第2話 歓迎
読んでいただき、感謝しかありません!!
今回、あまり話が進みません。もうちょいテンポ良くって考えてたんですけどね(´・ω・`)
「俺が世界を救ってみせる!!」
努がそう叫んだ数秒後、まわりから歓声が沸き起こった。今まで一言も発せさずにやり取りを見守ってきた彼らだが、ようやく努が勇者として力をかしてくれることになり、声を出さずにはいられなかったようだ。
「そうか…、そうか!!ありがとう、感謝するぞ!!ツトム!!」
レオナルド王は安堵した表情を見せ、それから満面の笑みを浮かべ,努に礼を言った。やはりこの王が笑みを浮かべると無駄に白い歯に目が行ってしまう。
「よし、そうと決まればまずは宴だ!!!ツトムを歓迎せねばならん!!」
レオナルド王が大声で叫ぶ。それと同時に周りにいた人々が忙しなく動き出した。きっとこれからパーティの準備を始めるのだろう。努は歓迎パーティと聞き、異世界の宴とはどのようにするのか、どんな料理がでるのかとワクワクしていた。すると突然肩に衝撃があった。
「ツトム!!よく決心してくれたな!!いやぁ、良かった良かった!!一安心だ!!」
傍にいたレオナルド王が努の肩をバシバシと叩きながら言った。本人は意識していないのだが、やられている側からしたらかなり痛いであろうことが窺える。現に努は顔を歪めながら「痛い痛いっ!!」と言っている。
そんな努の言葉を聞いてかは分からないが、レオナルド王は肩を叩くのをやめて努に肩を組んできた。実に馴れ馴れしいが、努は別にそれが嫌と思う性格でもない。
「そういえばまだわが国の名前を言っていないな。改めて言おうか!!ようこそツトム!!わが国『ガレリオン共和国』へ!!」
ガレリオン共和国、それがこの国の名前らしい。共和国ということは、様々な国からできているということだろうか。聞いてみようかと努は口を開く。
「共和国ってことは――」
「それにしても努は良い筋肉をしておるな!!先ほども余と力で拮抗していたように思えた。これは期待できそうよな!!そうだ、宴の前にまた力比べでもする――」
努の言葉を聞いていなかったのか、努に被せて喋り始めたレオナルド王だったが、すべて言い終わる前に王の頭上からこぶしが落ちてくる。しかし肩を組まれていたはずの努にはまったく被害がない。素晴らしい技術である。
(これ舌噛んでたら絶対千切れるよな…?)
努はこのようなどうでも良いことを考えていた。流石に二回目であるのでそこまで驚くことはなかったようだ。
「はぁ…、アホなこと言わないでください。まずはツトム様をお部屋にご案内するのが先でしょうが。」
王の脳筋すぎる発言に呆れてため息がでる王妃。努はその顔を近くで見て、(いや、やっぱ顔怖えよ!!)と
内心叫んでいた。
「さて、アホは置いておいて…ツトム様、ご決心いただきありがとうございます。何もかも唐突すぎてさぞお疲れでしょう。部屋を用意しておりますのでまずはお部屋に案内します。」
王妃はそういうと、侍女を呼び出した。するとどこからともなく努の傍に侍女が現れた。
(おおうっ)
努は思わず声が出そうになった。出てきた侍女たちは、王妃までではないが、いずれもがっしりとした体つきをしており、某警備会社に努めていそうな者ばかりであった。
「どうかなさいましたか?」
努の様子を見て、王妃が不思議そうな顔で尋ねる。
「いや、あはは…。なんでもないです。」
笑ってごまかす努に怪訝そうな顔をしながら王妃は「そうですか…」といい、それ以上聞くことはなかった。
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「ふう…」
案内された豪華な部屋のベッドにごろりと転がった努は、暫く寝転がった状態で現在の自分が置かれている状況を整理した。
「…決めたんだ。もう後戻りはできない。」
努は一度決めたことにぐだぐだ言うような性格ではない。しかしことがことだけに、努も悩まずにはいられない。
「俺に魔王が倒せるのか…。そういえば、そもそも魔王が悪かどうかも分からないよな。」
今まで読んできた異世界召喚系の小説では、魔王側が必ずしも悪というわけではない物がいくつもあった。では自分の場合はどうなのだろうか。少なくともあの王が悪には見えなかった。なんにせよこちらの世界の情報が足りない。
「しばらくはこの世界の知識を学びつつ、戦う力をつけるしかないよな!!」
そう独りごちたあと、努はとりあえず筋トレをすることにしたのであった。
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暫く部屋で筋トレをしていると思いのほか時間が経っていたようで、宴の準備が出来たとのことで侍女が呼びに来た。
「勇者様、宴の準備ができました。会場までご案内いたします。」
綺麗なお辞儀をする侍女。だがこの人もやはり体格が良い。骨太であるというのがしっくりくる。この世界に来てからというもの、この侍女と同じような体格の女性しか見かけていない。
もしかしたらこの世界の侍女という存在は、このように自衛もできそうな者が選ばれるのか。それともこの世界の女性は、こういった体格が普通なのか…。努は後者でないことを祈るしかなかった。
会場に着き、努は拍手とともに入場する。流石にこのときばかりは緊張したが、レオナルド王は堅苦しいのは嫌いらしい。特に努が何か音頭をとらねばいけないということもなく、王が短く乾杯の音頭を取り、宴は始まった。
