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純心と幼馴染

「純心、同じクラスになれなかったね」


休み時間に廊下で、

そう声を掛けて来たのは、

幼馴染の夏希だった。


夏希はショートカットで、

ボーイッシュで健康的な感じの美少女だ。

中学の時から、陸上部に入っており、

短距離で県大会にも行ったことがある。

走ったり、汗をかいて邪魔になるから

髪を短くしているらしい。


夏希の母も当然よく純心のことはよく知っており、

現在、一人暮らし状態にある純心を心配して、

夏希の母がつくったご飯を

わざわざ家に届けに来てくれたりもしている。


ここ数日は、純心の家に来ることがなかったので、

犬女ちゃんのことは当然まだ知らない。



純心の幼い頃の記憶と言えば、

おばあちゃんのことか、

夏希のことしかなかった。


おばあちゃんはとても優しく、

純心はいつも甘えてばかりだった。


小さい頃から人見知りで、

あまりしゃべらず、

友達が全く出来なかった純心の唯一の友達で、

いつも一緒に居てくれて、遊んでくれて、

本当に心の救いだったと純心は思っている。


純心が母親と二人で、

おばあちゃんの家を出て行くことになった時、

夏希と離れるのが嫌で、

純心はずっと泣き続けたのを覚えている。


だが、そのすぐ後に、夏希の家もちょうど

純心の家の近所に引っ越して来て、

純心は心から嬉しかったことを覚えている。



純心は幼い頃からずっと

一緒に育って来た夏希のことを

兄弟のように思っていた。


夏希はそのボーイッシュな見た目通りに、

男子っぽい、さばさばした性格であったこともあり、

純心は夏希が美少女であるにも関わらず、

恋愛対象の異性として考えたことなどなかった。

少なくとも純心は。



「春休みの間、あまり行けなかったから、

そろそろご飯を持って行ってあげたらどう?

って、お母さんが」


純心は夏希の言葉に吹き出した。

ついさっき、生徒会長に

犬女と一緒に暮らしているよう奴は

退学と言われたばかりである。


いくら兄弟のように思っている夏希でも、

同じ学校の生徒である以上、

知られたくはなかった。

違う学校であればすぐにでも相談していたのだが。


純心は慌てふためいた。

今、家に来られてはこの上なくまずい。


「い、いや、今日はいいや

俺、ちょっと用事あるし」


「ふーん、じゃぁ、いつがいい?」


いつがいいと言われても、

犬女ちゃんの宿泊滞在期間など決まっていない。

下手をすると、一生ずっと家にいることすらあり得る。


純心は何かいい口実はないか探すが、

とっさに思いつかない。

つい適当な返事をしてしまう。


「もういいよ、来なくて」


「えっ…」

夏希は純心の言葉に一瞬固まる。

目の端にはうっすら涙がたまっている。


純心は自分の不用意な一言を後悔した。

今まで散々世話をして来てもらったのに、

何と失礼な言い方なのだろう。


純心は、ときどき不用意な一言で

相手を傷つけてしまう自分を嫌悪していた。

彼があまり人と話さない暗い性格なのも、

そういうことを気にしていたからかもしれない。


「い、いや、そうじゃなくて」

「いつも、ホント、

すげー感謝してるんだけど」

純心は泣きそうな夏希を前に、

再び慌てふためいた。


そこで閃いたとっさの言い訳。

「し、しばらくうちにお客さんが来るから、

しばらくは大丈夫って意味だから…」


夏希の固まっていた表情が和らぐ。

「あ、なんだ、そういうことか」


「純心が突然冷たいこと言うもんだから、

あたしびっくりしちゃったよ」


夏希の表情は笑顔にかわっている。

ホッと胸をなでおろす純心。


「そんなわけないだろう」

「俺は夏希のことを

本当の兄弟のように

思ってるんだぞ」

これは純心が夏希に対して、

いつも言う口癖のようなものだ。


夏希は一瞬複雑そうな顔をするが、

純心のような乙女心を

わからないような奴が

それに気づくはずもない。


「それ、いつも言ってるけどね、

正しくは姉か妹ですから、

こう見えて私も一応女なんですからね」

夏希は再び明るい笑顔で

いつもの返しをする。


「いや、夏希はどう見ても

立派な美少女だと思うぞ」


「え、そ、そうかなあ

なんか照れちゃうな」

夏希は顔を赤くして照れてしまう。


「絶対男子にもてると思うんだけどなあ。

まだ彼氏とかいないのか?」

純心は悪気がなく思ったことを言う。


「い、いないよ、そんなの…

部活とか忙しいし」

夏希は恥ずかしそうにそう言う。


「まぁ夏希に彼氏が出来たら

俺も寂しくなるかなあ。

俺は小さい頃、夏希に本当に救われたからな

血を分けた兄弟のように思っているんだ」

悪気はないのだろうが、

相手の気を引きつつも、否定する、

ずるい発言のようにも聞こえる。


「だから、姉か妹だって」

夏希も嬉しいような、せつないような、

複雑な心境だ。


「ほら、小さい頃、おばちゃん家でさあ」

純心は嬉しそうに、

小さい頃の夏希との思い出を話はじめる。


夏希は、純心が語る幼い頃の思い出を、

嬉しそうに笑顔で、黙って頷きながら聞いていた。



*****


「純殿、抜け駆けは困ります、な。

この調子では童貞を守り切れそうにもありません、な。」

「幼馴染とは、壮大なフラグですぞ」

「姉か妹なら、妹でお願い、だよね」


どこで見て聞いていたのか知らないが、

三馬鹿トリオに説明責任を追及される純心であった。

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