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犬女ちゃんとお芝居(1)

そんなある日、

純心と犬女ちゃんは、

生徒会長に呼び出される。


生徒会室には、生徒会長の他に

なぜか図書委員が同席している。


「今回の文化祭をいい機会にして、

我が校ももっと大学関係者の方々に

アピールをしたいというお話がありましてよ」


純心は嫌な予感がする。

生徒会長がこういう話をするときは

大抵何か無茶ぶりをして来るときだ。


「図書委員さんから、

犬女さんと文化部の相性が

絶望的に悪いという

お話を聞いたのでしてよ」


『あんたも図書委員と呼ぶんかい』


「犬女さんと文化という

取り合わせを敢えて試みる、

逆に話題になると思いませんこと?」


思った通り、

これはまた面倒な話に違いない。


生徒会長は胸を張って、ドヤ顔で

さも名案であるかのように言う。


「そこで、犬女さんに、

文化祭で劇をやってもらいますわ」


「?」


純心は一瞬

何を言っているのか

意味がわからなかった。


「待て待て、

さすがに犬女ちゃんに

お芝居は無理だろ」


『あぁやっぱりだ、

これ今まで何度もあった

パターンの奴だわ』


「いいえ、このお話なら

犬女さんにも出来ますわ」


「いえ、犬女さんにしか出来なくてよ」


生徒会長はいつになく自信満々だ。


「一体何の話をやるんだ?」


何を根拠にそれだけ自信があるのか

是非お聞かせいただきたいところだ。


「…『忠犬ハチ公』」


問いに答えたのは、

図書委員だった。


『あぁ、それなら確かに

犬女ちゃんに出来るかもしれない、

いや犬女ちゃんにしか出来ないだろう』


『他に出来るとしたら、

本当の犬ぐらいのものだ』


しかし、犬女ちゃんに

芝居という概念が

理解出来るものだろうか。

純心は疑問に思う。


「純心君、私に

いつか犬女ちゃんの話を

書いて欲しいと言ったじゃない?

だから私に

脚本をやらせて欲しいって

お願いしたの」


いつもは大人しい図書委員が

いつになく積極的だ。


『だからって、

早い、早いよ

それ言ったの数日前だよ』


おそらく図書委員も

創作意欲が再び

かき立てられているのだろう。


「私、お芝居の脚本とかも

書いてみたいと思っていたの」


図書委員の夢は広がる。


「私には文才があるから

文筆業を目指したほうがいいって

言ってくれたのも純心君じゃない」


『だからそれ言ったの数日前だよ』


将来の夢を持たない純心は、

誰かが抱く将来の夢というのに

めっぽう弱い。

そういうのはついつい

応援したくなってしまう性質なのだ。



「準備とかどうするんだ?

文化祭までに間に合わないだろ、

大道具とかもあるし」


「今回は生徒会主催の演劇

ということになりますので、

生徒会メンバーを総動員してましてよ」


一学期に

純心と犬女ちゃんを

糾弾した生徒会が総動員で

犬女ちゃんのために

働くことになるとは皮肉なものだ。


「後は演出で、

最低限の大道具で

なんとかなるように

してもらいましてよ」


「図書委員さんには

そういった演出も

やってもらう予定でしてよ」


図書委員は、

大道具がなくても、

舞台に役者がいれば、

お芝居は成り立つ、

と熱く演劇論を語る。


文学以外にも

割とキャパが広い

文学少女のようだ。


『図書委員て、

大人しいんじゃ

なかったっけか?』


図書委員は、

ラブレターの件を機に、

純心に文才を

称賛してもらったっことで、

少し変わったのかもしれない。

自信を持ったのかもしれない。


「私、犬女ちゃんにも

人間の文化に触れて欲しいの」


「文化部寄りの人間として、

犬女ちゃんにも楽しんで欲しいの、

人間の文化を」


この言葉は、

純心にとって

殺し文句に近かった。

純心が気にしていたところを

ストレートに図書委員に

突かれたからだ。



「でご主人様役は誰がやるんだ?」


純心は仕方ないかと、

いよいよ諦めかかったときに、

今さらながら大事なことを思い出した。


「そんなの、

あなたしかいなくてよ」


生徒会長は、さも当然という顔で、

平然とそう言ってのけた。


「他の誰に

犬女さんの相手役が

務まると思っているんですか」


図書委員も今さら

何を言っているんだ?

というスタンスで答えた。


「えぇっ!」


「俺がやるの?マジで?」


まったくの想定外に

慌てふためく純心。


結局はごり押しされて

やらざるを得なくなるのだが。







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