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犬女ちゃんと夏祭り(3)縁日

純心は犬女ちゃんと二人で、

夏祭り恒例の縁日に来ていた。


純心母が犬女ちゃんを

先に浴衣にお着替えさせてくれたので、

先に二人で出掛けることにしたのだ。


母は自分の準備が出来たら、

後から行くと言っていた。


女子達も一度家に帰って、

シャワーを浴びて、着替えて来るので、

後で合流するとのことだった。



すでに日は暮れかかっており、

辺りは暗くなって来ていた。


その中で白熱電球の明かりが、

そこだけまるで非日常空間であるかように、

煌々と光っている。


人も段々と増えて来ており、

やがてすぐに人混みとなって行く。


犬女ちゃんは、はぐれぬように、

ぴったりと純心の足元にくっついていた。

純心は犬女ちゃんを確認しながら、

人混みの中を歩く。



そう言えば、小さい頃、

犬女ちゃんと夏祭りの縁日に来たことがあったな。


誰だか覚えていないが、大人が連れて来てくれた。

確か、おばあちゃんではなかった。

おばあちゃんは人混みがすごくて、

気分が悪くなると言っていたから。


俺だけみなからはぐれて迷子になってしまって、

独りぼっちで、不安で泣いていた。


人混みの中をうろうろさまよって、

周りは自分より大きい見知らぬ大人ばかりで、

暗い中で光る夜店のライトも、

まるでいつもと違うまったく知らないところにいるようで、

怖くて不安で声を出して泣きながら歩いた。


そんな俺を小さい犬女ちゃんが、見つけてくれて、

そのとき一緒にいた大人は、その場にしゃがんで、

俺を優しく抱きしめてくれた。

そのぬくもりにホッとした俺は、

安心しきって、またさらに大声で泣いてしまった。



純心がそんな記憶の欠片を辿って歩いていると、

目の前に母親が立っていた。


昼間の勇ましさとは打って変わって、

浴衣を着て優しい笑顔で純心を見つめている。


あぁ、おふくろか…。


そのとき過去の思い出と今が結びついた。

あのとき不安だった俺を優しく抱きしめてくれた大人、

あれはおふくろだったんだな。


今までまったく小さい頃の思い出の中に、

その姿がなかった母親を、

純心ははじめて見つけることが出来た。


自分が思い出せなかっただけで、

確かに母親は、幼い頃の自分のそばにいてくれた。


思い出の中に母を見つけた感慨で、

純心は思わず目の前の母に

抱き着いてしまいそうになった。

小さい頃、迷子になった自分を見つけて、

抱きしめてもらったときのように。



純心母は、夏希とお嬢様、生徒会長と一緒だった。

みんな可愛らしい浴衣を着ていて、

先ほどまでの凛々しい姿とも、

いつもの日常とも違う女子の雰囲気に

純心は少しどきどきした。


「どう?いいでしょー」

「浴衣を着たのははじめてすわ」

「情緒がありましてよろしくてよ」


「うん、みんなすごい似合ってるよ。

可愛いと思うよ。」


純心は頬を赤くして、

照れながらそう言うのが

精いっぱいだった。


夜のお祭りの雰囲気と、

みなのいつもと違う浴衣姿は、非日常空間で、

純心はまだ少しどきどきしていた。


「あんた、五人の美女と一緒に歩けるなんて、

まさにハーレム状態じゃないか」


母は笑った。


「自分を入れるなよ」


純心も笑った。


おそらく母は美人なのだろうと

純心も本当は思っている。

しかし、母親は母親だ。

それ以外の何者でもない。

純心にとっては唯一無二の、

かけがえのない。



それから、みんなで縁日の夜店を回った。


お嬢様は綿飴を食べて、

口の周りをベタベタにさせていた。


暑がりで、汗かきの生徒会長は

かき氷を食べて舌が変な色になっていた。


夏希はチョコバナナを食べて、

妙なセクシーアピールをしていた。


犬女ちゃんは、金魚すくいで

そのまま手を突っ込んで

金魚をすくおうとして怒られていた。


純心母は、射的で景品を取るのに夢中になっていた。

おそらく根っからの狩猟民族なのだろう。


そう言えば、こんなに大勢で、

祭りの縁日に来たのは

はじめてかもしれないと純心は思った。


よく考えると、そもそも、

学校以外でまともに

集団行動したことがない純心だった。






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