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犬女ちゃんと幼稚園(2)

純心は自転車に乗り、

幼稚園に向かった。

犬女ちゃんは自転車に

並走してついて来る。


幼稚園に着くと、大人達が

ユアちゃんを探し回っていた。


幼稚園の近辺を

みんなで手分けして、

探しているらしい。


園児達も大人達のただならぬ雰囲気を

感じ取り、騒いでいる。



犬女ちゃんを知らない大人や子供は、

奇異な者でも見るような目だったが、

今はそんなことを

気にしているような場合ではなかった。


「あら、姐さんのところの、犬女ちゃん」


幼稚園の先生の一人が

犬女ちゃんに声を掛ける。

純心もどこかで見覚えがある女性だ。


その先生は、お祭りで女神輿を

担いでいた女性の一人だった。


今は飼われている犬女を見掛けることも

すっかり少なくなってきたため、

みな犬女ちゃんを一目見たら、

だいたいは覚えている。


そもそもの見た目が

普通の人間と違って、特徴的であるから、

一度見たら忘れることはないのだが。


純心はそれを犬女ちゃんの

唯一無二の個性だと思っている。

そう思うようになっていたのだ。



とにかく犬女ちゃんを

知っている先生がいたのは助かった。


ジャガイモと一緒に、

幼稚園に事情を説明して、

純心と犬女ちゃんは、

早速行方知れずの

ユアちゃんとユウちゃんを

捜すことにする。


犬女ちゃんに、

ユアちゃんとユウちゃんが持って来ていた

荷物の匂いを嗅がせる純心。


「これ、わかるよな? 大丈夫だよな」


犬女ちゃんは自信に満ちた顔で、

ワンと鳴いて純心に応える。


本当はそんなことをしなくても、

そんなことを聞かなくてもいいのも、

純心にはわかっていた。


犬女ちゃんが

大好きなユアちゃんとユウちゃんの匂いを

わからないはずがなかった。


自分が犬女ちゃんを

置き去りにして来てしまったあのときも、

遥かに遠い距離を、匂いだけを頼りに、

自分をずっと探して続けてくれたのだ。


ユアちゃんとユウちゃんが

歩いて行ける範囲など、

犬女ちゃんからすれば

そばにいるのもきっと一緒だろう。


犬女ちゃんが群れの仲間を想う気持ちを

純心は信じて疑わなかった。



園の中で匂いを嗅ぎはじめた犬女ちゃんは、

ユアちゃんとユウちゃんの匂いを辿って行く。


園の裏山から外に出て、どうやら

その先にある神社に向かって行ったらしい。


犬女ちゃんが辿り着いた神社の境内で、

泣き疲れて眠ってしまっている

ユアちゃんとユウちゃんの姿があった。


ユアちゃんとユウちゃんは

まるで天使のような顔で寝入っており、

犬女ちゃんはずっとそばで

そんな二人の顔を見守り続けていた。



園に戻って目覚めた

ユアちゃんとユウちゃんは、

目の前に犬女ちゃんがいて、

すっかりご機嫌が良くなったようで、

「いぬおんなたーん」と

呼びながら抱き着く。


犬女ちゃんは

そんなユアちゃんとユウちゃんを

優しく抱きしめてあげる。


純心はそんな三人を見て、

萌え過ぎて激しく見悶えた。


-


それ以来、純心と犬女ちゃんは、

時々幼稚園に、ユアちゃんとユウちゃんを

お迎えに行くようになった。


家族でない人がお迎えに行くのは、

本当はだめらしいが、今回の件で

ジャガイモと親御さんが説得してくれたらしい。


一部犬女に偏見を持っている親も

まだいるようだったが、

今回のお手柄で、犬女ちゃんにだけは

一目置くようになったみたいだ。


いくら犬が嫌いな人でも、

異様に嗅覚が優れた救助犬を、

盲導犬や介助犬を、

あしざまにはしない、

それと同じことだろうと純心は思う。



お迎えで一緒になるお母さん達の中には、

お祭りの女神輿に参加した人や、

そのときの犬女ちゃんの姿を観ていた人が多く、

犬女ちゃんと純心はよく挨拶をされた。


さすがお祭りは地元地域コミュニティの

イベントだけあって、

それに参加した効果はすごいと

今さらながらに純心は思う。



今では犬女ちゃんもすっかり

幼稚園で人気者になっていた。

小さい子供が大好きな犬女ちゃんは、

ちびっ子達に囲まれて、

みんなに『いぬおんなたん』と呼ばれ、

とても嬉しそうにしている。


純心は相変わらず子供耐性がなく、

ぎこちなかったが、

それでも以前よりはるかに

ましになったほうだ。


朝の散歩、町や商店街を

犬女ちゃんと一緒に歩いているときなど、

幼稚園の子に声を掛けられるようにもなった。


「あ、犬女ちゃんとお兄ちゃんだ」


幼稚園児達には、

「犬女ちゃんのお兄ちゃん」という、

まるで自分が犬女ちゃんの実兄で

あるかのような呼ばれ方をしたが、

普段から自分と犬女ちゃんは

「兄弟のような」と言っているので、

まぁ間違えてはいないのかと妙に納得した。


愛ちゃんの邪な「お兄ちゃん」ではなく、

ちびっ子達の純粋な「お兄ちゃん」は、

純心にとってもいい感じではある。



犬女ちゃんも純心も、こうして

コミュニティの交流範囲を

また少し広げることになった。






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