#188 決断は迅速にデス
SIDEシアン
……解呪すれば元に戻る。けれども今のロールが失われる。
解呪しなければこのまま、けれども元の彼女は出てこれない。
「…‥‥何この選択」
【結構重いのですが…‥‥】
青き少女、ロールの解呪。
そのためには今の人格を失う可能性を考慮しなければならず、とてつもなく重かった。
この数日間、彼女がいることで僕らは疑似的な親子関係になっていた。
こんな娘がいたらなぁ、という想いもちょっとあり、もしも解呪できればもうちょっと頑張って見ようかなという気持ちもあった。
でも、解呪したら、今のロールが失われてしまう可能性があるのだ。
……でも、結局その判断を下すのは‥‥‥
「ロール、最終的には決めてもらうんだけど…‥‥どうする?」
「…‥‥」
その問いかけに対して、ロールは考えこむように目をつむる。
彼女にとっても、失われた記憶や、その元の姿とやらは取り戻したいのだろう。
「…‥‥正直言って、戻りたい気分もあるにょ。でも、今日までのこの日々も失いたくないにょ」
ぼそりぼそりとつぶやき、彼女の心が伝わってくる。
「でも、呪いは呪い、放置して良い物でもない。だからこそ‥‥解呪するにょ!」
ぐっとこぶしを握り、そう宣言するロール。
ならば、それは彼女の選択で有り、僕らが口を出すようなことではない。
「なるほどなるほど‥‥‥それじゃぁ、解呪の作業へ移るけど、良いね?」
「うん!」
預言者の問いかけに対し、力強くうなづくロール。
彼女が決めたことだし、反対もできない。
……とは言え、預言者いわく解呪を行ったところで、本当にどう出るのかはわからない。
元の女王としての人格になるか、2重人格となるか、もしくは統合されるか、それとも暴走するのか、どれかが選ばれるのだ。
できれば、二重人格か統合の方が良いような気もするが‥‥‥‥どうなるのかは分からない。
「それじゃ、解呪作業を行うけど‥‥‥んー、ごめん、ちょっと皆目をそらしてくれないかな?」
「というと?」
「この義体で解呪作業はできるんだけど、ちょっとばかり見た目に問題があってね、下手するとみている側が発狂するんだよね」
……さらっとヤヴァイことを言われたんだけど、本当に任せて大丈夫なのだろうか?
「えっと、それってつまり?」
「一旦ばくっと全身を食べるんだよ。とは言え全部を戴くんじゃなくて、その呪いのみを食べるんだ」
今のその義体とやらの見た目は、中性的な人。
その体でどうやって食べるのかと考えて、よーく見てみれば‥‥‥‥微妙に細い線が、いくつか入っていた。
「‥‥‥裂けるの?」
「そうだよ?」
やめよう、これ以上の追及はメンタル的にやられてしまう。
その作業を見ないほうが良いと言う訳で、一旦皆背を向けつつ、万が一の暴走のために備えておく。
ミニワゼシスターズもワゼたちも集まり、皆でそろって背を向けつつ、解呪作業に入った。
「それじゃ、こっちから良いよと合図するまで見ないでね」
預言者のその言葉にうなずきつつ、作業が始まる。
ビシ、ビチッ、ビリリリ‥…ぐばぁっちょ‥‥ズズズズズゾッゾゾゾゾゾゾゾゾゾ、ゴリュゴリュ……
「‥‥‥なんか既に、音の時点で相当な不安を覚えるんだけど」
【見たくないような、生々しさが…‥‥】
とにもかくにも、解呪作業は進んでいく。
何かがもげる音や削げる音、溶ける音に焼ける音、その他諸々本当に解呪をしているのかと言いたくなるような、聞いているだけで不安感を高める音のオンパレードが続く。
そして、数分ほど経過したところで、事態は動いた。
ゴリゴリゴリゴリジュゴゴ、ガキッ!!
「あ、やべ」
「【!?】」
ぼそっと聞こえた、何か不味そうな音。
次の瞬間‥‥‥‥大きな風が吹いた。
ごううううううううう!!
