第1話 決断
はいようやく2話目を投稿です。書き溜めをしていなかったこともあり遅いです。
申し訳ありません。
「ブッ!!!」
真っ暗闇から赤色に視点が切り替わったと思ったら努は頭から硬い床に落ちた。床には絨毯のような物が引かれていたようだが、衝撃を和らげるのにはほとんど役に立っていなかった。
衝撃は転んで頭から落ちた程度のもので済んだため、さほど大事には至らなかったが、それでもツンという痛みが鼻から頭にかけて走った。何が起こったのかは分からないが今はまずこの痛みに対する感情をぶちまけないとどうしようもない。
「っっっっっっ痛ぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」
力の限り叫びしばらく床に蹲る。
しばらくそうしているとまわりが騒がしいことに気づく。痛みも治まってきたため、おそるおそる顔を上げてみると、辺りは外ではなく室内であった。
しかもそれは今までゲームや映画でしかみたことがないような煌びやかな空間であり、先ほどとの違いに暫く声がでなかった。
そうして呆けていたのも束の間であり、努は自分のまわりに大勢の人がいることに気づいた。
すると努の目の前にいる、立派な髭を蓄えた王様らしき人物が口を開いた。
「おお、召喚は成功したか!お主が召喚に応じてくれた勇者だな!!余がこの国の王である、レオナルド12世だ!!よろしく頼むぞ!!」
努は大声でしゃべり始めた王様をよく見ると、あることに気づいた。
(な、なんで……なんでブーメランパンツ一丁なんだ!?)
そう、レオナルド王はブーメランパンツに、マントを羽織り、頭に冠をかぶっているだけ…であった。そしてなんといっても目が行くのは、その筋肉であった。
(な、なんて筋肉だ…!、元の世界のボディビルダー達が霞んで見えるくらいの筋肉だ…、こんなの漫画でしかみたことないぞ!?)
そう、目の前の人物の筋肉は、元の世界にいた頃にネットで見た外国人のボディビルダーたちですら霞んで見えるようなムッキムキな筋肉であった。無駄な肉はほとんどなく、皮膚が張り裂けてしまいそうなほどである。また、それを美しく見せるためか肌は黒く、天井のシャンデリアの光が反射して光っている。その姿は宝石を彷彿とさせる。まるで自身の体が最高の装飾品であり、余計な物などいらぬとでも言うかのようだ。
努が心の中で感想を述べていると、レオナルド王は立ち上がりドスドスと床を鳴らしながら努に向かって歩き出した。努は本能的に逃げてしまいそうになるが、必死に抑えた。
そして彼は満面の笑みを浮かべ、その無駄に白い歯を見せた。そして笑顔のまま両手を上げて努に近づき、ハグをしてきた。
「ほう!中々良い筋肉をしておる、良く鍛えておるわ!!」
努は突然のことに頭が真っ白になったが、レオナルド王によるハグの力が段々と強くなっていることに気づいた。それに抵抗すべく腕から抜け出そうとするがまったく抜けそうにない。
「ちょっ!痛たたたた!!痛い痛いってまじで!!!離せって!!」
王はそれでも努を離そうとしない。常人ならばどうすることもできないであろうが、努は少々普通の人達と違うところがあった。それは、鍛え抜いた肉体を持っていること、それと負けず嫌いであったことだ。
そして努は相手が離す気がないならばと反撃に出ることにした。
「そっちがその気ならこっちだって…、ふんぬっ!!!」
気合と共に努の筋肉が盛り上がり、相手にハグをし返す。一方的であったハグは、驚くべきか次第に努が盛り返していき、レオナルド王と均衡しているように見える。
「ぬおお!?やるではないか!!しかしこちらもまだまだ余力を残しておるわぁぁぁぁ!!!!」
負けじとレオナルド王が力を入れ直し、筋肉がさらに盛り上がりミチミチと音を立てる。
「こっちだって負けるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
努もさらに力を入れる。もう正直あまり目に入れたくない状況である。このままどちらかが潰れるまでこの戦いは終ることはないのか。周囲の者たちがそう思い始めたその時・・・
「いいかげんになさいぃぃぃぃっ!!!!!!!!」
ホール全体に稲妻が落ちたかのような衝撃が起きる。努の体の芯にまで響いたその声は、女性のものであった。そして、それと同時に王の体がビクリとして力が抜ける。次の瞬間「ドゴォッ!!!!!!」という音と共にレオナルド王の姿が視界から消えた。
努は突然その場から姿を消した王に唖然としていた。どうやら今前にいる人物が王を殴り飛ばしたようである。おそるおそる声のした方向へ視線を向けてみるとそこには・・・
華美なドレスを着飾ったオーガがいた。
(……は?)
