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どこかある世界の終わり

作者: ヒデハム

どこかある世界の終わり



帝国。

かの国に名前は無い。

かつては辺境の小国として名を持っていた。しかし時代の流れにより周辺国を併呑へいどんしていくにつれ名が体を表さなくなり、地殻変動によって国家成立時の領土が海に沈んだことでついには失われてしまった。

帝国。それだけでかの国を言い表すのに必要十分であった。


帝都『大京』上級院


帝が見下ろす議事堂には多くの議員たちが議論を交わしていた。


「であるからして、今こそさらに大規模な兵力を北方へ向かわせるべきである!」


「私は反対だ。確かに南では補給が限界に達しているが、かと言って北を攻めれば良いと言うものではない」


「では何か!?棄兵隊きへいたいを遊ばせておくと!?奴らを養うのに一体いくらかかると思っているのだ!」


「棄兵隊の話はしておらん!そんなもの捨て置けば良い。問題は魔術師だ。北に進軍するとなれば、魔術師を割り当てる必要が出てくる。だが現状、魔術師の数は足りてるとは言い難い」


帝国は世界最大にして最強の国家である。しかしながら戦争にて勝利を約束されることはない。

大陸の東側全域と世界の海の半分を支配する帝国に対抗すべく、西の諸国は強固な同盟を結び、新大陸は洋上に不破の防衛線を引いた。

帝国は世界のほぼすべてを敵に回したのだった。


「のう、西共の天使よ。滑稽こっけいに思うか?」


少女は己にのみ見える存在に問いかけた。


「ガブリエルです。何を、ですか?」


「この有り様をよ。未来を見据えることを忘れ、ただ領土拡大のみを目的とし、あまつさえ臣民を棄兵隊などと呼んで死地に追いやる者どもが。恥を知れ!」


少女は吐き捨てるように言う。

側仕えに窘められるが、耳を貸すことはない。


「……」


ガブリエルと名乗った存在は口を開かずに沈黙を返した。


「琴千代。皇女がそんな言い方をするものではない」


「父上……」


議事堂を見下ろす少女のさらに上段から声が聞こえた。


少女の父親であった。


「皇族たるもの、常に冷静でなければならぬ。帝が情を乱せば、皆が混乱する」


「しかし父上、この有り様を見て何とも思わぬのですか!?」


少女は同じ問いを父親へ投げかけた。

少しでも、父の心が動かせると信じて。


突然声を荒げた少女に、議員たちは議論を止め、みかどの言葉を待った。


「思わぬ。思わぬとも。なぜなら皆が国を想って議論をしているからだ。今、我々が口を挟まば皆の想いを無駄にすることになる」


帝の言葉に議員たちが(こうべ)を垂れる。


少女の願いは打ち捨てられた。


やがて会議は終わり、翌日へ持ち越しとなった。


―――――


少女は詩を口遊むと、地を蹴って空へ飛びあがった。


「やはり風は心地よいな。日々の重圧から解き放たれた気分じゃ」


少女は空を舞う。


空中散歩で彼女に勝るものは帝国にはいないというほど、少女は飛行魔術に秀でていた。


少女は海岸線を飛び越え、一気に加速して海の果て・・擦れ擦れで宙返り、そのまま自由落下して海へ飛び込む。


水しぶきとともに飛び上がると、来た道を逆走していく。


魔術で服から振り落とされた海水が陽光を反射し、虹を作る。


少女は振り返りながらそれを見るのが好きだった。


「皇女さま、こういったことはおやめください」


「下がれ」


「しかし」


「妾は下がれと言った」


窓から自室へ戻った少女は、待ち構えていた乳母の諌言を封殺し、ベッドに倒れこむ。


少女にとって世界はガラス越しだった。

自分や家族を除くすべての人間がみにくただれて腐って見えた。

父親はそれらを統べる立場でありながら、何もしない怠惰たいだな医者。兄弟や母親もそれを見て見ぬふりをする同類の看護師だ。


自分1人が世界に不快感を持つ。だが何をどう頑張っても、家族も世界も変わろうとはしない。それが少女には我慢ならなかった。


「この世界は終わっている」


「そうですね。終わっているのかもしれません」


独り言に応えがあった。

言うまでもなくガブリエルだ。


「ならなぜ世界はまだ続いているのじゃ!」


