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犬女ちゃんと別居(3)

犬女ちゃんは純心に、

会いたくて、

会いたくて、

仕方がなかった。


純心がいなくて、

寂しくて、

寂しくて、

仕方がなかった。


いつも窓から、

純心の家の方角を眺めて、

クゥーン、クゥーンと

悲しげな声で鳴いていた。



もちろん、夏希やおばさん、

それに夏希家の小型犬も、

自分の群れの仲間だと思っていたが、

それでも一番の家族は、

おばあちゃんと同じ匂いがする純心だった。



もしかしたら自分はこの家の子として、

もらわれてしまったのではないだろうか、

捨てられてしまったのではないだろうか、

そう思うと不安で、不安でたまらなかった。


寂しくて、不安で、

せつなくて、悲しくて、

胸が苦しくて、犬女ちゃんは

どうしたらいいのか

わからなかった。



夏希もおばさんも、

犬女ちゃんが寂しそうに

しているのを見て、

気をつかってくれた。


夏希の家で飼っている小型犬でさえ、

犬女ちゃんを慰めてくれた。


朝は夏希がお散歩に

連れて行ってくれる。

犬女ちゃんは、

外に出られて少し嬉しかったが、

それでもあまり元気が出なかった。


ご飯だって、おばさんが

美味しいご飯を

いっぱい出してくれる。

それでも犬女ちゃんは、

食欲がなくて、少ししか

ご飯を食べられなかった。


夜は、夏希が小型犬と一緒に、

犬女ちゃんを抱きしめて寝てくれるし、

おばさんが抱きしめて

寝てくれることもある。


でもおばあちゃんや純心と

同じ匂いではないので、

あまりよく寝られなかった。



犬女ちゃんの唯一の慰めは、

小型犬とじゃれているときだった。

どんな生き物にも関わらず、

小さい子が大好きな犬女ちゃんは、

小型犬とじゃれているときだけは、

目を輝かやかせていた。



夏希やおばさんに、

心配をかけてはいけないと

犬女ちゃんもわかっていたが、

それでも犬女ちゃんは、

クゥーンと、つい悲しげな声を

出して鳴いてしまっていた。

それは自然と出る鳴き声で、

犬女ちゃんにも、どうにも出来なかった。



食事も喉を通らず、

夜もろくに眠れない日々が続く。

次第に、痩せて、衰弱しはじめて

きている犬女ちゃん。




犬女ちゃんは、

とうとう我慢出来なくなって、

夏希の家を抜け出して、

純心の家に帰ってしまう。


純心はまだ学校で、

家には帰って来ていなかった。

犬女ちゃんは、家の前でずっと

純心の帰りを待ち続けた。


通り行く人は、じろじろと

犬女ちゃんのことを見ている。

犬女ちゃんは、動かずに

ただじっと待ち続けた。


犬女ちゃんは、嗅覚と聴覚で

純心が帰って来るのがわかった。

本当はすぐにでも、

走って駆けて行きたかったが、

我慢して家の前で待ち続けた。


純心が家の前まで帰って来ると、

犬女ちゃんは、純心に駆け寄った。

純心は驚いた顔をしている。


犬女ちゃんは、純心に会えて

嬉しくて、嬉しくて、

純心の足元に頭をこすりつけた。


でも純心は、そのまま犬女ちゃんを

夏希の家まで、送り届けるだけだった。

自分が今まで暮らしていた家に、

入れてもらうことすら出来ない。


やはり自分は夏希の家に

もらわれてしまったのだ、

捨てられてしまったのだ、

と犬女ちゃんは思った。


悲しくて、せつなくて、胸が苦しくて、

犬女ちゃんは、クゥーンと

悲しげな声で鳴き続けてしまった。

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