努はまたも思考停止した。オーガ…ではないが、まわりにいる男たちやレオナルド王に比べても一回りでかい女性がそこに立っていたからである。
「あなたって人はぁぁぁ!!また初対面の方に向かってそんな締め付けるようなことをして!!失礼でしょうが!!!」
レオナルド王を殴り飛ばした、オーガのような女性はどうやら王妃のようである。それにしてもあの筋肉の塊であるレオナルド王を軽々と殴り飛ばすとは、普通では考えられないパワーである。
殴られた王は努の横の人垣を巻き込みながら壁にめり込んでいた。
王妃はまるで本物のオーガのような顔をしていたが、フッと表情を和らげ、努に近づき話し始めた。
「夫が大変ご迷惑をおかけしました。お怪我はありませんか?あのバカは加減を知らないもので…」
先ほどの怒鳴り声や、その姿からは想像できないほど美しい声が王妃の口から発せられた。努は「あっ、はい」と気の抜けた返事をしてしまった。
「ああ、失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私の名前はクリスティーナ・ネオ・アームストロングと申します。」
努が心の中で、(いや、声のギャップ半端ねぇな!!そして何でそんなに名前可愛いんだよ!!そして、苗字はなんでそんなに厳ついんだよ!もう訳が分からんわ!!!)と、色々とインパクトの強い王妃に突っ込みを入れていたところに、王妃から「お名前を窺ってもよろしいですか」と質問された。
「ああ、ええっと自分は岩垣努といいます。努が名前で、岩垣が苗字になります。」
混乱しながらも自己紹介をすると、先ほどよりも心は落ち着いてきた。
「ツトム様ですね。改めてよろしくお願いします。そして、このたびは召喚に応じていただき誠にありがとうございます。」
王妃は努の名前を繰り返し、感謝の言葉を述べた。
「あの…、さっきも王様が召喚とおっしゃっていたんですけど…。一体どういうことですか?」
おそらく異世界召喚であろうと当たりをつけていたが、敢えて尋ねる。
「そうですね、まずはそこから説明いたします。が…、これはアレに説明させた方がよろしいですね。」
そういうとクリスティーナ妃は壁に埋まっているレオナルド王に視線を送った。一応王であるレオナルドをアレ呼ばわりする点から、上下関係がはっきり分かる。
それからすぐに王は壁から体を抜いて何事もなかったかのように努の前まで戻ってきた。このことにまったく動じていない様子の周りの人たちを見て、努はきっといつものことなのだろうと考えた。
「改めて自己紹介をしよう、余はレオナルド12世である!!お主の名を聞こう!!」
と無駄にでかい声で自己紹介をするレオナルド王。
「自分は岩垣努です。」
努も改めて自分の自己紹介をする。
「うむ、ツトムだな!!それでは説明をしようか。ここはお主がいた世界とは異なる世界『マキシマム』である。」
随分と強そうな名前の世界だなと努は内心で突っ込んだ。
「そして今、この世界は危機に瀕しておる。魔王軍の侵略によってな。」
なるほど、努の考えていた通りここはテンプレの展開のようだ。
「すでに小国のいくつかは落とされた。わが国も対抗してはおるのだがな、やつらは圧倒的な力を持っておるのだ。余の力を持ってしても中々対抗出来なんだ。そこでだ、昔からこの国には勇者召喚の魔法が言い伝えられておった。それを使い、異世界から勇者を召喚して力を貸してもらうことにしたのだ。そしてお主がここに呼ばれたのだ。」
お前も戦ってるんかいと突っ込みたい努であったが、抑えて質問をすることにした。
「あの、一応鍛えてはいますがそれは元の世界の基準です。この世界でそこまで有効であるとは思えません。それに実際に命をかけて戦ったことはありませんし、お役に立てるかどうか分かりませんよ。」
