなみに、1日の時間が24時間、1年が365日であることは、地球と同じようだ。中々に都合が良い。
「重りも走る距離も慣れたらどんどん増やしましょうか。」
バリーが笑顔のまま言うと、努は引きつりながら笑い返した。
この日の訓練はこの他にも、簡単な体術などを教わって、終了したのだった。
強キャラじいちゃんを出したかっただけさ…。