第3話 最初の友人
読んでいただき、感謝しかありません!!
やっぱり思ってたより進まない。もう開き直って、ゆっくり進めていこうかしら…
「知らない天井だ…」
そんなお約束のセリフを言いながら努は起床した。別に酒を飲んで酔いつぶれて寝たわけでもない。よって知らない天井ではないのだが言わずにはいられなかったようだ。
努が異世界に飛ばされてから2日目の朝が来た。カーテンを開け、朝日を拝む。異世界であっても太陽は地球と変わらないらしい。山の奥から顔を覗かせる太陽の赤い光が、辺り一面を照らしており幻想的に見えた。
昨晩の歓迎パーティは、とても楽しかった。レオナルド王は中盤で酔いつぶれてしまったが、料理は旨かったし人も良かった。
少しくらいは、いかにもな貴族様が出てくるかと思ったが、この国の貴族は武人気質の者が多いらしい。さっぱりとした性格の者ばかりで、努は気を悪くすることもなかった。
また、昨晩のパーティには様々な人が参加しており、王や王妃の他にも努は多くの人と知り合うことができた。
その中でも、パーティであるにも関わらず、深紅のローブを着た、黒髪で長髪の青年がいた。いかにも魔術使いっぽい服装だが、彼もまたローブ越しでも分かるような逞しい肉体を持っている。話してみると、年も近いこともあり、すぐに仲良くなった。
彼の名前はギルバート。彼の軽い性格がはまったのかすぐに仲良くなり、ギルと呼ぶようになった。彼は一流の魔術師であり、この国の魔術師団の副団長らしい。努を召喚した魔術を発動させるのも、彼が手伝ったのだという。
なぜ魔術師であるギルバートがそこまで鍛えているのか、努は気になった。
尋ねてみると、この国では体を鍛えるのは男の嗜みであると言った。さらに、魔術師である自分も、近接戦闘は出来た方が良いのだという。そこまでしないと、魔王軍との戦いでは早々に死んでしまうらしい。
努はしばらくギルバートと話し、互いに意気投合した。彼も城にいるようだから、また会えるだろうといってその日はそれで別れたのだった。
他にも貴族らしき人たちが挨拶に来たが、大小あれどほとんどが鍛えられており、流石に少し怖く感じた努だった。
暫く朝日を見ながら昨日のことを思い出していたが、日も昇ってきたし、とりあえずストレッチをする。その後には、体幹トレーニングをして軽く汗を流す。
朝から本格的には筋トレはしない。朝に筋トレをすることに対しては、様々な話があるが、努は朝からハードな筋トレをすることは好きではない。目を覚ます程度でいい、そう考えている。
ひと段落ついたところで扉からノックの音がなったため、身なりを整えてから、
「どうぞ。」と返事をした。
「おはようございます、ツトム様。朝食のご用意が出来ましたので、お持ち致しました。」
入ってきたのは侍女のようだ。昨日部屋に案内された時もこの人だった。おそらく努の専属の侍女なのだろう。
食事は自分の部屋で取るらしい。昨日がパーティだった分少し寂しく感じたが、元々一人暮らしをいていたので、食事を一人で取ることも多かった。こんなものだろうと思い直して食事を取り始めた。
…そしてやはり食事中侍女は努の傍に控えるらしい。一般市民であった努には少々気まずい。かといって食事中に話しかける訳にもいかない。
また、体格の良い侍女からは威圧を感じる…。もちろんそんな訳はないのだが、どうしても気になってしまう。そんな状態の中、努は黙々と食事を取るのであった。
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朝食を取った後、侍女からは、
「後ほど向かえの者が来ますので、暫くお待ちになっていてください。」
といわれたので、努は部屋で食休みをしていた。
暫くした後に、努の下に一人の男が現れた。
「よう、ツトム。」
「お、ギルじゃないか!おはよう。」
そう、迎えにきたのは昨日仲良くなったギルであった。ギルが呼びに来るとは到底考えていなかった努は驚きながらそう答えた。
