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竜王と黄金のハート  作者: 葉月秋子


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      11 竜珠 その3

11 竜珠 その3



「まったく、とんでもない奴だ。

 手始めにだと?いったい何を企んでやがる」


 貧しい神官見習いとして、竜王とルオーに近づいてきた男。

 初めから竜に対して復讐を企んでいたのか?


「昔もきつく香を焚きしめていたけれど、あれほどの腐臭はしなかったはず」

「だな。いくらシルヴァーンが寝ぼけてたって、あれほど臭えば気が付いたろう。

 あれから六年か。

 ずいぶんと腐れが進んでるんだな」


 生きながら腐っていくのと、生きながら喰われるのと・・・。

 どちらも恐ろしい死に方だ。


「解毒法は・・・?」

「ねぇだろうなぁ。

 人が竜を喰ったらどうなるかなんて、考えたこともなかったし。

 あいつに竜珠をやろうなんて奇特な竜は絶対にいっこないし」


「そんな奴、ぜーったいにいないから!」


「あ、ライラ、戻ったか?」


 なんか覚束ない足取りで入って来たライラが、ばきん!と卓を叩き割り、ルオーは飛び上がった。

 眼の据わったライラが拳を握り締めて唸る。

「あのセネカっていう奴!

 絶対に許せないっ!

 生い立ち聞いて、ちよっとでも同情したあたしが馬鹿だったわ。

 竜などこの世から消えてしまえですって!

 あんな物使って竜を殺そうなんて、最低最悪の極悪人っ!

 絶対、絶対、ぜったあああーい、許さないからっ!」


 ライラの激高ぶりに、レイヴンがはっと気づいた。

「あっ!おいっ!とっときの酒の樽はっ!」

 あわてて荷物を探るが、アストラで買ってきた原酒の小樽がない。


「くそーっ!高かったんだぞ、あれーっ!」




 酔ったライラが泣き出しちゃって、二人があわててなだめたり。

 いろいろあったが何とか落ち着き、今後の事を話し合う。


「街ではだいぶ騒いでいたが、ここならしばらく大丈夫だと思う。

 何よりちびの傷を治さないと」


「そう、無理しないでね。

 人間が竜の血を浴びたり飲んだりしたらどうなるのか、まだよくわかっていないから。

 肉を食べたらあんなことになるなんて、思ってもいなかったし。

 あたしの血とあれほど激しい反応おこすんだもの、あんたの身体はシルヴァーンの血でずいぶん変わったんだと思うわ。

 幸い、いい方へね」


「そういや、蔦豆中毒も治っていたな」

「うん、竜珠とおなじ作用するみたいね。あなた、全身に浴びたんだって?」

 ルオーが無言でうなずくと、ライラは微笑む。

「そうか。

 竜珠ほど劇的な効果はないけど、怪我や病気はしっかり治すんだわ、きっと。

 そして、竜の、それもシルヴァーンみたいな巨大な竜の匂いのついた者には、そこらの獣なんかは怖くて近寄れない。

 一人で荒野を旅したって襲われることはないわ」

「ただし休息期の話だぞ。

 大型の獣が出てきた今はそうはいかない。

 特に他の竜が嗅ぎ付けたら真っ先に襲われる」


「そうね。だからルオーはぎりぎりのところで助かってるのよ。

 鼻が鈍い人間以外の生き物には、あんたがシルヴァーンの保護を受けてる者だってすぐわかる。

 竜の獲物には小さすぎて、襲われる心配の無い生き物達は、竜の庇護を得るために近づくことだってするでしょう」


「・・・馬・・・は?」

「ん?」

「馬・・・白い、大きな、美しい馬・・・。

 いや、馬だけど、馬じゃない。額に輝く角が」

 ルオーは自分の額に手を触れる。

「研ぎ澄まされた三日月刀のような、一本だけの綺麗な角が」


 ルオーはとぎれがちに二人に話す。死んで当然の重傷で流れ着いた、深い森。

 命を助けてくれた、幻のように美しい生き物。

 あの、夢のような不思議な時。


 ライラとレイヴンは眼を見合わせる。


「ホーン、まだ生きてるの?」

「わからねえ。あいつのことは謎だらけだ。

 だが角のある馬と言ったら、奴しかいないな」

「知っているんですか?あれがだれだったのか」

 ルオーは驚いて尋ねた。


 ライラはルオーの寝台の端に座り、掛け布団を直してやる。


「疲れてない?長い話よ。聞く?

 人間が始めてここへやって来た頃からの話」


 無言で頷くルオー。





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