「のわあああああああああ!?」
【きゃあああああああああ!?】
「ぐっ!!」
その突風に僕とハクロは思いっきり飛ばされ、ワゼは辛うじてこらえていたが、ミニワゼたちは宙を舞った。
【っ!!シアン!!】
しゅばっとハクロから糸が飛ばされ、彼女に素早く手繰り寄せられ、空中に張られた蜘蛛の巣の上に、軟着陸をする。
ミニワゼシスターズも乗っかり、全員地面に叩きつけられるような事態は避けられた。
だが、今の突風からわかる事とすれば…‥‥
「不幸というか、何で引くのかな‥‥‥‥暴走を」
発生源‥‥解呪作業場所を見れば、そこには一人の女性が立っていた。
来てる衣服は、氷で出来ているようなきらびやかさを見せるドレスで有り、周囲一帯が凍結している。
見れば、預言者の方はしっかりと氷漬けになっており、見事な氷像と化していた。
「ぐううううっ‥‥‥‥うがああああああああああああああああああああああああああああ!!」
キラキラと氷の欠片舞う幻想的な光景ながらも、そこに立つ女性…‥‥ロール、いや、雪の女王リザとやらは、唸り声をあげ、それと同時に周囲一帯に猛吹雪が吹き荒れ始めた。
びゅごごごぉぉぉぉぉうう!!っと荒れ狂う吹雪に、木々が凍結し、風の勢いで砕けていく。
「ワゼ、あれ完全に暴走している状態だよね?」
「ええ、間違いないでしょウ。どうやら最悪な物を引き当てたようデス」
解呪の際にあったリスク、暴走。
周囲一帯を氷漬けにしつつ、彼女はその力を盛大に振るい始める。
「このままいくと、絶対不味いし‥‥‥‥止めるしかないか」
【といっても、止められるでしょうか?】
「成功確率は低いと判断。暴走によって、彼女自身の氷の魔力が無尽蔵に湧き出しているようなものデス」
「それでも、やるしかないんだよ」
暴走したからには、周囲にいる者が止めないといけない。
何よりも僕らが彼女に解呪の決断をさせ、この事態を招いたのだから責任を取らなくてはいけない。
「暴走が何だ、ただ暴れまわるだけにすぎない!!押さえつけるために少々手荒くなるけれども…‥‥それでも、やれないことはない!!」
相手が暴走し、力を振るうのであれば、こちらも力を行使すればいい。
魔王とか呼ばれるのであれば、その魔王の力をこんな時に生かさないでどうするんだ!!
「ロール、いや、雪の女王リザとやら!!この僕が、いや…‥‥魔王の俺が相手をしてやろう!!」
威風堂々、されども内心ちょっと怖い。
でも、この数日間過ごした彼女を止めなくてはいけない。
空元気であろうとも、自信満々な振りをハリボテの叫びであろうとも、力をこちらも振るうしかないのだ。
「と言う訳で、文句も言わずにこっちにかかってこいやぁぁああああああああああああ!!」
「ごがああああああああああああああああああああああああああああ!!」
言うと同時に、彼女は叫び、こちらにめがけて大きな氷の塊を作って投げてきた。
「って、本当にかかってきたあぁぁぁぁぁ!!」
【当り前ですよシアン!!】
「挑発したら、こちらに来る理性はあるようデス!!」
慌てて回避しつつ、仕切り直してロール、いや、雪の女王リザとやらの暴走を止めるために、僕らは戦闘を挑み始めるのであった‥‥‥‥
よくある「かかってこいや」のセリフで、本当に相手がかかってくるのも良くあることである。
猛烈な吹雪の中の戦いではあるが、止めると決めたらやり切るしかあるまい。
過去の魔王と戦闘した相手だが、今のシアンはそれとは違う!!
荒れていく天候の中、次回に続く!!
……今回は珍しく、威風堂々魔王風な宣戦布告。とは言え、相手が相手だし、ちょっとやりづらい。
でも、手を抜いたらそこで凍っている預言者と同じになるだろうなぁ。
何気に、「僕」から「俺」への変遷開始。シアンだって成長しているんだよ。