「それはまだ世界が終わっていないからではありませんか?」


ガブリエルは少女が独りのときによく話すようになる。

経験上、少女はそう理解していた。


「例え話をしましょうか。

あるところに貴族がいました。狭い領地に小さな屋敷を持ち、代々その領地を治めていました。

しかしあるとき帝の怒りを買い、その貴族はお取り潰しとなり、後継者だった息子も毒杯をあおりました。

しかしその家はまだ残っています。

なぜでしょうか?」


ガブリエルの問いは簡単だ。


「その領地に新たにほうぜられた貴族がその家、つまり屋敷に住み始めたからじゃろう。そのような領地を与えられる者に屋敷を建て替えられるほどの資金があるとは思えぬ」


「その通りです」


少女は正答した。


「人間は家を2つの意味で使います。1つは中に住む家族、もう1つは建物」


「して?」


「世界にも様々な意味があります」


少女は考える。もとからそういった思考は得意だった。


「人が成す世界と野生の世界か」


「それも1つの解釈です」


不意にガブリエルの気配が消えた。


部屋にノックが響く


「皇女さま、お食事の時間です」


「…ああ、今ゆく」


聞き足りないことを整理しながら家族のもとへ赴いた。


―――――


少女の行動を止められる者などいない。


魔術の腕はもとより皇族の血統が、傷つけられることを拒否するのだ。

そして今いる皇族の中で最も強いのが少女であった。


「最新のジェット機も大したことはないの。妾の半分も速度が出ぬとは」


朝になって滑走路から飛び出したグリフォンたちを易々と追い抜く。


グリフォンは帝国の軍用機だ。

西部国家共同体、魔術王国グラハム、新大陸モンロー合衆国、暗黒大陸の少数部族、それらに攻め入るべく製造されたそれは、少女から見てとても頼りなかった。


否、少女が強すぎるのだ。


少女は西へと飛んでいた。


無論、周囲へは何も告げずに。


「大京から出るのは久しぶりじゃ」


「先日、海へと飛び立ったと記憶しています」


「あんなもの出たとは言わぬ。ちょっとした散歩にすぎんよ」


帝都から飛び出し、2時間で五千km以上を飛び続け、向かう先は大陸北西部の小国グラハム。


きっかけはガブリエルとの会話からだった。


―――――


「のう、西共の天使よ」


「ガブリエルです」


「そんなことはどうでもよい。おぬしと最初に会ったとき、何を話したのじゃったか?」


「ただの世間話でしょう」


「ああ、そうじゃった。世界についてじゃったな」


「……」


「確か世界の終わりはどのようにして終わるのかという話もしたの」


「……ええ、そうでしたね。結論には至りませんでしたが」


「世界の終わりを見守るおぬしから見て、この世界はどうじゃ?」


「数多の世界の終わりを宣告してきた私に、他の世界とこの世界を比較しろ。ということでよろしいですか?」


「ああ、それで構わぬ」


「わかりました。以前話したように、世界の終わりにはいくつか形があります。

1番多いのが、回避不能な天災による終末。かつて竜種をはじめとした多種多様な種を滅ぼしたそれを人間が防ぐことはほぼ不可能です」


少女にはそれが不可解に聞こえた。

魔術が発達した現代において、隕石を防ぐことは難しいことではない。占星術でそれが予見されれば、直ちに防衛策を講じることが可能だ。

実際に今より技術レベルの低かった300年前でも、重力操作によって速度を制御しながら安全に海に落とし、最小限の被害で天災は回避された。放出された熱で1年間は異常気象が続いたが、魔術の前には些細なことだ。


「それに続くのが核戦争。戦争と平和、信頼と敵対の区別がつかなくなり、地上が一瞬にしてアネクメーネとなる。すべての人がすべての人を殺して、世界は終わる」


それは聞いたことがあった。皇族と一部の人間しか知らされていないが、かつて核兵器という危険な兵器があった。あるとき、いつそれが使われるとも分からぬ情勢となり、それに恐怖した人々が必死に止めたお陰で今があるという。自身のように人並み外れた魔力があれば身を守れるだろうが、そうでない臣民は死に絶える。それが世界の終わりだと言われれば納得ができる。