「まさか魔術師団副団長様がじきじき来るとは思わなかったな。」
努は続けてそう言った。仮にも魔術師団の副団長、つまりは部隊の纏め役の一人だ。そのような人物が自分を直接迎えに来たのだ。驚かない方がおかしい。
「いやな、どうせこの後会うことになるしな。お前を呼びに行こうとしてた使いのやつに俺がついでに行くっつって変わってもらったってワケよ。」
「ふーん、そうだったのか…。」
「まあ細かいことはいいんだ。とりあえず行くぞー。」
「あいよー。」
話もそこそこに2人は移動を始める。
「この後って何をするんだ?」
歩きながら努はギルに尋ねる。まだ今日は何をするのか聞いていないのだ。
「まずはお前の旅の仲間のご紹介だな。ちなみにその中の一人は俺だ。」
そういって努に向かって何故かドヤ顔を決めるギルバート。
「えっ!?ギルも付いて来るのか!?」
副団長が師団から離れて行動してしまってもいいのだろうか。努はそんな意味も込めてギルに言う。
「そうだ、俺もお前の旅に付いてくのさ!…なんだよ、嬉しくないのか?」
「いやいや、ギルは副団長だろ?そんなに長期間離れてしまっても大丈夫なのか?」
「ああそんなことか。別に大丈夫だって!俺がいなくても。」
そう笑いながら言うギルに努は心配になる。
「俺は副団長だけど別に部隊を纏めてる訳じゃないしな。俺がその地位にいるのは単に魔術の実力が高いってだけでな。副団長としてはお飾りってワケ。それに纏め役には団長もいるし他にも10人いるしな。」
分かったか?とドヤ顔をしたまま言うギルに努は軽くイラッとするが抑えた。
「それに世界が滅ぶかって時に戦力を遊ばせておくこともないだろ?だから俺が選ばれたってワケさ!」
ギルバートの実力は極めて高い。指揮能力などはないが、魔術の実力は、団長を上回っている。それに頭が悪いわけではない。
無責任とも取れるが、確かに現在の状況でギルほどの者を遊ばせておくのはもったいない。勇者の旅に付いて行かせた方がよっぽど有効だ。
「まあ俺もギルがいてくれたら心強いよ。」
努は本心からそういう。仲の良いギルがいてくれるだけで、メンタル的にも戦力的にも心強い。
「そうだろ、そうだろー。ま、期待しとけよ!」
「ああ。」
そんな会話をしていたらどうやら目的地に着いたらしい。どうやら会議室のようだ。部屋の扉は無駄な装飾がない、シンプルな作りになっている。
「もう全員集まってるはずだぜ。」
どんな仲間がいるのか、逸る気持ちが抑えられない様子の努。勇者パーティというと魔術使いはギルだとして、騎士や剣士、聖女あたりもいたりするのだろうか。
聖女といえば絶世の美女の場合が多い。この国に来てから見たのはごつい女性ばかりであった。まさかそんなことはないよな…?
今になって不安も感じたが、いやいや、そんなことはないだろうと不安を追いやった。
「なに百面相してんだ?第一印象から変なやつだと思われるぞ?」
呆れながらギルが言う。しかし仕方のないことだろう。転生ものをよく見ている身としては、勇者パーティというものには少なからず憧れがあるものだ。
それが今から自分の仲間として紹介されるのだ。期待してしまうのも仕方がない。
「ま、いいか。そいじゃ、入るぞー。」
ギルがドアを開ける。
努は静かに息を呑んだ。果たしてどのような仲間が待っているのか―――
「おう、ようやく来たか!待っていたぞ!!」
恐らく騎士であろう大柄な男。
「・・・」
しゃべらずにこちらを見つめる着物を着た男。
「ふむ…、3分の遅刻ですね。」
時計を見ながらそう呟く、聖職者の格好をした大柄で肌が黒い男。
「やっほー!、君が勇者君か。よろしくぅー。」
元気の良い声で話す小柄な男。
扉の先は、女性などまったくいない。鍛えられた屈強な男たちしか見えない。
現実はそんなに甘くないものだなと遠い目をしながら思う努であった。
上から順に、大マッチョ、中マッチョ、大マッチョ、細マッチョ。
そしてギル君は細マッチョ。