#285 不穏な影はどこにでもデス
SIDEレパーク
「‥‥‥よ、ようやくか‥‥‥」
ボラーン王国の首都、その入り口付近にて、ようやく首都へ辿り着けた喜びとここまでの徒労で疲れ果てながらも、レパークはそうつぶやいた。
騎士王国を飛び出て、一直線に向かったはずが、海に当たり、火山に当たり、温泉で溺れ‥‥‥他者からすれば愉快な珍道中と化していたが、本人にとっては長く苦しい道のりでもあった。
「とりあえずは‥まずは情報収集か」
魔王討伐という目的をもって、ここまで来たのは良い。
情報によれば、この王国の女王の王配としているという話を聞き、女王がまず住まうとされる首都まで来たのは良いのだが‥‥‥肝心の魔王の居場所を確実に突き止めてはいなかった。
それもそうだろう。王配という立場は政治にそう関わるものでもないので、王城から出て過ごしていてもおかしくないのだ。
猪突猛進極大方向音痴の騎士王国の王子とは言え、彼はそこまで愚かな頭を持っているわけではない。
きちんと居場所を把握するためにも情報を得ることは大事だと心がけており、ひとまずは魔王に関しての情報を彼は集め始めた。
どのような容姿であり、どの様な者なのか。
彼のそのやや歪んだ想像では、魔王は悪であり、撃ち滅ぼさなければいけない物ではあったが‥‥‥その悪の魔王だとしても、容姿が完全に悪とは限らない。
歴代の悪の魔王の話なども学んだことはあったが、鬼のように恐ろしい悪の魔王もいれば、巨大な羊の悪の魔王もいたらしく、それはそれで世界がフワフワモコモコの海に沈んでしまうという恐ろしいものだったそうだ。
そして今、その魔王に関しての情報を彼は集め始め…‥‥大体、どの様な相手であるのかを確認した。
「‥‥‥ふむ‥‥‥魔法をメインにしているか」
集めた情報では、女王の王配というだけあって性別は男性。
見た目は人間ではあるが、その実力は底知れず、首都にある大穴は彼があけたものでもあり、魔法などに長けているそうだ。
しかも、女王という妻を持っておきながらも、さらに美しきモンスターを妻にしているそうで、男という立場としては嫉妬を抱けるものでもあった。
「首都の穴‥‥‥今は観光地とされているようだが、それだけの代物を創り出す時点で、その力は危険すぎるな‥‥‥やはり魔王はこの世にはいてはいけない存在だな」
大きな力程、どれだけ世界に影響を及ぼすのか。
その力がどの様に扱われるとはいえ、そんなものがこの世界にあってはいけないと、彼は思う。
清廉潔白、正々堂々とした騎士王国の王子。力の扱いに関してはそれなりに理解を示すが、それだけの大きな力に溺れる可能性も考えると、やはり放っては置けない。
「討伐してしまえば良いが…‥‥どのようにすべきか」
ここまで護衛もつけずに、一人で来たのだが‥‥‥いかんせん、調べれば調べるだけ、一人では確実に無理と言えるだけの力量を魔王は持っていることを理解させられる。
しかも、魔王そのものに関してよりも、その魔王の周囲にいる者たち‥‥‥何故かメイドが多いそうだが、そのメイドたちもまた強敵のようで、魔王にたどり着く前に大きな障害になるのが目に見えている。
「本国へ連絡して応援‥‥‥いや、無理だな。魔王に対して挑むとなれば、誰も彼も逃げるだろう」
魔王の強大さを理解させられると、常人では相手にしようと考えるはずもない。
騎士王国の騎士たちも強いとはいえ、このような相手に束になってもまともに相手になるとは思えなかった。
「…‥‥どうしたものか」
暗殺、不意打ちなども考えはするのだが…‥‥猪突猛進飛び出し野郎な王子とはいえ、騎士王国育ち。
卑怯な手段で相手にするのはどうにも好かないし、かと言って正面から堂々と挑むにしても戦力不足である。
「いやまて、首都という事は物流も豊富‥‥‥ならば、何かいい武器があるかもしれないな」
戦力不足であるならば、何かより良い武器を所持して挑めばいいのかもしれない。
そう考え、彼はさっそくいい武器を求め町中へ歩みだした。
‥‥‥30分後。
「‥‥‥だめだ、ここもないか」
首都内にいくつかあった武器屋を巡り終え、彼はそう溜息を吐いた。
魔王を討伐するにふさわしいような強力な武器。
剣術を彼はたしなんでいたので、何かいい剣などが無いかと思っていたのだが‥‥‥どれもこれも魔王討伐をするには力不足なように感じた。
「本当に強力な剣を求めたいのだが…うーむ‥‥‥」
所持金なども考えると手が出せないものも多いし、このまま何もできずに挑むのも不安である。
そう考えながらぶつぶつとつぶやき、歩いている中‥‥‥ふと、彼に声をかける者がいた。
「おーい、そこの鎧武装兄ちゃん、何かお探しかねー?」
「ん?」
気が付けば、首都内の変な路地裏へ入っていたようだが、その道に露店を構えていた者にレパークは声をかけられた。