「さて、少し場所を移しましょうか」


―――――


そう言って部屋を出たのが3時間前。

ガブリエルに言われるがまま西へ進み、今に至る。


「一体いつまで飛ばせるのじゃ。妾はもう自分がどこの辺りを飛んでおるかもわからなくなったわ」


「もうすぐ見えてきます」


太陽が東に沈むのを見たのは少女だけだろう。

もはや大地は暗黒に包まれ、白と闇のまだら模様は見えなくなって距離や方位の感覚も曖昧だ。受ける風だけが自分が前へ飛んでいると教えてくれる。


「あれか?」


見失っていた地平線があらわになる。


地上の光が見え始めたのだ。


あれは城だ。

侵略者の意志をくじくための堅牢さと、王威を示すための華やかさを兼ね備えた建造物。

現存するそれを持つ国は帝国を除きこの大陸に1つだけだ。


「あそこが人間がグラハムと呼ぶ小国です」


魔術王国グラハム。帝国と西部国家共同体に挟まれるように存在するその国は魔術の力で完全な自給自足を成立させ、鎖国状態にある。国民全員が魔術師で構成され、攻めるには多大な犠牲を覚悟しなければならないとされる。

とは過去の話。現在は鎖国を解き、西共の一員として帝国と戦争状態にある。10年前に国家元首が替わり、専守防衛から戦略的先制攻撃へとシフトしたらしい。


「確か将軍どもが揉める原因となった国か」


戦線の北に位置するこの国に攻勢をかければ、グラハムの魔術師たちは南から引き返し、自国の防衛を行う。そうすれば戦況の悪化している南部の助けとなる。


「この世界のような終わり方は私も初めてです。人が滅びて世界が終わるのではなく、世界が壊れて人が滅びるとは」


ガブリエルは語り始めた。


「私もいつ笛を吹けばいいのか困惑しています。なにせ人が滅んだら笛を鳴らし世界の終わりを告げるのが私の役目だというのに、このままでは笛を吹く前に世界が終わってしまうのですから。主の判断を仰ぐべきかもしれません」


「世界が…壊れる…じゃと?」


「ええ、そう言いました。この500年、世界は崩壊の原因を抱えてきました。とはいえ、その危険は潜在的なものであり、まだ滅ばないと考えられました。しかし10年前から急速にそれが顕在化しました」