努は日本での基準でいえばトップクラスの筋肉であるといえるだろう。無駄な肉はついておらず、硬くしなやかなそれは魅せる為の筋肉というよりは、より実践的な筋肉であるといえる。実際に格闘技もかじっているが、それがこの世界での戦いに通用するとは思えない。
「なに、心配はいらん。異世界から召喚された者は例外なく強大な力を持っているといわれておる。召喚の過程でなにかしら力が加えられるのだろう。実践に関しても少しずつ経験を積んでもらう予定だ。」
そこまでいうとレオナルド王は少々不安げな努の顔を見て続けてこう言った。
「強制はせぬ。一方的にこちらから呼び出したのだからな。もちろん手を貸して欲しいとは思っている。しかし戦いたくない者に強制しようとも思わん。それに今のうちであれば元の世界に帰すこともできる。」
王はその巨体と顔に似合わぬ優しい表情をしてそういった。
「帰れるのか!?」
思いがけない王の言葉に努は驚きを隠せない。ここでテンプレを破ってくるとは思ってもいなかったのだ。
「もちろんだ。召喚する魔法もあるのだから帰す魔法もあるに決まっている。」
そういった後に王は真面目な顔になった。
「だが送還魔法には時間制限があるのだ。そうだな…、あと30分といったところだろう。」
「その時間が過ぎると…?」
緊張した声で努が尋ねる。静まる室内にゴクリという唾を飲み込む音が聞こえる。
「送還魔法は使えなくなる。…が、何も永遠に使えないというわけではない。ただ魔力を溜めるのに時間がかかるのだ。」
時間が過ぎたら帰れなくなるものなのかと心配していた努は安堵の息を漏らした。
「その魔力を集めるのに必要な時間は?」
そこは聞かねば駄目だろうとすかさず努は質問を入れる。
「…そうだな、早くて3年、遅くて5年といったところであろう。」
軽く考えてから王はそう言った。
「そんなにかかるんですか…。」
「うむ、魔法を溜める方法などは今は飛ばすぞ。話が長くなってしまう。」
「そうなんですか、分かりました…。」
そういって努は考え込んでしまう。今帰らねば後3~5年は帰ることができない。それに自分に今までなかった力が授けられているといわれても実感が湧かない。それゆえまだ残るか帰るかの決断を出せずにいる。
「悩むのは分かる、しかし時間がないのも確かなのだ。今、決断してくれぬか。」
そういわれた努は暫く唸ったのちに、口を開いた。
「俺が元の世界へ戻ることを選択したとしたら、どうなるんですか?別の勇者を召喚するのですか?」
「召喚魔法は送還魔法と同じく魔力を装填するのに時間がかかる。お主を帰した後は少なくとも3年はなんとか踏ん張るしかないな。」
「ということは俺がやらなきゃ被害も増えるわけですね…」
「なに、こちらにもまだ奥の手は残っておる。お主がいなくてもまだまだ戦う手段はある。あまり気にするな。」
奥の手があるというが、ならば勇者など召喚しなくても良い話だ。おそらくそんなものはないのか、あるいは勇者召喚以上においそれと使うことができない魔法なのか。努にはその判断はつかない。しかし、努は決断をしなければならない。
「…正直知らない人たちのために命をかけて戦うっていうのはあまり気が乗りません。それに不安も多いです。」
ホールは緊張に包まれている。そんな中、努は神妙な顔をしながら続きを言う。
「しかしこのまま助けられるかもしれない人たちを見捨てて帰るっていうのは嫌です。それに俺がこの世界でどれだけやれるのか気になります。俺が今まで鍛えていたのはこのためだったのかもしれない。だから…」
「やります。俺がこの世界を救ってみせる!!」
そんな熱き言葉が放たれた。
設定はガバガバなので書いているうちにボロが出るかもしれません…_(:3 」∠ )_
読み返して思ったけど主人公圧倒されすぎじゃね…?まあいきなり異世界に飛ばされた上にすごい見た目の人たちばかり出てきたのでしょうがないですよね?(´・ω・`)