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犬女ちゃんとアイスクリーム

「暑いしね、

ちょっと休憩でもしていこうかね。」


母はそう言いながら、犬女ちゃんを連れて、

すぐ近くにある喫茶店に入って行く。

喫茶店は『夏祭り』という

店名の看板が出ている。


犬女ちゃん連れで大丈夫なのかと

思いつつ、後をついていく純心。


「いらっしゃい。

今日は息子さんも一緒かい。」


喫茶店のマスターは、

犬女ちゃんに難色を示すどころか、

気にする素振りすらない。


「ああ、今日もまた随分と暑いね。」


「アイスコーヒーを二つね。

この子はいつものアイスクリームを頼むよ。」


おそらくは今まで何度も、

散歩の途中で立ち寄っているのだろう。

すっかり常連のようである。


「ああ、お祭りのときの…。」


はじめのうちは気づかなかったが、

よく見るとそのマスターは、

お祭りのときに、

犬女ちゃんを見に来ていた

男性の一人であることに

純心は気づく。


それで店名が『夏祭り』だったのか。

どれだけお祭り好き男なんだ

ここのマスタはー。


「そそ、ここのマスターは昔からの馴染みでね。」

「この子の入店もOKだって言うからね。」


「すごいな」


純心は素直に驚いた。


「まさか犬女ちゃんと一緒に、

喫茶店で涼むことが出来る日が

こんなに早く来るとは思ってなかった」


純心がいつか実現してみたいと

思っていたことを

母は意図も簡単に実現している。



「なあに、この子が、

暴れたり、粗相をしたりしない

賢くていい子だってわかってもらえれば、

入れてもらえるところだってあるのさ。」


「要は信頼してもらえればいいのさ」


「当然その信頼を得るためには、

時間がかかるし、大変なんだけどね」


純心には耳が痛い話だ。

それは人間もまったく同じではないか。


自分は一度キレて暴れてしまったが、

それでもまた夏希やお嬢様、生徒会長が

信じると言ってくれたから、

今でもみんなと楽しい時間を

過ごせているのだ、自分は。



「この子は、あんたの兄弟も同然。

てことはあたしの子も同然なんだよ。」


「せっかく人間に似た姿形をしているんだ、

この子にだって、人間と同じように生活させて

やりたりじゃないか。」


そうなのだ。

小さい頃、兄弟同然に育ったはずなのに、

犬女ちゃんと一緒に体験出来ないことが

あまりに多過ぎるのだ。


犬女と人間の違いと言われれば、

それまでなのかもしれないが、

小さい自分は、犬女ちゃんを

人間だと間違えるぐらい、

何でも一緒だったではないか。




犬女ちゃんは、

アイスクリームが運ばれて来ると

尻尾を振って喜んでいる。


「最近は毎日のように途中でここに寄って

アイスクリーム食べてるんだよ、この子」


母の話を聞いて、

虫歯になっては困るので、

犬女ちゃんの歯を

毎日よく磨かなくては、

と純心は思う。


糖分の取り過ぎも体にはよくないだろう。


「太ったら抱っこ出来なくなるから、

あまり食べさせないでくれよ」


犬女ちゃんは今でも

スリムな成人女性並みの体重があるのだ。

それを日頃いつも抱っこしたりしているお陰で、

純心もかなり筋肉がついて来ていた。

これ以上体重が増えられたら、

本当に抱っこ出来なくなってしまう。


犬女ちゃんは心配そうに、

純心の顔を見つめていたが、

それでもアイスクリームは残さず食べた。


-


犬女ちゃんの世界は広がりつつあった。

今まで朝の散歩で出掛けることはあっても、

ほとんどが家にいるだけだった。

これまでは家から出られない理由もあった。


お母さんが、犬女ちゃんの

行動出来る範囲を、世界を広げてくれたのだ。


それに伴って、

純心の世界も変わって行くのだが、

それはもう少しだけ先のお話。






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