犬女ちゃんとクリスマス(6)/12月24日
クリスマス・イブの日、
養護施設の子供達は
朝から大型バスに乗って
老人ホームを訪れる。
大きなクリスマスツリーや
イルミネーション、
並んでいる模擬店などを
キョロキョロしながら
見回す子供達。
クリスマス感はさておき、
お祭り、フェスティバルとしては
そこそこ面白そうと子供達に思って
もらえそうな雰囲気ではある。
生徒会長がいろいろと
PRしてしまったため、
近所で暇してる人や家族連れなどが
やって来たりもしているぐらいだ。
そういう意味では本来の意図と
違ったものになりかかっているが
トラブルなどにならなければ
それはそれでいいだろう。
おじいちゃんおばあちゃんのお年寄りと
子供が一人ずつペアになって
まずはオリエンテーションを行う。
その前に颯爽と現れるのが、
トナカイに扮した犬女ちゃんと
純心が扮するサンタクロース。
トナカイ女ちゃんは
純心サンタが乗る人力車を引いて
猛スピードで駆けて来る。
四つ足で。
しかもその後ろからは
屈強マッチョな体育会男子が
筋肉をムキムキプルプルさせながら
プレゼントが載ったソリを引いて来ている。
「せやっ!せやっ!せやっ!」
『その体育会ノリの掛け声やめろよ』
『完全にお神輿じゃねえかよ』
子供達はそんな珍妙な
面白集団を指さして笑う。
「なにあれー」
「変なのー」
子供達の率直な感想。
しかしまぁ受けてはいた。
『よ、よかったぁ!
バカにされている!』
バカにされてよかったとは
変な話ではあるが
大勢の子供達に
泣き叫ばれるよりはよほどいい。
-
純心サンタから
子供達にプレゼントが手渡される。
まだサンタクロースが本当にいると
信じている子供も多いため、
ここで配られるのは
お菓子セット的なプレゼントで
本当に子供が欲しいプレゼントは
夜寝ている間にこっそり枕元に
置いてもらう手筈になっている。
子供の夢を壊さないよう
みんなでそういうことに決めたのだ。
先日のマッチングで話にも出ていた
田中さんのおばあちゃんと
小学生のエリカちゃんは
犬女ちゃんのトナカイ姿を気にしていた。
「おばあちゃん、
あれはトナカイなのかしら?」
小学生のエリカちゃんには
やはりトナカイに
見えなかっただろうか。
「そうね、
エリカちゃんが
トナカイだと思えば
トナカイなのよ」
田中さん、
昔孫と一緒に暮らしていたのが
本当なのかと疑いたくなるような
難しいことを子供に向かって言う。
『そんな、
心の目で見ろ的な話
子供にしても無理だろ』
「なるほど、
おばあちゃん
物事の外見にとえわれず
物事の本質を見極めなさい
ということね」
『やばい、この子
無茶苦茶かしこいんだけど』
『あんた達ホントは
血がつながってるだろ?』
さすが超優秀な生徒会が
データに基づき相性分析を
行っているだけあって、
似た者同士というか
感覚がばっちり合っている。
「じゃあ、夜には
本物のサンタクロースが
みんなが寝ている間に
プレゼントを置いていくから
ちゃんといい子にして寝るんだぞ」
一通りプレゼントを
配り終えた純心は
子供達に向かって言う。
本物のサンタクロース。
本物とは何をもって本物というのか。
伝説上の人物サンタクロース
そのもの本人ということであれば
確かに純心はサンタクロースではない。
だがその行為、精神性を見るならば、
クリスマスに子供達に無償で
プレゼントを配ろうとする純心は
本物のサンタクロースと言っても
間違いではなかった。
サンタクロース協会というのが
この世界にはあって
もちろんサンタクロース本人ではないが、
サンタクロースとして活動している。
もちろん純心は
そこに登録などしていないが
やっていることは同じである。
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最初は外で
おじいちゃんおばあちゃんと
ペアを組んだ子供とで簡単な
オリエンテーションをやってもらう。
クエスト風に
ホームの敷地内を探索して
老人の知恵を活かして謎を解きつつ
ミッションをクリアして行ってもらう。
その中で模擬店に立ち寄ってもらったり
犬女ちゃんもしくは体育会男子の
人力車に乗ってもらうという寸法だ。
全体のアイデアは
図書委員と生徒会メンバーが
協力して構想を練った。
図書委員はこういうイベントの仕事も
楽しいと喜びながらやっていて、
純心はこいつもう何でもありだなと
そのマルチな才能を褒め称えた。
我等が犬女ちゃんは、
人力車アトラクションとして
なかなかの好評を博している。
思っている以上に
スピードが出るので
小学生男子がいるペアには
人気があった。
筋肉が好きな女子ペア、
もしくは外部から来た主婦には
体育会系男子による
マッチョ人力車の方が好評だったが。
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外でのオリエンテーションが
終わろうかというとき
ちょうど白い雪が
チラリチラリと空を舞って
落ちはじめて来た。
『犬は喜び庭駆け回り
猫はコタツで丸くなる』
その歌にある通り
犬女ちゃんは雪が大好き。
まさしく天真爛漫、
無邪気に庭をかけ回っている。
そんな犬女ちゃんの様子を
微笑ましく見ている
おばあちゃんとエリカちゃん。
「おばあちゃん、
あれは犬でいいのかしら?」
「ええ、あれは間違いなく犬ね」
そのときの犬女ちゃんは
誰が見ても犬女というよりは
降って来た雪に喜ぶ
犬にしか見えなかったので、
全然間違ってはいない。
人間の皮を被った獣、
羊の皮を被った狼、猫を被るなど
外見と中身が違う際に
よく使われる言葉ではある。
だとしたら犬女ちゃんは
人間の皮を被った獣
になってしまうのだが、
それも少し違うように
純心は思う。
純心からすれば
犬女の皮を被った天使
のように思えるのだが
さすがにそれは親バカ過ぎる
というものであろうか。




