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犬女ちゃんと古いアルバム

おばあちゃんの家。


純心と犬女ちゃんが再会した場所。

いや当時の純心は、はじめて会った

と思い込んでいたのだが。


久しぶりに帰って来ることが出来て、

犬女ちゃんも尻尾を振って嬉しそうにしている。


この家がもうじきなくなるかもしれない、

犬女ちゃんがそれを理解したら、

相当なショックを受けて、悲しむだろう。


おばあちゃんの家に上がった純心は、

ある物を探す。



おばあちゃんの家にあるアルバム。


それほど多くは残っていなかったが、

その写真には確かに

小さい頃の自分と、

犬女ちゃんの姿が写っていた。


そこには顔すら覚えていない、

本当の父親の姿も写っていた。


もっと体に変調をきたすかと

純心は思っていたが、

まったくそんなことはなかった。

少しずつ過去を受け入れ

はじめているのかもしれない。


写真の父親の姿を見ても、

純心にはどうもピンと来なかった。


自分に似ているのかもしれないが、

どこにでもいる普通の人にしか見えなかった。

それほど狂暴な性格を

しているようにも見えない。


それはいたって普通の人間である自分が、

狂暴化してもなんら不思議ではない、

ということでもあったが。


写真を見た犬女ちゃんは、

その後すぐに嬉しそうに純心の顔を見た。

小さい頃の思い出を、一緒に

懐かしんでいるのかもしれない。


今日ほど犬女ちゃんが喋れたらよかったのに、

と思った日はなかった。


この家で二人は小さい頃、

ずっと一緒に暮らしていたのだ。

まだ全部を思い出せない自分が、

なんだか申し訳なくすら思える。



小さい頃の限られた記憶。

その思い出の中にある家。

おばあちゃんの家。

それももうすぐなくなってしまうかもしれない。


寂しい気持ちもあるし、

せつなく悲しいという気持ちもある。


しかし、何よりも、

自分の過去の記憶、その唯一の手掛かりが、

この世から消滅してしまうかもしれない、

それが純心には不安でならなかった。

焦燥のような、心がざわざわする

落ち着かない気持ちだった。


居ても立ってもいられなくなった純心は、

そばにいた犬女ちゃんを強く抱きしめた。

犬女ちゃんも呼応するかのように、

純心を抱きしめ返してくれた。


純心は犬女ちゃんの頭を撫で続ける。

犬女ちゃんは悲し気な低い声で鳴いている。

きっと犬女ちゃんはこの家がなくなるのを、

悲しみ嘆いているのだろう。




おばあちゃん家の縁側に腰を掛けて座り、

純心はしばらくボッーとしていた。


犬女ちゃんは純心の膝の上で

甘えていたが、

いつの間にか寝てしまっている。



可愛らしい寝顔だ。

まるで子供の寝顔みたいだ。


だいぶ涼しくなって来ている。

時計を見ていなかったから、

時間の感覚がよくわからなくなっているが、

もう夕方の日暮れ時なのだろうか。

ヒグラシが鳴いている。


なぜヒグラシの鳴く声を聞くと、

せつなくなるのだろう。

そんな遠い昔の思い出が、

記憶のどこかに残っているのだろうか。


そう言えば、小さい頃、この縁側で、

おばあちゃんと一緒に三人で

夕涼みをしていたな。


自分と犬女ちゃんは、

おばあちゃんに膝枕してもらって。

犬女ちゃんはそのときも

こんな顔をして寝ていた。


おばあちゃんは、うちわで

二人を扇いでくれていた。



ちょうど縁側に落ちていたうちわを手に取り、

犬女ちゃんを扇いであげる純心。


誰しも経験がある夏の一日の終わり、その思い出。

なぜか、せつなくなる。郷愁。

純心はそんな小さい頃の記憶を思い出していた。





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