「グラハムの政変がそのような大事に繋がるのか?たかが1国じゃぞ?」


「間接的にはそうですね。彼女がまだ女王であったなら私がここに来ることもありませんでした」


彼女…ケミィ=グラハムは10年前に姿を消した。何故か、は帝国も西共も知らない。後釜に就いたとされる今代の王でさえ、真実は分からなかった。

ただ1つ言えることは建国の母を失ったことで、子たる国は変わり、世界は滅びへ向かった。


「世界が終わる直接の原因は魔術そのもの。500年間バランスを保っていた魔力が大きく魔術に傾いたことによります」


「魔術そのもの?」


「魔術とは、世界のことわりを一時的に書き換える術です」


「それは帝国の魔術院でも同様の見解じゃの。妾が今こうして浮いているのも魔術で重力を自在に操っておるからの。術を切れば妾は真っ逆さまじゃ」


少女が今いるのはグラハムの都を見下ろす雲の上。ここから落ちればまず助からないだろう。


「魔術は世界の理を書き換えます。そしてそれをやめれば再び正しい理に戻る。誰がその理を作っているか分かりますか?」


少女には分からなかった。そのような発想は帝国の誰もしていなかった。


「魔術師ではない人々、非魔術師がそれを為しています」


「まさか、非魔術師は魔力を扱えぬ」


「無意識下でのことです。無意識に世界はこうあるべきだと世界を規定しているのです。あなたも心当たりがあるのではないですか?」


確かにあった。

生まれつき皇族が持つ特性。

皇族を皇族たらしめる理。


「あなたが傷を受ければ、それは国民の誰かが肩代わりすることになり、あなた自身は決して傷つくことはない」


帝国の臣民が当然のように受け入れている常識。

何もしていないのに突然ケガをするのは、皇族の傷を代わりに受けたからであり、名誉の負傷である。

少女にとってもそれが当たり前であったが、今この場でその常識がくつがえされた。


「……」


散々人を黙らせていた少女であったが、今度は彼女が黙る番だった。


「一度地上に降りましょうか」


どこか反論の糸口を探して思考していた少女は、ガブリエルに手を引かれて地上へ降り立った。


背中を朝日が照らしはじめ、足元の雪が白銀に輝く。

少女は帝国を着の身着のまま飛び出してきたため赤い寝間着だ。遠めに見ても明らかなくらい目立った。ましてや魔術王国の防衛線の目前で、強大な魔力を行使しているのだ。

すぐさま魔術師に囲まれた。


「なにものだ!名を名乗れ!」


誰何すいかの声が魔力に乗って届く。

思考の海に身を沈めていた少女はそれを中断させた声に怒りをぶつける。


使者役を務めた魔術師が吹き飛び、反撃の魔術が少女に襲い掛かるが、濃密な魔力に溶けて消え去った。


少女は歩を進める。


グラハムの指揮官が撤退を命じ、入れ替わるように増援が現れる。しかし結果は同じ。


「天使よ。さっきの話は本当なのか?」


「ガブリエルです。ええ、本当です」


「ではこの国の王に直談判して停戦させれば世界の終わりは防がれるはずじゃな」


「私は世界の終わりを告げる天使です」


ついに少女は玉座の間にたどり着いた。


しかし、


「王はどこじゃっ!」


玉座にも、執務室にも、寝室にも、姿はなかった。


「王はおりません」


背後から少女に声をかける者があった。


「…おぬしは」


「近衛部隊長兼女王代行の風間と申します」


女は杖を構えたまま視線を少女から外すことなく風間と名乗った。


「王がいないとはどういうことだ」


「あなたが何を求めてここに来たのかは分かっています。王はあなたにお会いになりません。お引き取りを」


「そのような言葉で引きさがると思うのか?」


「いいえ、ですが王がお隠れになって10年。我々ではあなたを王に会わせることができません」


「お隠れに、か。ならば仕方あるまい」


死んだのであれば仕方ない。


「ならば現在まつりごとを行っている者に会わせろ。話がある」


「いません」


「なんだと?」


「現在、我々は王の遺言に従って動いています。王は唯一無二。次代の王は選ばれておりません」


「ではそれを破棄せよ。このままでは世界が終わる!」


戦争にて非魔術師がすり減れば世界が終わる。

10年前の状態に戻すには、まずはグラハムの参戦を取り消さなければならない。


「たとえ世界が滅びようとも、それが王の望みとあらば」


「なぜじゃ!そなたらの王はこのことを知らぬかもしれぬのじゃぞ!」


「我々は王に従うのみ。王に受けた御恩の分だけ奉公しなければなりません。王は全知の存在。あなたがここを訪れたことも含めてすべては王のてのひらの上にございます」


取り付く島もなかった。帝国以上の絶対王政である。広大な領土を支配するために貴族や将軍のいる帝国とは中央集権の度合いが違う。

しかもこの忠誠ちゅうせい尋常じんじょうではない。


「そなたらはなぜ、終わりを許容できるのじゃ…」


「あなたは、なぜ世界の終わりを拒絶するのですか?」


少女の問いを、女は問いで返した。その顔は微笑んでいるようで、我がままを言う幼子に言い聞かせるかのようだった。


「……くぅ」


少女は答えられなかった。


女は続ける。


「あなたが何をしようと、最早もはや終わりは必定。我らが王が守らねば滅びる世界です。自ら滅びに抗えぬ者に文句を言われる筋合いはありません」


無視できぬ言葉だった。


「待て。王が守らねば、じゃと?どういうことだ!?」


一縷いちるの光を得て、少女は問う。


「その通りです。あなたが終わりを拒絶する以上に王は死を拒まれました。あなたとは違い、明確な理由を以って。何があったか知る者はいませんが、その理由は失われ、王はお隠れになられました。五百余年を生き抜かれるほどの理由と、それを失った絶望は推し量るべくもありません」


「理由など妾には関係ない!妾が知りたいのは如何いかにして守ったかじゃ。申せ!」


「方法など、ここに来るまでにヒントはありましたよ?それともあなたは勉学を修めてこなかったのですか?」


急に挑発的になった女に魔力を叩きつける。


「分からぬから言っておる。猶予がいくらあるかも分からぬ。頓知とんちなどせずにはよ申せ!」


「…この城はグラハムの中心。同心円状に2つの城壁がこの国を取り巻いています。ここに来るまでに見えませんでしたか?精緻に文字の刻まれた壁面と、幾何学きかがく模様を描く城下町の風景を。いえ、その様子を見るに、焦りのあまり気にも留めなかったということですか」


