13 母の思い出
13 母の思い出
モールの人々が粛清した、ラウンドウェル王家の生き残り。
ロードリアスに嫁いだルオーの母を除いて、全員が殺されたはずだった。
「それって、ルオーの事?それとも誰かほかの人が生きてるって事?」
「わからねえ。ちび、お前何か聞いてないか?」
ルオーは首を振った。
「母の事を話すのは禁じられていました。
ロザモンド王妃が嫌ったからです。
その、母はとても美しい人だと言われていたので」
後添いのロザモンドが、嫉妬したのだった。
嫁いでわずか一年で、ルオーを生んで亡くなった女性に。
病弱なルオーの後ろ盾がないのをいいことに、肖像画一つ残さず、その存在を抹殺したのだ。
「母の乳母だった老アンナは、王家や家族の事は何も教えてくれませんでした。
豊かな銀髪に、僕と同じ青い眼の、少女のように笑う美しい人だったと。それだけ」
銀髪をおさげにして野の花を編み込むのが好きだった。
お城の地下の泉の周りをくるくる回って走っていた。
乳母の話は、そんな少女のたわいない日常の事ばかり。
大事に育てて失ってしまった、大切な少女の思い出ばかりだった。
「まあ、ゆっくり休めよ、ちび。
その傷を治してから、この先どうするか決めようぜ」
セネカを捕らえ、シルヴァーンをどこへ連れて行ったか聞き出す。
彼の右手は、ずっと北のほうへ引かれ続けている。
谷の奥、モールの都の方へ。
今は使われていない湯治場は、絶好の隠れ家だった。
ライラが竜に戻って岩を数個どけ、岩場を掘ると、いい加減の湯が湧き出して窪みに溜まる。
ちょっと硫黄くさいが、ルオーがひとり利用するなら、十分な大きさ。
ゆったりと湯につかったルオーは右手の感覚を確かめる。
洞鼠は大きな筋肉は傷つけなかったが、皮下に長い傷を残した。
ゆっくり湯で温め、外に出て傷の周囲をほぐし、また湯につけて温める。
何度目かに立ち上がった時。
「まあ、元気になられたのね。お怪我の具合はいかが?」
大きな籠を手に立っていたのは、寂し気な眼をしていた宿の女将だった。
ルオーはあわてて肩までどぼんと湯に沈んだ。