異世界の宴はどのような物なのかと思っていたが、想像していたよりは普通であった。ただ努は元の世界でもこのような大規模なパーティに参加したことなどなかった。
それゆえ煌びやかなこの空間に圧倒され、あたりをキョロキョロと見ながら、とりあえず料理を食べようと思い、料理を選んでいた。
元の世界と料理に大きな違いはないらしく食べるのに勇気のいるような物はなかった。強いて言えば醤油が欲しいと感じたが、それだけだ。まだこの世界に来て一日も経っていないのだ。まだそこまで日本の味に飢えているわけではない。
手当たり次第に料理を取り分けてもらい、食べる。気持ちの良い食いっぷり見て給仕をする者はうれしそうにしている。ニコニコしながら料理を取り分けてくれる給仕の人を見ていると努はなんだか食堂のおばちゃんみたいだなぁなどと少し失礼なことを考えていた。別に彼女たちは老けているわけではないのだ。
努はマナーなど知らないので好き勝手に食べているが今のところ咎められることはない。努が勇者であるために叱れないのかもしれないとも考えたが、それにしては嫌な視線は感じない。
少なくともこの宴に参加しているのはそういったことに大らかな者ばかりなのだろう。努はそう考えて気にせず食事を続けることにした。
そうして食事を続けているとレオナルド王がクリスティーナ王妃を傍に連れて近づいてきた。
「おうツトム!!楽しんでおるか!」
「はい、おかげ様で楽しませて頂いています。」
相変わらずブーメランパンツ一丁の王に対して、努はにこやかに応じる。
「堅い!!もう少し砕けたしゃべり方をしても良いのだぞ?今宵は、お主の歓迎の宴なのだから気にする者なぞおらんよ。」
「いえ、目上の人に対しては礼儀を持って接しろと教わってきたので。これは中々変えられませんよ。」
努は苦笑しながら答える。日本人であれば誰もがそうだろう。天然系のタレントでもなければ目上の、さらにいえば一国の王に対してタメ口などきけるはずがないだろう。
「ただ勉強中でしたので敬語がおかしいこともあると思います。そこはできれば目を瞑って頂ければと思います。」
「そうか…、そのような教育を受けていたのか。ではツトムもさぞ身分が高かったのではないか?」
この世界では教育を受けられるのは限られている。貴族や商人などの裕福な平民、この当たりぐらいだ。
「いえ、そんなことはないです。俺が住んでいた国では全ての国民が最低限の教育は受けられました。」
「なんと!!そのようなことができるのか…。恥ずかしながらわが国ではそこまで教育を受けさせることはできん。」
現在も魔王軍と戦い、軍事にも壊された箇所の復旧など、様々な面で財政が圧迫されている。そのような状態では教育はおろか、国民に満足な生活をさせることもままならないのだ。
「だがしかし、この戦いを終らせた暁にはツトムのいた国のように全ての国民に教育を受けさせられるようにしたいものだ。」
実際には魔王との戦いが終ってもそこまで実現することは難しいだろう。この戦いが起こる前であっても、教育に関してはそこまで今の状況と変わるわけではなかったのだから。
「余の代では無理かもしれぬ。だが少なくともな、魔王という脅威がなくなれば未来は明るくなる。余はそう思っている。」
「そうですね。」
「だからな、お主にはつらい思いをさせるかも知れんが、この国の…いや、この世界の未来のために頑張って欲しい。頼む。」
頭だけの礼であるが、それは王として重い意味を持つ。
努はその姿を見て、すぐに口を開いた。
「すでに決心したことです。俺がこの世界を救うと…。」
そう、すでに努の決意は固まっていた。
「そうか…、ありがとう。すまぬな、何度も同じことを聞いてしまった。」
そういうとレオナルド王は気を取り直すかのように給仕に酒を要求した。
「よし、飲むか!!ツトムも飲めぃ!!」
王はいつもの笑みを浮かべながら酒をあおる。
「いや、自分はまだ未成年なので酒は――」
そういいかけたときに「ドォン!!」という音を立てながら王が倒れた。いつもは黒く輝いている肌を真っ赤に染め上げながら。
「えええっ!!?」
努は驚いた。まさかあの王が酒の1杯で酔いつぶれるとは思いもしなかったからだ。
「はぁ…、だから酒は飲むなと始まる前からあれほど言ったのに。」
今まで口を開かずに努とレオナルド王の話を聞いていたクリスティーナ王妃がそう言った。
「すみませんねツトム様。この人酒に弱いくせに気分が良くなるといつも飲もうとするのよ。」
「そうなんですか…。」
じゃあなぜ止めなかったのかと努は思ったが口には出さなかったが、クリスティーナ王妃は続けて説明した。
「この人はどうせお酒を飲まなくても騒がしいんです。なのでいっそこのまま酔いつぶれさせて寝かしておこうと思ったんですよ。」
「なるほど…。」
理解したようにはいった努だったが、酒に弱い王が酒を飲むことを冷めた目で黙って見ていた王妃に薄ら寒いものを感じた。あまりこの話題には触れないでおこうとそう決心した。
「では私はこれを寝室まで運んできますね。それではツトム様、引き続きお楽しみください。」
そういってクリスティーナ王妃はレオナルド王の片足を掴み、引き摺りながら会場を出て行ったのであった。
「よし、残りの料理を食べるか。」
努は深く考えないことにして、料理を食べることに集中し始めた。
その後は何事もなく和やかに宴は終ったのであった。
そのようにして、努が異世界に来た、最初の1日目が終了した。
努君は食いしん坊設定。