第5話 勇者の武器
読んでいただき、ありがとうございます。
話が中々進まないと、作者の中で話題に!( ´・ω・`)
パーティメンバーの顔合わせが終った後、迎えの兵士に呼ばれて他のメンバーと別れた。
この後は早速訓練となるが、その前に行うのは努が使う武器選びだ。そのために、王城の武器庫に向かう。
(勇者の武器って言ったらやっぱり聖剣とかなのかな?)
物語で出てくる勇者の武器といえばやはり剣が多い。これはいったいなぜなのだろう。何か理由があるのか、それとも単純に皆聖剣に憧れを抱いているからなのだろうか。努はそんなことを考えながら兵士の後ろについて歩いていく。
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暫く廊下を歩くと、武器庫に着いた。武器庫の前には槍を持った見張りの兵が2人立っており、一人は槍を持ち、もう一人はウォーハンマーを持っている。努は見張りの兵士に軽く挨拶しながら中へ入る。
努はキョロキョロと部屋を見渡しながら、兵士の後ろに付いて行く。武器庫の中は石作りで窓は一切無く、代わりに何か照明のようなもので部屋は照らされている。
棚には様々な武器が種類ごとに分けられて置いてあり、それぞれ丁寧に手入れされているように見える。
1番多く置いてあるのはウォーハンマーだ。剣ではないのかとも思った努は、案内の兵士に聞いてみる。
「なぜ武器はハンマーが多いのですか?武器といえば剣というイメージがあったので何でだろうと思って…」
「ああ、この国ではハンマーを好む者が多いんですよ。力の強い者が多いので、打撃武器の方が上手く扱えるんですよ。」
「へぇー、そうなんですか。確かに体格のいい人が多いですもんね。」
「私は槍や剣の方が得意なのですがね。」
苦笑しながら兵は言う。この国では強靭な肉体を持った兵士が多い。そのため、剣や槍を使うよりも打撃武器を扱うことの方が多いのだ。現に案内役のこの兵士も、中々鍛えられているように見える。
他にも槍や斧、剣、弓、クロスボウなどが並べられており、努は見ているだけで楽しくなった。
武器庫の奥まで来ると、地下へと続く階段があった。兵士はそこで立ち止まり、努に告げた。
「私はこの中に入ることを許されておりませんので、この先は勇者様のみお入りください。中で陛下がお待ちになられているはずです。」
どうやら案内の兵士が来れるのはここまでのようだ。努は案内の兵士に礼を言い、階段を下りていく。
降りた先には、黒く光沢のある扉があった。材質は努には分からない。見たところ鉄ではないようで、何か特殊な鉱石で出来ているのではないかと思われる。
努が扉に近づくと、扉は内側に向かってゆっくりと開いた。外からでは薄暗くて中の様子は分からない。
おそるおそる努は中へ入る。すると、黒い扉は独りでに閉まる。閉められたことにより、さらに辺りは暗く見えづらくなった。
まさか勝手に閉まるとは思っていなかった努は体をビクリと震わせながら思わず「うぉおお!!」と驚いた声を出す。
「怖っ!!どこの幽霊屋敷だよ!!!」
努はホラー耐性はないらしい。大声で文句をいい、恐怖を紛らわせている。そのとき、パッと明かりがつく。
辺りは急に明るくなり、その全貌が明らかになった。そこはまだ部屋ではなく、短い廊下になっており、その先に広間が見える。
その短い廊下には、素人の努でも分かるような、先ほどの武具庫に保管されてあった物とは明らかに質が違う様々な武具が飾られていた。また、その一つ一つには、薄っすら光が掛かっており、不思議な力を感じる。
「これは…」
おそらくこれらには魔術が掛かっているように感じる。するとこれらは魔術の武具なのではないかと、努は考えた。
青い光を魔ロングソードや、黄色の光を纏うハルバード、銃のような形をしている武具もある。努は思わず魅入りそうになるが、先の広間にレオナルド王が待っているのであったと思い出して、名残惜しいが先に進む。
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努が広間に入る前にレオナルド王が広間の入り口から出てきた。
「来たか、ツトム!どうだ!我が城の秘蔵の武器庫は!!」
「いやもうなんか…、すごいとしか言えないです。」
