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犬女ちゃんと純心の闇(5)

純心はこのまま

どこかに行ってしまいたかった。

人が誰もいないところへ。


過去のことはよく覚えていないし、思い出せないが、

おそらく今まで自分が一番おそれていたこと。

自分が自分を好きになれなかった理由。

それが現実のことになりつつある。

このままでは誰かを傷つけてしまう。


これ以上はもう抑えきれそうにない。

このまま奥底から湧き起こる衝動のままに、

日常を、すべてを壊してしまいたいという激情。


純心は理性を失いかけ、

自分が何をしているのかすら、

もうよくわかっていなかった。




お嬢様は今にも倒れそうだった。


良家のご令嬢で温室育ちのお嬢様。

人の善意と優しさを信じることを

信条として生きて来たような人間である。


大勢の人間の悪意に飲み込まれ、

すっかり血の気が引いて、

顔も青ざめてしまっている。


そして先ほど純心が見せた

まるで鬼のような形相。

普段の優しい純心とは違い、

まるで別人のようだった。


お嬢様は相当なショックを受け、

その心は大いに乱れ、動揺していた。

少なからず、好意を抱いていた相手の闇を

目の前で見せられて、茫然自失であった。



茫然自失でふらふらしているお嬢様が、

よく見ずに道路を渡ろうとすると、

貧血を起こし、頭の中が真っ白になって、

そのまま道路に倒れそうになる。


歩道は赤信号で、

車道からは大型トラックが

走って向かって来ている。


犬女ちゃんは、

お嬢様のところまで走り寄り、

自分の身を呈してお嬢様を助けた。


口と手を使って、

お嬢様を抱き抱えるように

一緒に瞬時に避けた。


慌ててブレーキを踏んで

止まったトラックの運転手は、

罵声を浴びせて行き去った。


道路に倒れているお嬢様と

その上に乗りかかる犬女ちゃん。



その光景を見た純心。


立ち止まった純心に

追いついた副会長のルイは、

純心の耳元で囁いた。


「あら、犬女ちゃんたら、

お嬢様にまで襲いかかっちゃって。

やっぱり犬は犬なのかしらねぇ。」


ルイにとっては、

心に鬼が住まう純心などは大好物であった。

修羅の家で大勢の鬼を見て来たルイからすれば、

赤子の手をひねるぐらい容易かった。


こうなってしまっては、もうどうしようもないのだ。

ちょっとしたことで、すぐ破裂する爆弾のようなもの。

喧嘩をしていたのを止めに入った人間すら殴る、

それが激昂した人間というものなのだから。

そこに理屈は一切ない。


純心は、激昂し、頭に血がのぼって、

頭の中が真っ白になっていた。

もう自分を抑えようとする理性すら存在しない。


ルイがその最後のひと押しをしたのだ。


今まで純心が守ろうとしていたはずの犬女ちゃんに、

その怒りの矛先は向けられてしまっている。


犬女ちゃんは純心のただならぬ気配を察し、

いつものように自ら近づこうとはしなかった。

今の純心は、遠い昔のあの男の姿にそっくりだった。


純心に、人目がないところまで

引きずって連れて行かれる犬女ちゃん。


倒れていたお嬢様は、すぐその後に、

駆け付けた夏希に運ばれ、介抱された。



純心に連れて行かれた犬女ちゃんは、

横たわってクゥーンと鳴き声を上げている。


犬女ちゃんは、純心に、

殴られ、蹴られていた。

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