見れば、その人物はこれ以上に程怪しい雰囲気を醸し出す、紫色のフードを被って顔が見えなかったが‥‥‥売っている品物を見れば、武器が多いので流れの武器商人あたりかと彼は推測した。
「ああ、まぁ探していると言えば探しているな。何か強力な武器を求めているのだが‥‥‥いかんせん、どれもいま一つでな」
「そうかいそうかい。じゃ、ちょっとうちの商品を見ていくかい?」
「では、そうさせてもらおう」
おかれている武器の数々を見れば、他の武器屋では見たことが無いようなものが多い。
だがしかし、どれもこれも確かに強力そうなものが多そうでもあったが‥‥気に入るものがない。
というか、武器は武器と言えども求める剣のような物は少なく、大半がモーニングスターだとか、ハンマーだとか、鎖鎌、まきびし、槍、スライムのような何かしら‥‥‥得体のしれない代物が多かった。
「‥‥‥駄目だな、都合の良い物が見つからない。声をかけてもらって済まないが、どれも買えないな」
「そうかいそうかい、それは残念だったな‥‥‥。いや、でも‥‥‥兄ちゃん、もしかして剣を求めているのかい?」
「そうだが?」
「だったら、ここに並べているやつじゃなくて、ちょっと困りものがあるからこっちを使うかい?」
そう言って、ごそごそとしながら、その紫ローブの人が取り出したのは、ひとつの剣だった。
装飾も地味であり、見た目的になんとなくどこにでもありそうな既製のような剣。
「‥‥‥なんだこれは?これも使えないような‥」
「ところがどっこい、ちょっとこれをご覧あれ」
そう言い、更に出したのは、何やら真っ黒な石。
「これをこうやって削って粉末状にするだろう?そして剣に振りかければ‥‥‥」
ゴリゴリとどこからか出してきたすり鉢で石を粉砕し、全てを粉にしたところでその剣へふりかける。
すると‥‥‥
ボウゥ‥‥‥ボゥ!!
「!?」
突然、紫色の閃光がほとばしったかと思った次の瞬間、光がやめばそこには先ほどまでのどこにでもあるような剣はなく、その代わりに‥‥‥
「いやいやいや…‥‥これも流石に、なんか嫌なんだが‥‥‥」
そこに存在していたのは、地味さの欠片すら捨て去って、まったく別物というべき様な、禍々しい剣が存在していた。
剣の柄の部分は何やらテカっており、装飾の一つ一つが目玉のようにぎょろぎょろと蠢いている。
そう考えても物凄く呪われたような剣にしか見えず、嫌悪感で思わず後ずさりをしたくなった。
「まぁまぁ、そう言わずに。ちょっと持って振るって見な」
「ううっ‥‥‥」
手に持って差し出され、親切心のように見えるので断り切れず、仕方がなく持ったその時だった。
バヂィッヅ!!
「っ!?」
突然、手に走る強烈な痛み。
だが、それはすぐに止んだ。
「な、なんだいまの、…‥‥‥‥」
その感触が何であったのか、そう尋ねようとしたが‥‥‥レパークの言葉は途切れ、その目の光は失せていく。
その代わりに剣の方から、何やら禍々しい気配がにじみ出て、レパークの手から徐々に全身へ回り始め、包み込み始めていく。
「おお、うまいこと言ったなぁ。材料が盗み出した聖剣であったのも、良かったのかな?」
ローブの人物は笑うように言いながら、レパークの変化を見ていく。
「あの温泉都市であった騒動。それをモデルにしてやってみたが…‥‥実験体として、最初で成功するとは運がいい。都合よくデータも取れそうではあるが‥‥‥まぁ、万が一敗れたとしても、それを次に生かせばいいか」
「う‥ヴぁ‥‥‥ヴあああああああ!!」
ニヤニヤしているような笑い声を聞きながらも、レパークに変化は生じていく。
それはさながら、何か邪悪な者に飲み込まれているような、いや、それそのものに無理やりされているような絶叫が出ており、そのローブの人物は変化を見て満足そうにつぶやく。
「うんうん、ばっちりだけど‥‥‥ちょっとばかり意識がぶっ飛んで乗っ取られているなぁ。ちょっと強すぎたのかね?それとも、反転した聖剣がそうさせているのかな?んー、あいつに対抗する手段としてもできたと思ったが‥‥‥使いたくねぇなぁ。ま、精々まずはこの世界の魔王を倒してくれたらそれはそれでいいか」
そう言いながら、出していた武器の数々をしまいなおし、さっさとその場を去っていった。
あとに残されたのは、何かに憑りつかれているような、飲み込まれてしまったようなレパークのみ。
いや、それはもはや彼であったといえるのか、別物の何かに変化していく。
異変に誰かが気が付き、確認した時には既に遅かったのであった…‥‥
この世は全て、綺麗事では成り立たない。
何処かで必ずバランスがとれ、その分何処かに何かが起きてしまう。
だが、その起きる分を先に起こしバランスを崩す者がいるのであれば‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥愚王子と似ているけど、違うのは元々の部分か。あっちは救いようがなく、こっちはまだある感じ。