「わはは!!そうであろう、そうであろう!!」
苦笑しながら努がそう答えると、レオナルド王は子どものように笑う。実に楽しげだ。
「ここはな、王族しか入ることができん部屋なのだ。」
王はそう言いながら、胸を張り腕を組む。その巨大な筋肉を強調され、威圧感が増す。間近にいる努は正直目を逸らしたくなるが我慢する。
王は人と話すときにはいつもその体勢になる。おそらく癖なのだろう。
「入り口の黒い扉があっただろう。その扉には特殊な材質が使われており、まず壊れることはない!」
昔一度試したことがあったのだと笑いながら話す王に呆れた表情をする努。
「そしてここは正確に言うと城の中ではなく、異なる空間に作られた部屋なのだ!あの扉には魔術が刻まれておってな、扉の前に居る者を認識し、それが入る資格のある者であれば扉が開き、別の空間へと繋げるのだ。」
「それでは私はどうしてここに入れたのですか?」
王族しか入ることができないのであれば努も入ることができないはず。そう考えた努は王にそう尋ねた。
「召喚された勇者は別よ。詳しくは余も知らんが、研究しておる魔術師からすると召喚の魔術陣には扉が認識するようになる術式が含まれているらしい。しかし召喚の魔術陣に関する資料はほとんどなくなっておる。そのためそのくらいしか知らなんだ。」
「召喚の魔術陣っていつからあるんですか?」
資料も残っていないということは、もしかするとこの国が出来る前のものなのかも知れない。そう努は考えた。
「あれは初代の王の時代に旅の魔術師が作ったものらしい。」
「初代の時代ですか…。それに旅の魔術師…?その時代には何か召喚の魔術陣を作らねばならない出来事があったのですか?」
「うむ。今から約500年前だな。その時にも世界には魔王が現れたのだ。圧倒的な力を持つ魔王は残虐の限りを尽くした。そのときにふらりと立ち寄った魔術師がこの魔術陣を作ったといわれておる。それにより召喚した勇者の力によって魔王は倒され、平和が訪れた…。簡単に言うとそんなところだ。」
詳しくは他の者に聞けと王は言った。この話はおとぎ話として一般的に広まっているらしい。城の図書館にもいくつか本があるそうだ。
「それよりもお主の武具だ!!好きなものを選ぶが良い!!」
「あ、はい!」
ここに来た目的は努が使う武器を選ぶためだ。努は本来の目的を見失いそうになっていたが、意識を切り替えて、武器を眺めた。
広間にある武器は5つある。それぞれ何故か石作りの台の上に浮いている。原理は不明だ。また、一つ一つに強大な力を感じる。それは先ほどの廊下に飾られていた魔術の武器の比ではない。
「すげぇ…」
努は思わず口から出てしまっていた。
「うむ、そうであろう。それらは後ろに飾られておった武具とは別次元のものだ。それら全てに聖気が纏われておる。本来武器に聖気を含ませることは不可能なのにだ。」
そう、聖気を武器に纏わせることはできない。聖気を扱える聖職者たちは、身に纏わせることはできてもそれを武器にかけることは出来ないのだ。それが出来るものは信仰心が強く、長らく修行をした者のみ。しかしその者たちでさえもほんの気持ち程度にしかかけることはできない。
それはグレゴリーも例外ではなく、彼も極少の聖気を拳鍔に纏わせることしかできないのだ。
「でも魔術がかかっている武具はありますよね?」
「そうだ。そもそも普通の魔術の武器というのは武器に魔術陣を刻み、そこに魔力を注ぐことによって魔術を纏わせることができるのだ。」
魔術の武器は武器自体に魔術陣を刻むことによって魔術を纏わせることができる。しかしこれには、武器そのものの耐久性が高くなければならない。
それは鉄ではほとんど不可能であり、魔術との親和性が高いミスリルなどの特殊な鉱石が必要だ。
さらに必要なのは繊細な魔力操作だ。武具に魔術陣を刻むためには、針に糸を通す何十倍もの繊細さが必要になる。
これが出来る人間の魔術師はほんの一握りである。膨大な面積を誇るガレリオン共和国にも、それが出来る者は数人しかいない。
「でも廊下にあった武器はからは…、あれは魔術の力なのかな…?最初から不思議な力を感じましたよ。」
そう、今の説明であれば使い手が魔力を注がねば魔術は発動されないはずである。しかし廊下に飾られていた武器は常に魔術を纏っている状態であった。