その通りだった。ガブリエルとの会話、魔術師との戦闘、そして心の焦りにより観察を欠いていた。


「な、に?ではこの国自体が、」


「巨大な法術陣となっています。世界法則の絶対的な保護。世界を終わらせぬための力を意識的にはたらかせる陣。国民には、国を守る戦略魔術陣だと説明していましたが、あながち間違いではありません。ただ常に魔力が通っていたというだけで」


たまたま近くの部屋の窓から見渡す城下町は確かに無数の図形を描いている。


「なん、たる、ことじゃ……」


「終わりは誰の責任でもありません。終わるべくして終わるのです」


少女は窓から飛び立った。


「天使!」


「ガブリエルです」


「妾の魔力でその法術陣とやらを起動させることは可能かっ!?」


少女はそもそも法術を知らない。だが魔術と同じようなものだと思った。だから自分になら何とかできるのではないかと。


「不可能です。そしてあれは既に壊されています。機能しないでしょう」


しかし聞こえる声は無常だ。


「ならばどうすれば終わりを止められる!」


「私の名前と役目を忘れましたか?私は終わりを告げすべての死をなかったものにする大天使ガブリエル。終わりを免れなくなった世界にあらわれ、終わりを記す存在です。この世界の終わりは決定事項です」


声は角笛を手に取り、少女に自らの存在を示す。


「しかしあなたも度々見たことでしょう。世界は回復不可能なほど壊れています。各地は虚空が口を開き、何もかもを消し去らんとしています」


帝国の東には旧帝都が沈んでいた海があった。しかし9年前に海に大穴が開き、近寄ることができなくなった。

かつては星を頼りに旅ができたという。夜の空旅は冒険の代名詞だ。

10年前まで大地は1つの面だった。今は底なしの闇が辺りを侵食している。

昔の偉人は地球は青かったと言ったそうだが、それは今言うべき言葉だ。そう、地球は青かっ()


「妾は…どうすれば…よいのじゃ…」


「私は私の役目を全うするのみ。この世界は終わりの順序が違いましたがね」


崩れかけの城壁の上で、東の空を昇る太陽を見つめる。


既に夜が明けているにもかかわらず、城下町からは人の気配がない。思い返せば少女がここにやってきたときも、民間人がいた様子はなかった。ほぼ全員がこの地を離れているのだろう。


不意に太陽が陰った。


「なんじゃ!?」


大地がきしむ音が空に響く。


「これは…私の仕事も間もなくですかね」


「なにがっ」


尋ねようとした少女の体が空に打ち上げられた。


太陽は何度も明滅を繰り返し、それに同期して大地が海原のように跳ねる。


重力が乱れに乱れ、飛行魔術の奇才も詠唱さえできない。

しかしたぐいまれな魔力で以って自らに襲い掛かる大岩や城壁の破片をはねのけていく。


これが何者かからの攻撃であれば少女はそれを瞬く間に反撃できただろう。だが何人の魔力も感じられず、またこの現象が起きているのは少女の周りだけではなかった。

グラハムの城も遠くの山々も、跡形もなくなっている。


空と大地の区別がつかなくなり、それでも少女は耐え続けた。





ーーーーー



砕け散る大地の雨のなか、どれほどの時間をかき回されたか分からない。

十数秒か、たった数分か、ほんの数時間か、


気づけば少女は、光なき闇の世界にいた。


「ここは、死後の世界、か?」


少女の声には、疲労の色が強く滲んでいた。


「いいえ、まだあなたは生きています」


返事があった。

それだけで少女は安心した。


残った魔力で辺りを照らすための光を生み出そうとするが、何も見えなかった。


「人はすべて先ほど死に絶えました。あなたを除いて。そしてあなたももうすぐ死ぬでしょう」


さもありなん。と少女は思った。


「太陽の消滅の間際に発生した重力波により地上の人間は即死。空にいた人間は墜落死。あとあなたが死ねば世界は無事終わります」


そうか。と言って少女は何も言わなくなった。


ガブリエルと名乗った天使は懐から角笛を取り出す。


「主の名の下に、この世界の終わりを宣告します。皆に祝福あれ」


角笛の音が高らかに響き渡った。



暇すぎて小説書きました。黒歴史待ったなし。


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