「あれらは遺跡から発見されたものだ。おそらく過去の遺物であろう。しかし現代の者には再現することはできん。解析もまったくできておらんのだ。」
「なるほど…、ではこれらの武器もそうなのですか?」
「うぬ、これらは建国当時からあったらしいが、いつ頃作られたのかは分かっておらん。おそらく神によって授けられたのだという説もある。」
人間では作ることの出来ない武器。そしてそれらは魔王を倒すときに振るわれる。まさしく神が人類に授けた力なのだという。
努は改めて武器を眺め、そしてその凄さを再認識した。
「そしてその力は勇者が振るうためにある。さあツトム、選ぶが良い。」
努は近づいて一つ一つじっくり観察した。
1つ目はロングソード。純白で長い刀身からは絶大な力を感じ、これならばあの武器庫の扉も斬れるのではないかとさえ感じる。鍔の部分は長めで切っ先の方に向けて少し反っている。
これが聖剣と言われる物だろう。努がそれを手に取ってみると、見た目からは想像できないほどに軽い。まさに羽のようだ。
2つ目は槍。普通の槍とは違い、フォークのように先に3つの刃がつけられている。これはトライデントと呼ばれる物に近い形状だ。だが努には少々使いにくいように感じられた。
3つ目は弓。これは翼の形を模しており、幅が広い。しかし弓はあっても矢がない。矢はどうするのだと王に聞いてみると、これは弦を引くと光の矢が生成されるのだという。
しかし弓は使ったことがないし、努の戦闘スタイルに合いそうもない。
4つ目はハルバードだ。柄の先端は槍のようになっており、大きい刃とそれより小さな刃の両刃になっている。刃には何やら紋様が書かれているが、ただのデザインではないだろう。
5つ目は銃のようだ。先ほど見かけたのが魔術銃だとすると、こちらは聖銃とでもいうのだろう。これは2丁あり、片手に一つずつ持ち、使うのだろう。銃口は大きめで、これも弓と同じく魔術の銃弾を撃つのだろうと考えた。
努は全てを見てみたが、あまりしっくり来ていない様子だった。
(槍と弓はないな。…とするとやっぱり剣かな。)
努はそう考えると再び剣を手に取り、一度振ってみる。やはり軽く、思っていた以上に速度が出た。剣など扱ったことはないので型などいっさい知らないが、暫く出鱈目に振ってみる。しかし努は頭を傾げる。使いやすいのだが、どうにもしっくりこないのだ。
暫くそうしていると、王から声がかけられた。
「その剣は前回の勇者が使ったとされている武器だ。それにするのか?」
王からそのように言われたところで、努もこれにしてしまおうかと思っていた。そのとき、広間の奥に立てかけられている1本の灰色の棒が目に付いた。
「これは…?」
努はそれに近づき、手に取った。
他の武器と違い何の装飾もされていない。長さはおよそ6尺ほどの、ただの棒にも思える。しかし努は、それを剣のように振ってみたり、槍のように突いてみ始めた。するとどうだろう、棒を扱ったことなどない努だが、棒を振るう姿は様になっているではないか。
努には、これの使い方が何故か分かったのだ。そしてこれが努には1番手に馴染むように思えた。
「これにします。」
それを聞いた王は大層驚いた様子だった。なぜならそれは今まで王も気にしたことがなかった。そもそも聖なる武器ではなく、ただの棒であると思っていた物だからだ。
「本当にそれで良いのか?」
「はい、これがいいです。」
困惑しながら聞く王に対して、努は迷うことなく答える。
「そうか…、ならば良い。ただ他の物に替えるのならば早めにするのだぞ。訓練の期間は長くは取れないのだからな。」
「はい、問題ないです。」
そう答えた努は、手に持っていた棒を頭の中に入ってきたイメージ通りに、頭の中で消えろと念じてみた。
すると、努の手にあった棒は、フッと消えた。そして再び、出て来いと念じてみると、努の右手に出現したではないか。
これには王は再び驚いた。まさしくそれは、武器が努を主として認めたことなのだから。そしてそれが本当に、あちらに並んでいる武器と同じ類の物であるということを理解したからであった。
こうして努は、己が使う武器を得たのであった。
棒っていいよね。
この国で使われているウォーハンマーは、実際に使われていたものより少し大きめです。マキシムが持っている物は、それらよりさらに大きい物です。